紫綬褒章を受章する将棋の渡辺明九段=2024年11月1日午後3時25分、東京都渋谷区の将棋会館、北野新太撮影

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 平成の棋界を牽引したことで知られる将棋の渡辺明九段(40)が紫綬褒章を受章することが2日、発表された。

 将棋棋士として6年ぶり16人目、最年少での褒章受章となる。「想像していないことだったので、率直に驚きました。先輩方と比べて自分が若く受章する理由はほぼないので。(将棋人気の)波に乗らせていただいた結果なのかな」。ストレートな物言いを好む人ならではの感想を口にした。

 加藤一二三、谷川浩司、羽生善治に続く4人目の中学生棋士に。20歳から竜王を9連覇するなど、歴代4位のタイトル獲得通算31期を重ねた。

 周到な事前研究を先鋭化させた戦略家。堅牢な自陣を築き、巧妙に攻めをつなぐ棋風は平成後期の流行を牽引(けんいん)した。

 AIによる盤上技術の革新を受けて30代半ばに一時低迷したが、棋風改造によって復活した。2020年、初の名人に。以降3連覇を飾った。

 「20代の頃は本当にがむしゃらにやっていた。30代からは追われる立場になって。40代と50代で活躍するのは大変だなっていうのは実際なってみて感じる。羽生世代を中心に自分より一回り以上の先輩方がまだ活躍されているので、同じような年齢まで活躍したい気持ちはあります」

 藤井聡太名人には過去6度のタイトル戦に全て屈している。昨年の名人戦でも敗れ、19年ぶりの無冠に転落しただけに、雪辱は今後の棋士人生に残された大きな宿題になる。「自分が元々いたポジションに戻ることを諦めているわけじゃない。研究への熱量は変わらないです。何をしていけばいいか考えてやっていきたい」。今年も王位戦で挑戦者になるなど頂点への返り咲きを見据えている。

 大棋士たちがまとってきた孤高の風情とは対極の人柄。若手の兄貴分的存在で棋界地図の中心にいる。ぶっきらぼうを装いながら、実のところは朗らかな人情家でもある。競馬、カーリング、ぬいぐるみなど趣味人の顔も持つ。

 妻は漫画家の伊奈めぐみさん。夫の日常をコミカルに描いた「将棋の渡辺くん」は累計50万部を超え、藤井名人も愛読している。(北野新太)