10月11日に会見した指宿昭一弁護士(左)と郄橋済弁護士。事件の経緯や幹部男性Aの謝罪文などについて説明した(記者撮影)

女性起業家の支援をうたうベンチャーキャピタル(VC)の社内で起きたセクハラ事件。その後の会社側の対応が「セカンドセクハラ」ではないかと波紋を呼んでいる。渦中にあるのは、国内専業最大手のジャフコ グループだ。

被害を受けたのは契約社員だった女性。10月11日、女性の代理人を務める指宿昭一弁護士と郄橋済弁護士が記者会見を開いた。会見の内容を総合すると事件は次のようなものだ。

2019年12月、オフィス内で開かれた忘年会の後に事件が起きた。帰宅しようとした女性をジャフコ幹部の男性Aが「もう帰るのかよ」と呼び止め、女性のマフラーで首を絞めた。男性社員Bは、その間に女性の体を触るなど強制的にわいせつ行為に及んだ。

「セカンドセクハラ」が起きた?

女性は会社の人事担当に被害を通報。セクハラと認定されたAとBは懲戒処分となった。Aは5営業日の出勤停止と出勤停止期間中の無給。Bは減給という処分だ。

女性によると両名は以前からセクハラ発言などを行っていた。日付が替わった深夜に電話をかけ、酒席に「来ないと仕事に協力しない」などと強引に誘い、女性が1時間かけて拒絶したこともあった。

事件後、三好啓介取締役(現社長)の指示で、Aは全社員の集まる月例会合で謝罪した。ジャフコは名前を明かさないことなどを女性に伝えて会合での謝罪について了承を得ていたとし、再発防止のために必要だったと説明する。

しかし女性は、事件後もジャフコで働くことを強く望んでおり、被害に遭ったことを周囲に悟られたくないと考えていた。「話すこと自体やめてほしい」と要望していたという。

女性は嫌だと言っているのに会社が交渉してくることにも苦痛を感じていた。だが、「具体的内容には触れず、加害者の所属する部員に限定して話す」という条件で渋々承諾したとする。ところがAが謝罪したのは全社員が集まる場だった。

月例会合での謝罪をきっかけに、被害を受けたのは彼女であると社内に広まり、女性の職場生活は一変した。仲良くしていた同僚女性から距離を取られるようになったり、仕事の相談をよくしていた同僚男性から「関わりたくない」と言われたり、孤立を深めていった。

セクハラを申告したことで受ける二次被害をセカンドセクハラと呼ぶ。女性側の弁護士は、まさしくこのセカンドセクハラが起きたと指摘する。女性は、事後対応のつらさから「通報しないほうがよかったかもしれない」と何度も思った。


記者会見で配布された加害男性Aの謝罪文の写し。Aは頭を丸め、Bは女性に土下座して詫びたという(記者撮影)

待っていたのは給与半減

事件から10カ月ほど経った2020年10月。女性は契約更新に向けて面談を数回行った。

その際、ジャフコ執行役員のM氏から、給与の減額を受け入れるか、退職するかを迫られたという。「今後正直にいうと(あなたを)必要としていませんってこと。っていう前提で言われたときに結局どうしますか、それでも継続したいですか」と告げられたそうだ。

女性は従来の半分、月額50万円で仕事を続ける道を選ぶが、ストレスにより休職。最終的には雇い止めになった。女性側は、「基本的に(会社を)辞めてほしい。残りたいのなら(給与は)半額だという流れだった」(指宿弁護士)と説明する。

一方のジャフコ側は、「女性の業務の進め方や周囲とのコミュニケーションのあり方に起因し、周囲との軋轢がたびたび生じていた」(広報担当)とし、適切に話し合いを進めたとする。面談の際に女性の人格を否定したり、雇用条件に関して一方的に迫ったりしたという認識はないとも説明する。

すでに女性と加害者との間では和解が成立。女性が求めているのは、ジャフコが従業員への安全配慮義務に違反していたことや給与減額などに対する補償だ。

女性側の弁護士は、「ビジネスと人権」の考え方に基づき、ジャフコのファンドに出資する銀行や企業も対応が必要だと呼びかける。また、VCの業界団体である日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)に対して、業界としてセクハラ被害防止のための抜本的対策を取るよう要請している。

ビジネスと人権に詳しい蔵元左近弁護士は、「とくにジャフコと関わりの深い企業は事実関係の確認を行い、ハラスメントを許さないというメッセージを発するべきだ」と指摘する。自社の問題ではないという論法は今の時代通用しない。

ジャフコは同業のANRIと共同で、女性起業家に特化した支援プログラムを始めていた。だがジャフコは「関係者に迷惑をかけるため辞退」した。ANRIに事実関係の確認などを行っているか尋ねたところ、「弊社で起こった事案ではないため回答を控える」とのことだった。

上辺だけで問題に向き合っていない

JVCAにはジャフコも加盟し、被害女性と面談したM氏が要職に就いている。JVCAの広報担当者は、「ジャフコには事実確認を求めている。M氏については完全にジャフコさんマターの話なのでわれわれはいっさい関知していない」と話す。

昨今、女性起業家に対するセクハラの問題が報道されている。

イノベーションに関する教育を行っているアイリーニ・マネジメント・スクールの柏野尊徳氏が今年7月に行った調査では、女性起業家の52.4%が過去1年間にハラスメントを経験。加害者は投資家やベンチャーキャピタリストが44.4%を占めた。

また、過去1年間に受けた被害を周囲や関連機関に相談報告したケースは14.8%で、多くの被害者が泣き寝入りしている状況が浮かび上がる。

業界関係者からは、「女性支援をふだん口にしている人たちがセクハラ問題になると沈黙するのはなぜか。上辺だけで問題に向き合おうとしていない」との批判が聞こえてくる。社会的責任を果たすのか、今問われている。

(大塚 隆史 : 東洋経済 記者)