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 放送番組のネット配信開始を来年度に控えるNHKで昨年末、そのグランドデザインを描いた実力者が懲戒処分を受けていたことが分かった。エリート街道を歩んできた人物は、なぜ道を踏み外したのか――。

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 その発表がなされたのは、暮れも押し迫った12月25日のことだった。

NHKは、経営企画局の50代専任局長とコンテンツ戦略局の40代副部長を、同日付でそれぞれ停職3カ月・降格と、停職1カ月の懲戒処分とした旨を明かしました。専任局長が知り得た人事などの機密情報を、業務上の必要性や権限のない副部長と共有したというのが理由。外部への流出は確認されていないものの重大なコンプライアンス違反であるとし、厳正に対処したというのです」(全国紙デスク)

局の行方を左右するポジション

 突然の発表に、局内では衝撃が走った。というのも、

「この専任局長というのが、人事局の専任局長も兼ねる実力者の市川芳治氏だったからです」

NHK

 とは、局内の事情に通じる関係者である。何しろ、

「市川氏は、NHKの番組ネット配信を任意業務から必須業務へと格上げさせるために不可欠だった放送法改正(昨年5月に成立)という大プロジェクトを切り盛りし、またネット参入によって公共インフラ化を進める上での大義名分となる『情報空間の参照点』というキーワードを考案するなど、今後の局の行方を左右する司令塔ともいえるポジションにありました」(同)

 とのことで、

「本人は東大教養学部を卒業後、1996年に入局。以来、おもに総務畑を歩み、報道や制作といったセクションにはほとんど縁がありませんでした。その一方、英国のロースクールを修了するなど法律に精通しており、これまで東大や慶大で客員教授や非常勤講師を務め、専門書や論文も多数執筆しています。総務省とも太いパイプがあり、放送法改正の際には大いに役立っていました」(同)

スーパーエリートはなぜ

 今回は、あくまで局内の不祥事なのだが、

「通常であれば処分の公表も微妙なケースである上に、数段階降格というのだから極めて異例です」(前出の関係者)

 スーパーエリートはなぜ、かくも苛烈な処分を受けるに至ってしまったのか。

「市川氏が機密情報を漏らした相手は、親密な間柄にある女性副部長でした。肝心の内容は、ある番組が今後どうなるか、あるいは公表前の予算や人事などの情報と共に、“どこの部の誰々はパワハラ癖がある”“地方局時代に不祥事を起こした”といった、局員の『注意情報』も含まれていたとみられます。聞かされたところで相手の女性副部長に特段のメリットはありませんが、市川氏はこれらを直に伝えたり、社用のスマートフォンに入っているTeamsなどのアプリを用いて送ったりしていたのです」(同)

「スマホ自主点検」で

 参考までに両者はいずれも既婚者で、副部長の夫は同じ局員だという。漏えいされた情報はざっと数百件に及んだといい、

「受け取った女性も、周囲に“私はこんな話を知っている”と、得意気に吹聴していました。内々に調査が進められ、昨年12月12日からは職員のスマホの自主点検も行われました。そもそも社用スマホには自主点検アプリなるものがインストールされており、職員が外部に情報を漏らしていないか、あるいはゲームなど不適切なアプリが入っていないかなどがチェックされるのです」(前出の関係者)

 それとともに、こうした局内の一斉点検も定期的に行われるといい、

「今回は市川氏の所属する経営企画局を皮切りに始まっており、彼を狙い撃ちする意図がうかがえます。実はこの“漏えい”については、相手の副部長とは別の女性職員が事前に察知しており、市川氏への反発もあって上層部に通報したといわれています。市川氏と副部長は、事前に証拠をすべて握られた挙句、不正を認めさせられたのです」(同)

停職明けの処遇も見通せない

 加えて、局内の“力学”も災いしたという。

「市川氏の後ろ盾となっていたのは直属の上司である竹村範之専務理事。おかげでネット配信の指針作りなどで権勢を振るうことができたわけです。報道畑の人たちは、彼が重用されるのを苦々しく感じていたといいます」(前出の関係者)

 放送法改正に伴い、ネット上のサイト「政治マガジン」「事件記者取材note」などは閉鎖されたのだが、

「こうした方針を打ち立て、報道セクションに冷淡な対応を取ってきた市川氏へ“反対派”が一矢報いたといえます。業務用パソコンとスマホを押収された市川氏は先月中旬から出勤しておらず、停職明けの処遇も見通せません」(同)

上層部に聞くと……

“更迭騒動”について局上層部に尋ねたところ、

「(処分の“政治的背景”は)そういうことは全くないです」(竹村専務理事)

「この件はちょっと、あの、えー控えます」(井上樹彦副会長)

 と言うのみ。NHKに尋ねると、

「処分に関する詳細は、回答を控えます」(広報局)

 ともあれ、こうした人物が受信料を原資に「改革」を先導していたのだから、何をか言わんやである。

週刊新潮」2025年1月16日号 掲載