藤原道長役を演じる柄本佑さん

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『あさイチ』プレミアムトークに柄本佑さんが登場。丸坊主の姿に一同驚愕!まさに光る君です…とスタジオを和ませた。髷も自前でと決めていて、伸ばしていた髪をバッサリ、寒さを感じたと語る柄本さん。撮影がクランクアップした今、長かった道長としての日々を振り返っていました。撮影中のインタビューを再配信します。********現在放送中の第63作目となる大河ドラマ『光る君へ』。平安時代に、千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた紫式部/まひろ(吉高由里子)の生涯を描いている今作で、藤原道長(ふじわらのみちなが)役を演じているのは、柄本佑さん。幼い頃に、三郎としてまひろに出会い、特別な絆が生まれたふたり。道長は、若くして政権の中心に躍り出て、長女・彰子(見上愛)を一条天皇に入内(じゅだい)させ、平安の貴族社会で最高の権力者に。のちにまひろの『源氏物語』の執筆をバックアップし、宮中への出仕(しゅっし)を勧める道長をどんな思いで演じているのか、柄本さんが語ってくれました。(取材・文・構成=かわむらあみり)

【写真】まひろと道長、共に朝を迎えた2人…

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三郎の部分を大事にした藤原道長像

藤原道長を演じるにあたって、当初は世間的に思われている“ちょっとヒールな要素のある道長像”よりも、かなり“人間味あふれる人物像”として、道長役をスタートしました。藤原兼家(段田安則)を父に持ち、長兄・道隆(井浦新)、次兄・道兼(玉置玲央)は積極的に政治に関わっているけれど、三男坊の道長はそんなに前のめりではない。幼い頃は兄の陰で目立たず、のんびり屋な性格という、三郎としての部分が大事だと感じています。

最初の打ち合わせの時に、新たな道長像を描きたい、と言われて。さらに大石静さんが書いてこられる台本は、『光る君へ』の中での道長はこういう人である、という説得力はもちろん、非常にしっかりとした強度がありました。そこを最初から信頼して、100%その道長像をやることを出発点にしています。世間ではもっと道長は政治的な思惑があり、露骨に動いていた人物だと考える方もいるかもしれませんが、この作品において道長は、とにかく自分の家族を政(まつりごと)には絶対関わらせたくないというところから入っていて。

ただ、陰陽師の安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の進言や、姉の詮子(吉田羊)から「あなたも血を流すべきよ」というようなことを言われてやるとことになったからには、とにかく娘に幸せになってほしいと願う、地に足のついた思いが道長にはあります。外から見たらひどいことをやっているように見えるかもしれないですが、本人は必死に幸せを願っている、真っ直ぐな人というだけなんですよね。

今(取材は7月下旬)は、いよいよ最終章に入る手前のところまで、撮影が進んでいます。中盤では、心配してくれていた姉の詮子までいなくなって、道長は一人になっていろいろな悩み方をしていてとにかく家族の幸せとまひろとの約束を果たすために、道長はまだ悩んでいますね(笑)。最終章の入り口を今撮影していて思うことは、最初に感じていた“三郎としての人間性”のようなところが、より大事だということです。

というのも、道長は政治のトップであって、意見しなければいけなかったり、さまざまな謀(はかりごと)をしなければいけなかったり。今まで演じてきた道長とは、少し乖離した部分が現れてきていたのを自分でも肌で感じるんです。そうした時に、道長は今この地位にいるけれども、もともとは三郎である、というところでやはり変わらないのだと。最近になって、よりそのことを意識するようになりました。


(『光る君へ』/(c)NHK)


(『光る君へ』/(c)NHK)

吉高由里子さんには懐の深さを感じる

そんな道長は、まひろにだけ、本気を出せるんですよね。愛し合うということにしても、憎み合うということにしても、弱みを見せられるということにしても、何にしてもできる相手。だからこそ、良くも悪くも歪みあったり、怒り合あったり、極端な話でいえば本気で決別できたり。中途半端がないところが、ソウルメイトという関係性といえるのだろうと。

まひろは、道長の子どもをなすわけですが、この展開は現場で大石静さんや制作統括の内田ゆきさんから、風の便りを含めて聞いていたような気がします。いざこの展開となった時には、まさかと思いながらも、このチームはそういうことをするんだという、覚悟を感じずにはいられなかった。決断したこのチームに勇気をもらいました。

第28回で道長が倒れた際、嫡妻・源倫子(黒木華)ともう一人の妻・源明子(瀧内公美)のやりとりが注目されたそうで、昨日もそのシーンと関連するところを撮っていたんですが……まあ、鈍感ですよ、道長は。やらかしています(苦笑)。そこに関しても、プライドを持つことなく、それこそ三郎ののんびりしたところが悪いほうに出ているかもしれないけれど。自分なりには、楽しみながら演じている部分でもあります。

まひろ/紫式部役の吉高由里子さんには、やはり懐の深さを感じますね。まひろと道長の長くて強度のあるシーンが時折出てきますが、セリフのやりとりから、大石静さんが書かれるト書きで「……」としか書かれていなところに対して、「こういう風な表情をされるんだ」という新たな発見もあって。それならば道長はこういう表情になるかな、と大石さんの台本が導いてくださるところに吉高さんの具体的なお芝居を見て、またさらに新たなところに連れていってくださるので、本当に引っ張っていってもらっているところが非常に大きいです。

大石さんの台本には、「……」という表現が多いのですが、「……」のあとには(○○という気持ち)と、気持ちの方向を示してくれている部分があって。ここを好きに表現していいというよりは、ここはこっちですよ、と一つずつ丁寧に言っていただいている感じです。だから、僕らはそれを大石さんからの挑戦状のように受け取る時もあって、役者としては挑戦しがいがありますね。

娘のために「源氏物語」をまひろに依頼

第31回で道長はまひろに一条天皇に献上する物語の執筆を頼みますが、政治に意識は向いてはいるけれども、それよりも家族の幸せを考えたうえで、お願いしにいった気がしています。まひろの前でだけは唯一情けなさも見せることができるから、「一条天皇が彰子のところに行ってくれないんだ!」とすがるような思いでいて。何とかしてくれないかと言えるのは、まひろしかいない。だから、今考えてみると、道長は非常にパパをしています。

そんなところから政治につながるので、臆すことなく振り切って演じて、もうめっちゃパパしてやろうと思ってやっていたような感じがします。「うちの娘のために」と、頼みに行くといいますか。できあがった物語が成功するか否か感想をまひろに話すんですが、正直に道長は「かえって帝のご機嫌を損ねるのではないか」と言っているんですよね。でも、とにかくお前は最後の一手なんだ、と。今までの関係を決算するようなことがあり、さて次に進もうという道長とまひろの印象的なシーンもあって。僕もまだ見ていないので、楽しみにしています。

まひろと道長が月を見上げてセリフを言うシーンもあるのですが、道長は非常に真っ直ぐな人だと思っているので、きっと道長はまひろへの思いを吐露したのではないかと。あと散楽の一員・直秀(毎熊克哉)のことに思いを馳せるようなセリフも出てきたり。撮影が大変だったので、これも印象深いシーンになりました。


(『光る君へ』/(c)NHK)

『光る君へ』の撮影に入って、1年と少し経過しました。現段階では、まひろが内裏(だいり)に上がって「源氏物語」を書くところまではオンエアされていませんが、撮影では今ものすごく書いていて、めっちゃ紫式部ですよ(笑)! 吉高さんが筆の練習をしていたんですが、女房装束で座っていて。これからその書き姿がドラマの中にいっぱい出てくると思いますけども、シルエットから何から、紫式部そのものなんです。その姿を最初に見た時に、衣装の着こなしも非常に美しいのですが、それ以上に、紫式部としてどんどん奥が深くなっている感じがしました。

まひろが本気で「源氏物語」に取りかかっている。その表情と目線との芝居のやりとりの時は、ちょっと気を抜いたら道長がタジタジになってしまうぐらいの強さです。とてもすごいことになっているので、ぜひお楽しみにしていてください。

全部の台本を読み切ったら見えてくるもの

物語が進むにつれて、まひろと道長の関係が変わってくるんですが、今までのように離れている時間がふたりの思いをどう埋めるのか、ということとはまた違うようになっていく。まひろが内裏に入り、道長との距離も近くなっていきます。

その信頼関係から、これまで築いてきたものが今までとは違う、落ち着いた形になっている。ふたりの絆が強硬になっている印象があります。

道長は、まわりからは父の兼家と同じように見られることもありますが、「父と同じことはしたくないんだ」と言う場面がいくつか出てくるんですよね。同じことをしていても気持ちが違う、出発点が違う。民のためによき政をするために、結果的に同じことをしているがしたくない、その整合性をどう保つか、自分なりに考えています。

道長の旅路は、まだ途上。今、物語の終盤を撮影していて、道長はまだバタバタしているので、全然落ち着きません(笑)。正直なところ、全部終わってみないと、道長がどんな気持ちに辿り着くのかわからない。全部の台本をいただいて、読み切って、落ち着いてきた時に、僕自身も道長について見えてくるものがあるのかなと。今から、その日を楽しみにしています。


(『光る君へ』/(c)NHK)