求めている人生は、到達したときにはもうそこにはない(写真:d-daystudio/PIXTA)

望みどおりの人生の妨げになるのは、「未来の自分」が他人に思えてしまうこと――。私たちは「未来の自分」ともっと仲良くなり、大切にすべきである。

UCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメント心理学教授のハル・ハーシュフィールドは、心理学から見た「幸せな人生のつくり方」を、このように言う。

彼の著書『THINK FUTURE「未来」から逆算する生き方』が、今、全米でベストセラーになっている。

ハーシュフィールドによると、多くの人は「今の自分の状態が未来も続くとはかぎらない」という事実に、あまりにも無自覚だという。「未来の自分」が、何十年後も変化しないだろうと思ってしまい、熟慮しないことがネックなのだ。

本書の日本語版へ解説を寄稿した起業家のけんすう氏も、自身の20代を振り返ってそのことを実感するという。けんすう氏の担当編集者である箕輪厚介氏と対談してもらい、「人生を充実させるための考え方」を聞いた。若くして成功した起業家と破天荒な編集者の、意外な40代とは。全4回でお届けする。

前回の記事はこちら。
第1回:「40歳までには死んでる」と見積った若者の盲点

人生設計をミスらせるバイアスとは?


箕輪厚介(以下、箕輪):けんすうさんは未来のこと考えたりします?

けんすう:「何をしてるか」は予想できないと思っていて、でも自分の本にも書いたように「こうありたい」っていう「状態」はあるんですよね。

箕輪さんの「リリー・フランキーみたいになりたい」っていうのも、「みんながワーワー言ってるのをとりなす」みたいな「状態」じゃないですか。

箕輪:たしかにね。僕はあんまりまじめにがんばらないんだけど、唯一、誕生日とか年末年始に目標を言語化することはまじめに続けてきたんです。それが20代のころはずっと「数字」だったんですよね。「何十万部のヒットを出す」とか「お金をこれくらい稼ぐ」とか。

けんすう:でも今は、あまり数字にこだわらなくなってる?

箕輪:数字の積み上げはもういいかな。「何十万部のヒット」みたいなことを繰り返したところで、(幻冬舎社長の)見城さんは喜ぶだろうけど、俺の幸せは変わらないだろうなって。だからやっぱり、「こういう人間でありたい」とか、「こういう感じの日々でありたい」という「状態」を欲するほうに向いてますね。

目標が単なる数字の線形になる

けんすう:本書では「将来の見積もりミス」の原因として、3つのバイアスというのが挙げられています。1つめは「今の自分の感情にとらわれすぎること」、2つめは「課題を深く考えないゆえの(楽観すぎる)先延ばし」、3つめは「今と未来の自分は違う可能性が認識できない(永続性の)勘違い」です。特に3つめは、若いころはめっちゃありますね。

箕輪:うん、つい若いままの感覚で将来設計しちゃうんですよね。

けんすう:たとえば現時点で「数字を上げたい」と思っていたら、自分が将来にわたってずっとそう思ってるだろうと思い込んでしまう。そうなると、20代で「来年は年収500万円」と思っていたら、「30年後は5000万円だ」みたいに、目標が単なる数字の線形になっちゃうんです。これは将来設計を壮大にミスってるなと思いますね。なぜなら、年齢が上がるにつれて大事なものって変わっていくから。

箕輪:あるある。

けんすう:僕、20代くらいのころに書いた「将来の目標」みたいなメモを見直したことがあるんですけど、「年収2000万円」「Photoshopを使えるようになる」とか書いてあって、「あれ、俺ってPhotoshop使えるようになりたいんだっけ?」と。当時はそういうのが重要度高かったんでしょうけど。

箕輪:めちゃめちゃわかります。僕なんか「『氷結』のロング缶を買うかショート缶を買うかで悩まないようになりたい」って思ってましたね。数十円の差で迷ってる状況を変えたかった。マジでお金なかったんで、そのころは本当に数字にとらわれまくってました。今、思い返すと、あれはいったい何だったんだろうと。

人生で一度は死ぬほど仕事する

けんすう:要は、今、目標としてあるものが、必ずしも将来の自分が欲しているものとはかぎらないんですよね。でもそれは未来になってみないとわからない……なんて身も蓋もない話になっちゃいますけど、じゃあ、今、何をしたらいいのか。若い人たちに向けて、箕輪さんから何かアドバイスあります?

箕輪:うーん。やっぱり、一回死ぬ気で仕事しといたほうがいいですね。今はぜんぜん流行らなくなってる考え方ですけど、これ言わないのも無責任だなと思うようになりました。世の中って結局、特に労働に関しては昔と大して変わってないし、ベーシックインカムなんかも現実的にはまだ先のことだから、一度もがんばらずにゆるく生きてたら、当然のように貧乏でつらい未来になると思うんです。だから、とにかく自分が得意なことや好きなこと――自分的に一番比重をかけられるところに、極端なくらい時間を投じ続けるしかないですよね。

けんすう:たしかに。仕事って福利が大きいですからね。40歳以降は体力的にそんなに働けなくなるうえに、信用や実績といった資産がないと仕事が来なくなっちゃうから、30代前半くらいまでは、そういう資産をがんばってつくらないと。

箕輪:ほんと、そうだと思う。

けんすう:でも、これを言うとネットですごく嫌われるんですよ。

箕輪:そう、嫌われるんだけど、やっぱり現実問題として間違いないと思う。自分のまわりを見ても、同世代でいい感じで文化的なノイズも入れながら楽しく仕事してる人って、20代のころにちょっとバランスを欠いて働いてた人なんですよ。世間的には「仕事に忙殺されず、本などを読みながら豊かに生きよ」みたいな本(『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』)がベストセラーになっていて、みんながそこに共感するのも、「忙しすぎること」が社会的な問題であることもわかるんだけど、20代初期からワークライフバランスを取って、その調子でずっと働くって、40代以降はかなりきついはずですよ。

けんすう:そうですよね。ある程度、必死に働かないと何も積み上がっていかないから、40代なのになにもない人みたいになっちゃう。だから、ずっと死ぬ気で働くということじゃなくて、若いころにそういうフェーズを経ることが大事なんじゃないかってことですね。

人生を形作る3つの「資本」

箕輪:前に作家の山口周さんが言ってたのは、みんな最初は「時間」という資本しかなくて、それを適切に大量に使うと「人的資本」になる。要は能力とかスキルが身に付くんだけど、たいていの能力やスキルは代替可能で、年収でいうと天井がある。だから、ただ高いスキルや能力があるだけじゃなくて、「自分」という人間に紐づいた「社会資本」を得ていくのが理想的な成長過程である、と。

けんすう:社会資本っていうのは、「この人、おもしろいよね」とか「この人だからお願いしたいんだよね」と思ってくれる人がいるってこと。

箕輪:そうです。だから、難しいし運も多少は関係するだろうけど、若いころは「めちゃくちゃ働く」っていうフェーズを経て、最終的に社会資本を獲得していけたらいいですよね。僕だって、若いころに仕事をがんばることで何を得たかっていったら、やっぱり同じくらいがんばってた人たちとの関係性だなって思いますから。

けんすう:困ってたら「助けたい」と思ってくれる人たちが、箕輪さんのまわりにはたくさんいる。

箕輪:それは、けんすうさんも同じでしょ。お互いに本当にやばくなったら、「どうした?」「何が必要なの?」って言える人たちを得たのが一番ですよね。お金は使えばなくなるけど、関係性はなくならないから。

けんすう:ほんと、そうですよね。たとえば、誰かが体を壊して「でも、少しなら働けます」っていうことになったら、絶対、いい仕事を優先的に回す。それは今までの感謝や信頼があるからで、そういう関係性がいっさいなかったら、いざ困った瞬間に人生詰むってこともありえます。

箕輪:そう考えると、「(スキマ時間のアルバイトを探せる)短期人材派遣サイト」みたいなのはどうかなと思いますね。こういうシェアワーカー的な労働は、基本的に時間を切り売りするだけだから。これはこれで時代が要請しているビジネスモデルだし、そういうサイトはスキルが身に付くって謳ってるけど……。やっぱり、そればっかりやってると何も積み上がらない。人間関係も発展しづらいから、ずっと時間資本しかないことになるんじゃないかと思います。

「今の自分を大事にする」という落とし穴

けんすう:そういう短期バイトは手っ取り早くお金は稼げるけど、何も溜まらないですね。

箕輪:そうそう。要は、時間を何に替えるのか。お金に替えるのは当たり前だけど、それをしながらも自分のスキルに替えるとか、人間関係に替えるとかしないと。100年くらいしか生きられないのに、その時間を、ずっとお金にしか替えないなんて一番もったいないですよね。それに40代を過ぎて「時間」しか自分の売りものがなかったら、かなりしんどいですよ。

けんすう:たしかに。まさに「未来の自分は今の自分と違う可能性を認識できない(永続性の)勘違い」っていうバイアスによる人生設計ミスに陥りますね。たとえば学生アルバイトで月に40万円くらい稼げるからといって就職しなかった人が、それをずっとキープできなかったみたいなケースがありますけど、これなんかも典型例ですよね。体力も含め、時間資本というものが、自分で思っている以上に目減りすることが20代には想像つかない。永続性の勘違い、いや〜、これは本当にやばい。

あと、3つのバイアスのうち「今の自分の感情にとらわれすぎる」っていうのもありがちだと思います。人は「今の自分」をすごく大事にしちゃうんです。リスクを取れなくなって結局は何もしないという選択肢を選び、可能性をせばめてしまう。「自分を大事にしよう」とはよく言われますけど、あまりにもそれにとらわれすぎると、身動き取れなくなっちゃうんですよね。箕輪さんは逆に異常なくらい、いろんな選択肢を試してると思うんですけど、なんでそれができるんですか。

箕輪:僕は、ものすごく自分を俯瞰してるんですよね。仮に20代で死ぬ気で働くのがまったく向いてないなと思ったら、地方に移住して固定費を下げたりして、どんな上場企業の社長よりも俺の生き方のほうがイケてるって思える道を選んでたと思うんです。そんなふうに、いろいろと難しいことがある中でも、今の日本で自分を成功させるゲームとして人生を考えると、選択肢がけっこう増えると思う。

人生を俯瞰する力

けんすう:なるほど、「こいつをどう成功させてやろうか」みたいな視点で、いつも自分を見てるんだ。

箕輪:そうですね。まさに、けんすうさんが『物語思考』で言ってるみたいに、自分というキャラクターを動かしている感じ。僕は性格がひん曲がってるから、ちょっと冷めた目で自分を見て「こっちじゃない、あっちだ」って動かせるのかもしれないけど、人生の可能性を広げるには、やっぱり俯瞰力みたいなものが重要な気がします。


けんすう:俯瞰力、いいですね。たしかに『物語思考』ではキャラを設定して、それを“他人事”感をもって動かすことをすすめてますが、それで言っても箕輪さんはやっぱり無茶苦茶ですよ(笑)。革ジャン着ておじいちゃんたちの前で歌ったりとかも、意味がわからないけど、すごいなと。

箕輪:あれはマジでリスクがあって。みんな足元に杖を置いてるから、つまずいて転びそうになったんですよ。おじいちゃんに覆いかぶさってケガでもさせたら大変だし、大炎上してたでしょうね。

けんすう:それは危ない。しかも、間違いなく炎上ですね。そんなリスクがあった割に、リターンは特にない。

箕輪:そうそう……って何の話だ(笑)。

けんすう:もっと話しましょう。次も乞うご期待ってことで(笑)。

(第2回終わり)

(構成:福島結実子)

(けんすう : 起業家、投資家)
(箕輪 厚介 : 編集者)