〈高市首相は35分、習近平は国賓待遇〉トランプが見せた「二つの顔」…米中が“対日戦の共闘”を確認、露骨な日本はずしの内幕

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9月22日、ニューヨークでトランプ大統領と机を挟んだ高市早苗首相だが、目立った新たな成果は乏しく、後に明らかになったのは、トランプ氏が円安への懸念を示したことくらいだった。その翌日、トランプ氏はワシントン郊外のアンドルーズ統合基地に足を運び、専用機のタラップの下で習近平国家主席を出迎えた。米大統領は通常、外国首脳をホワイトハウスで迎える。空港での出迎えは、近年ではローマ教皇などごく限られた例しかない異例の扱いだ。そこから歓迎式典、晩餐会、茶会、国立公文書館の見学まで、中国国家主席としては実に10年以上ぶりとなる国賓待遇のフルコースが続いた。片や約35分の会談、片や国賓晩餐会。だが、この週に日本が味わった屈辱は、扱いの差だけではなかった。

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米政府の公式文書に書き込まれた文言

ホワイトハウスでの習氏の歓迎式典。トランプ氏は、米中が共通の利益を追い求め、第2次大戦では「同盟国にさえなった」と語った。その象徴として挙げたのが、フライング・タイガース(飛虎隊)だ。旧日本軍と戦う中国を支援するため、米国人パイロットが加わった航空部隊である。

習氏も、両国が「ファシストの侵略者」と戦った歴史に触れた。

この言葉は、式典の場限りのものでは終わらなかった。ホワイトハウスが会談後に公表した成果文書(ファクトシート)には、「両首脳は、米国と中国が第2次大戦で同盟国であり、勝利のために肩を並べて戦ったことを振り返った」と明記された。歓迎のあいさつが、米政府の公式文書に書き込まれたことになる。

対日戦の記憶を、現在の米中の結び付きを語る材料に

ただ、この歴史には複雑な背景がある。フライング・タイガースが支えた中国政府は、蔣介石率いる中華民国だった。現在の中華人民共和国が成立したのは戦後の1949年で、内戦に敗れた国民党政権は台湾に移った。

つまり米政府の文書にある「中国」は、歴史的には当時の中華民国を指す。トランプ政権は、結果として、現在の中国と台湾の対立につながる複雑な歴史には触れないまま、習氏との「共闘」の歴史が文書に残された。

日本にとってより重いのは、米中両首脳が対日戦の記憶を、現在の両国の結び付きを語る材料にしたことだ。その夜の晩餐会で、習氏の言葉はさらに具体的になった。

「ファシスト」が「日本軍国主義」に変わった夜

中国外務省が公表した乾杯のあいさつで、習氏は「中国と米国の人民は、日本軍国主義の侵略者との戦いで肩を並べた」と述べた。

ヒマラヤ越えの空路「ハンプ・ルート」を共に切り開いたことや、中国側が多くの犠牲を払いながら米国人パイロットを救出したことにも触れ、戦時中に築かれた友情は世代を超えて受け継がれると語った。

歓迎式典では「ファシストの侵略者」と語られた相手が、晩餐会では「日本軍国主義の侵略者」と名指しされた。米大統領が米中の戦時協力をたたえた日に、中国の指導者はホワイトハウスで、日本との戦争を両国共通の記憶として語ったのである。

中国は高市政権の防衛政策を「新たな軍国主義」と結び付けて批判してきた。日本側は今年5月、この批判に反論している。

そうした経緯を踏まえれば、晩餐会での言葉を歴史だけの話として聞き流すのは難しい。中国にとっては、米政府の文書が裏付けた「米中共闘」の物語という、対外発信に使える材料が一つ増えたとも言える。

習氏は米国との関係を温める場で、日本との過去を持ち出した。米国には共に戦った相手として語りかけ、日本には戦争の記憶を突き付ける。二つのメッセージを一つの乾杯の言葉に込めたようにも映る。

東京が警戒した台湾を巡る取引

高市氏が米中首脳会談の前にトランプ氏と会った背景には、台湾問題を含む対中政策への日本側の懸念があった。

台湾海峡の緊張は、日本の南西諸島の安全や海上輸送路に直結する。中国の求めに応じて米国が台湾を巡る立場を変えれば、その影響は日本にも及ぶ。

東京にとって重要なのは、米中の関係改善そのものより、その過程で日本の安全保障に関わる問題が取引されないかどうかだった。

会談で習氏は、米国が「台湾独立に反対する」と明言するよう求めたと報じられている。トランプ氏が応じた形跡はなく、成果文書にも台湾への言及はない。少なくとも文書の上では、米国は北京に新たな約束をしていない。

気がかりなのは、台湾向けの武器売却の扱いだ。約140億ドル規模の台湾向け武器売却案は、米政府による承認が保留された状態にあり、トランプ氏自身がこれを中国との「交渉材料」になり得ると語っていた。ルビオ国務長官は、遅れの理由を米国の兵器生産を巡る事情だと説明している。

台湾を巡る基本方針が変わったわけではない。だが、武器売却が対中交渉の駆け引きに使われるなら、米国がどこまで台湾を支えるつもりなのかは外から読みにくくなる。北京に譲歩したのかどうかが不明瞭な状態で、日本を含む周辺国の不安を生んでいる。

成果文書にみる「米中が優先したもの」

高市氏は昨年11月7日の衆議院予算委員会で、台湾有事について、戦艦を使った海上封鎖など武力行使を伴うケースでは、日本の「存立危機事態」になり得るとの認識を示した。ただし、実際の認定は個別具体的な状況に応じて判断するという、従来の政府見解に変更はないと説明している。

日本が安全保障上の重大な問題と捉える台湾を、米大統領が中国との交渉でどう扱うのか。今回の会談を巡る最大の焦点はそこにあった。

米中首脳会談に先立つ9月21日、日米韓の外相はニューヨークで会合を開き、会談後の三カ国共同声明で、両岸問題の平和的な解決を求め、一方的な現状変更の試みに反対する立場を確認した。日米首脳も、中国を巡る問題で緊密に連携することで一致している。

ここで問われるのは、事前に確認した原則が、米中首脳同士の交渉の場でどこまで重みを持ったかだ。

成果文書を読むと、米中が何を優先したかが見えてくる。

米政府がAIに代わる呼称として採用した「超知能(SI)」のリスクと利点を話し合う米中対話の設立。中国による米国産石炭の2027年、28年それぞれ1000万トン以上の輸入。

イランに核兵器を持たせないことや、国際水路での通航料徴収を認めないことの確認。国際水路の項目はホルムズ海峡を念頭に置いたものとみられ、エネルギーの多くを中東に頼る日本の利益とも重なる。

日本へのレアアース輸出は、中国による規制の影響を受けてきた。米中の間でも、レアアースの供給は貿易交渉の重要な争点だ。成果文書は、レアアースなど重要鉱物の供給不足を巡る米国の懸念に「引き続き取り組む」と記すにとどめた。規制の扱いがどう決着するのかは、日本向けを含めてまだ見えない。

中国が米国との協議では規制の扱いを交渉しながら、日本には厳しい姿勢を続けるなら、日本は米中双方の思惑に左右される。

米中の合意が日本向けの供給改善につながるのか。それとも米国向けだけが優先されるのか。日本にとっては、首脳同士の演出以上に、その結果を見極める必要がある。

レアアースは製造業を支える資源だ。供給を絞られた側は、在庫や代替調達先を探しながら先行きを見通さなければならない。供給する側は、規制を緩めること自体を交渉の成果として示せる。中国が同じ資源を相手ごとに異なる外交カードとして使えるなら、日本の企業活動も米中交渉の結果に左右されかねない。

習氏はワシントンで国賓として迎えられ、米中が日本と戦った歴史を両国の友情の象徴として語った。その歴史は、米政府の成果文書にも書き込まれた。

日本の利害を守る約束はどこまで確かなのか

日米首脳は事前に協議し、日米韓は台湾海峡を巡る原則も確認している。だが、台湾への武器売却やレアアースなど、日本の安全と経済に深く関わる問題が米中交渉の議題になっていることも見逃せない。

米中両首脳は年内に、中国が開催国を務めるアジア太平洋経済協力会議(APEC)と、米国が議長国の20カ国・地域(G20)首脳会議で、互いの首脳会議に出席する意向を示した。両方が実現すれば、今年の対面は計4回となる。

中国にとって、日本への強い言葉と米国への笑顔は両立する。米国にとっても、日本との同盟を重視することと、中国との取引を探ることは両立し得る。その間に生じる隙間を、日本は気にかけずにはいられない。

日本が抱える不安は、歓迎行事の華やかさでは測れない。米中の接近が進むとき、日本の利害を守る約束はどこまで確かなのか。今回の会談は、その問いを改めて突き付けた。

文/東銀座コンフィデンシャル