ロシア政府が「Linuxカーネルコミュニティから追放されたロシア人を中心とする独自の開発コミュニティ」を立ち上げると宣言
by lewing@isc.tamu.edu Larry Ewing and The GIMP
Linuxカーネルの優しい終身の独裁者を務めるリーナス・トーバルズ氏がLinuxのカーネルメンテナーからロシア人開発者らを追放する決定を下した件について、ロシアのデジタル発展・通信・マスコミ省(Minkomsvyaz)がこの決定を「差別的行為」と非難した上で、独自のLinux開発コミュニティを立ち上げるという声明を発表しました。
https://www.rbc.ru/technology_and_media/28/10/2024/671e424c9a7947704249be2c
Linus Torvalds kicked the Russians out of Linux, now they're creating a sovereign Linux community in Russia - Ministry of Digital Development steps in | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/software/linux/linus-torvalds-kicked-the-russians-out-of-linux-now-theyre-creating-a-sovereign-linux-community-in-russia-ministry-of-digital-development-steps-in
この問題は、2024年10月に「様々なコンプライアンス要件」を理由として、ロシア関連のドメインを持つメールアドレスを使っていたりロシアとの関連が指摘されたりしているカーネルメンテナー10数人をMAINTAINERSファイルから削除する変更が提案されたことから始まります。トーバルズ氏はこの提案を指示し、「取り消すことはない」と宣言しました。
「ロシア人がLinuxのカーネルメンテナーを解任されている件」についてリーナス・トーバルズが説明 - GIGAZINE
by TED Conference
ロシアのソフトウェア開発企業・Postgres Professionalの共同創設者であるイワン・パンチェンコ氏は、トーバルズ氏の決定に対して「ロシア人開発者の追放で最も大きな被害を受けるのはLinuxそのものだ。この決定は開発者コミュニティの生活や相互信頼、ひいては製品の品質に悪影響を及ぼすだろう。ただし、ロシアの開発者がLinuxカーネルに貢献した内容は比較的小規模であるため、深刻な事態には至らない」と述べています。
トーバルズ氏の決定を受けて、Minkomsvyazは、「ロシア人のLinuxカーネルメンテナーが追放されたのは、新たな差別行為とみなされる可能性がある。私たちは、私たちと協力する準備ができている国々との協力を強化し、対話を確立することが重要であると考えている」とコメント。「私たちは追放されたメンテナーたちと合意した上で、独自の代替構造を構築する必要がある」という声明をロシアのテクノロジー系メディアであるRBCに発表し、独自の開発コミュニティの重要性を強調しました。
パンチェンコ氏は独自の開発コミュニティの創設について「オープンソースの世界に変化を及ぼす」との認識を示し、この変化がロシアと国際コミュニティの双方にマイナスの影響を与える可能性があると警告しています。その上で、「独自の開発コミュニティの構築は、特に技術的主権に必要不可欠なシステムコンポーネントの開発という観点から、国家の優先事項とすべきだ」と主張しました。
ただし、この代替コミュニティの創設については急に決まったためか、Minkomsvyazは具体的にどの国と協議を行っているかを明らかにしておらず、発表の段階では具体的な協力国がまだ確定していない可能性があります。パンチェンコ氏は、潜在的な協力国として中国の可能性を指摘していますが、中国が自国の技術をロシアと共有する意思があるかについては疑問視しています。
また、独自の開発コミュニティを創設するということは、実質的にLinuxカーネルのフォークを立ち上げることを意味します。パンチェンコ氏は「オペレーティングシステムカーネルのフォークに対して完全な責任を持てるほどの高度な開発者がロシアには十分にいないという重要な課題が残されている」と指摘し、人材育成の緊急性を強調しました。