「癇癪持ちで束縛癖がある妻」と“離婚させてもらえない”夫。法律の専門家が授けた“作戦”を決行した結果
拓真さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは2019年。妻の行き過ぎた言動に対して堪忍袋の緒が切れたタイミングでした。「妻と別れたいと思っています。どうしたらいいですか?」と頼まれたのですが、正直なところ、妻の性格を考えると拓真さんがいくら頭を下げたり、強い言葉を使ったり、誠実に訴えかけても……今のタイミングではどんな工夫をしても妻が承諾するとは思えませんでした。
提案したのは誓約書を記入させることです。本来、誓約書とは夫婦がやり直すための方法ですが、今回は逆です。最初から奥様が誓約書を守れるとは思っていません。守れなかったときに離婚できるようにするためです。そこで誓約書に「守れなかったら離婚する」という1文を入れます。そして後日、妻が約束を破ったとき、誓約書を突き付け、「それじゃ離婚ね」と言えば、妻が承諾する確率は今現在よりずっと上がるでしょう。
誓約書を用意した上で拓真さんは妻との話し合いにのぞみました。「何回同じことを言っても、同じことの繰り返しじゃないか!」とぶちまけたのです。妻は相変わらず「ごめんなさい。私が馬鹿だからいけないのよね。もう、あなたを怒らせたりしないから…信じて!」としおらしい態度をとるのですが、この手のやり取りは過去に何度も行いました。
そこで拓真さんは「今まで口約束で終わらせてきたじゃないか。今回もそれ(口約束)じゃ信じるのは無理だよ……例えば、一筆交わすとか」と提案しました。
◆「妻が守らなければならない内容」を誓約書に盛り込んだ
「こうやって頭を下げているのに信じてくれないの。私たちは夫婦じゃないの?」と不信感を示したのですが、拓真さんは「悪いけど、一筆を書いてくれないと離婚を考えなくちゃいけない。僕はそこまで覚悟して今日、こういう話をしているんだ」とダメ押しをしたのです。誓約書に盛り込んだのは以下の3点ですが、いずれも妻が守らなければならない内容です。
1.出張中にやむを得ない場合を除き、「帰ってきて」と連絡しないこと
2.一人で自宅にいるときに、備品等を破損しないこと
3.夫婦で決めるべき事項について、前もって母親に相談しないこと
上記1から3の1つでも守れなかった場合は離婚することに承諾します。
妻は「そこまでしなくちゃいけないの?」と怖気づいたのですが、拓真さんが「誓約書を守っている限り、二度と離婚の話を切り出したりしない。安心してくれ」と念押ししたので、妻は渋々と記入したのです。
もちろん、誓約書を役所に持ち込んでも離婚したことにはなりません。正式に離婚するには誓約書ではなく離婚届に署名をもらう必要があります。妻が離婚届に署名するよう説得するために誓約書を使うという位置付けです。このときは「どうせ守れないだろう」と軽く考えていました。
◆妻が外で働き始め、事態は好転
夫婦の関係はこのまま悪化の一途を辿るかと思いきや、思わぬ幸運が訪れました。2020年、妻が外で働き始めたのです。夫婦の子どもが中学校へ入学すると、妻の方から「家計の足しになれば」と切り出したのです。拓真さんは「嬉しいけれど、今まで働いたことがないし、難しいんじゃないかな」と答えたそう。実際のところ、妻は結婚してから13年間、ずっと専業主婦。少しも働いたことはなく、仕事の経験値がないに等しいし、これといった資格やスキルもありません。
実際のところ、この年の有効求人倍率は1.10倍。前年(1.55倍)を0.45ポイント下回り、コロナ不況の影響をもろに受けていました。
しかし、拓真さんの予想は良いほうに外れました。人材派遣の会社が妻を採用したのです。当時は新型コロナウイルスが蔓延した1年目。消毒の徹底やソーシャルディスタンスの確保など感染対策が厳しくとられていた時期でした。妻に与えられた仕事はサッカーや野球、コンサートの会場でマスクを着用していない人に対して「マスクの着用をお願いします」と声かけをすること。