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ホストクラブの女性客が、売掛金(ツケ)を支払うために売春や風俗店勤務を強いられる「悪質ホスト問題」が明るみになる中、注目すべき刑事裁判があった。

東京・秋葉原にあるメンズコンセプトカフェの店長が、女性客に売春をさせて、その報酬の一部から酒代として現金23万円を受け取ったとして、職業安定法違反や組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)に問われた裁判だ。

東京地裁の江口和伸裁判長は11月8日、懲役1年6カ月、執行猶予3年、罰金40万円の有罪判決を言い渡した。売春した女性が支払った代金を犯罪収益として摘発するのは、全国初だった。(ライター・渋井哲也)

●メンズエステ店の客と本番行為をさせられていた

検察側の冒頭陳述などによると、メンズコンセプトカフェの店長だった被告人は、女性客Aさんに「バレンタインイベントで、36万円の高級シャンパンを頼んでほしい」「店を辞めるから結婚しよう」と注文を促した。

しかし、Aさんとしては支払いが難しいことから、被告人は、X上でAさんになりすまして、メンズエステのスカウトを探した。そのうえで、Aさんに「本番行為があるから稼げる」と都内のメンズエステ店を紹介したとされる。

さらにAさんが支払ったあと、被告人は「結婚の約束」を反故にしていた。それでAさんが警察に相談したことで発覚した。

被害にあったAさんは、Xで店のアカウントを見つけて客となり、被告人を指名するようになった。Aさんが精神的な問題があることを伝えると、被告人は「オレが支える。唯一の理解者だよ」などと話して、頻繁に連絡していた。

この中で「36万円の高級シャンパンを頼んでほしい」などと迫っていた。Aさんは『被告人のために頑張って働きたい』と思い、被告人から紹介されたメンズエステ店で客8人と本番行為をして、26万6千円の報酬を得た。

●「結婚しよう」は冗談半分だった

判決に先立つ10月8日、被告人質問があった。被告人は店長として酒を発注したり、シフト管理をしていたほか、従業員として接客していた。Aさんは2024年2月ごろまで計15回来店。当初の支払いは1、2万円程度だったという。

「3年間、店で働きました。売り上げをあげたので店長となりました。売り上げの競争はありません。お客さんを満足させるために会話で楽しませます。悩み相談を受けたり、イベントもしていました。イベントで売り上げるためには高級シャンパンを入れてもらいます」(被告人)

検察官:お客さんにお金がないときはどうするのか? 被告人:無理しなくていいよといいます。でも、心の中では「無理してほしい」とは思っています。 検察官:女性に仕事を斡旋することはあるのか? 被告人:まったくありません。

また、「お客さんとは連絡先の交換はしません。店の中で話すだけです」と述べたが、検察側に「連絡先の交換は禁止されているのでは?」と念を押されて、被告人はこう明かした。

「個人的なメッセージは、Xのダイレクトメッセージでしていました。LINEや電話の連絡先の交換はダメですが、Xなら大丈夫ということになっていました」

また、被告人は交際相手と一緒に住んでいながらも、Aさんに「結婚しよう」という甘い言葉をかけていた。Aさんがメンズエステで働く動機であり、警察に被害相談をするきっかけにもなった。

結婚を持ち出したことについて、被告人は「結婚しようと話したことはありましが、冗談半分であり、軽い気持ちでした」と答えた。さらに、メンズエステの仕事を紹介したことについては次のように説明した。

「僕自身は、シャンパンじゃなくてもいいと言っていました。Aさん自身が『シャンパンがいい』と言っていました。Aさんのためでもありますが、自分のためでもあります。本音では心が痛いですが、乗り越えるというよりは、誤魔化していました。Aさんには申し訳ない。もっと良い店を紹介できればよかった。普通の店を紹介すればよかった」

●「二度とホストのようなことをしないように」

検察側は「経済的利益のために複数の売春をさせた。女性客(Aさん)になりすまし、Xでスカウトを探した」と指摘したうえで、今後、被害者を出さないという一般予防の観点などから、懲役1年6カ月・罰金50万円を求刑した。

一方、弁護側は「公訴事実は争わない」としながらも、「被害額は少額で、いわゆる悪質ホスト問題とは違う。彼女と母親が身元引受人だ」などとして、執行猶予を求めていた。

執行猶予付きの有罪判決を受けて、被告人は「今後二度とホストのようなことをしないようにします」と話した。