セブン・イレブン

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「上げ底弁当」や「不自然な容器の色塗り」などが今になって大きく批判されているセブン。なぜそんなことになっているのだろうか?(筆者撮影)

セブン-イレブンへの風当たりが強くなってきた。商品に関する不満が続出しているのだ。

容器の底が見た目より高いお弁当や中身がスカスカのおにぎり、いわゆる「ステルス値上げ」ではないかとの声が出ている商品の写真がSNSにアップされ、物議を醸している。おにぎりやサンドイッチのように、「たまたまその1個がそうだっただけではないか?」と思えるものから、「これはステルス値上げと受け止められても仕方ないかも……」というものまでいろいろだ。

そしてこの流れ、単なるセブン批判だけでは終わらない興味深い論点を含んでいるので、コトの経緯を含め、解説したい。

セブンが減益、商品の改悪が要因と受け止められたが…

セブンへの風当たりが強くなった発端は、時事通信が報じた「ローソン、ファミマが増益 セブン苦戦で明暗―8月中間決算」という記事だろう。この記事では、コンビニ各社の決算を報じつつ、ローソンとファミマが増益を達成しているのに対し、セブンだけが減益しているとレポートしている。

【画像12枚】「フタのほうが分厚い弁当」「おにぎりは崩れる」…最近のセブンの商品を検証してみたら…

決算書をよく見てみると、苦戦の要因は特に北アメリカでのコンビニ事業の不振にある。2024年度第2四半期の決算資料によると、海外コンビニエンス事業の営業利益は733億円で、前年同期比で395億円少なくなっている。率にして35%の利益が吹き飛んだ形だ。

一方、国内コンビニエンス事業の営業利益は1277億円で、前年同期比でだいたい107億円の減少(前期比92.2%)。まだ通期の決算が出たわけではないので、今後どの程度持ち直すか次第ではあるものの、現状では国内コンビニエンス事業に比べて、海外コンビニエンス事業の減益幅が際立っていると言えそうだ。


知らない人も多いが、実は国内よりも海外の収益のほうが圧倒的に大きい(出所:セブン&アイHDの決算資料)

営業収益が国内事業の10倍近い海外事業の低迷は、ダイレクトにグループの経営状態に影響を及ぼしているという話なのだが、SNSで拡散されるなかで、この報道から以下のような誤解が生じた。

「最近のセブンの商品はひどい。減益するのも当然だ」

「上げ底弁当のツケが回ってきた」

など、商品の話を根拠に、この減益を語る論調が見られたのだ。

しかし説明した通り、グループ全体の不調は国内よりも国外事業によるところが大きく、この批判はイメージが先行したものだといえるのだ。

実際に、商品を見てみると…

分析としては的外れとはいえ、こうした批判を軽視することはできないだろう。最近のセブンに対する不満の声を、冷静な気持ちで向き合ってみると、「たしかに、そう思う人が少なくないのもわからなくもないかも……」と思わざるをえない状況だからだ。

実際、その実態はどうなのだろうか。近くのセブンに行って、確かめてみた。まず、買ってみたのはおにぎり


具たっぷり辛子明太子(税込189円)。おにぎりも高くなったものである(筆者撮影)

いわゆる、ネットで醸されがちな「空洞おにぎり」は、モノにもよるのだろう。私が買ったものは、具がしっかり入っていた。


柔らかくて食べているうちに崩れたが、具はいっぱい入っていた。空洞については、塩むすびなどをレビューしたほうがよかったかもしれない(筆者撮影)

ただ、おにぎりがわりと柔らかめで、食べている途中でボロボロと崩れてしまった。

崩れてしまったのは、筆者が写真を撮りながらであり、やや時間がかかったのも影響しているだろうが、ネットで調べてみると、「おにぎりと言いつつ、にぎれていない。米の量が少ないのでは?」と感じている人は少なくないらしく、「食べづらい」なんて声も上がっている。

セブンは、商品を定期的にリニューアルすることで知られている。ブラッシュアップしているということなのだろうが、実際、「以前より、食感がふんわりした」ように感じられる。それ自体はとてもいいことなのだが、食べている最中に不安を覚えるのは、正直ちょっと困ってしまう。

次に買ったのは「幕の内398」という税込429円(税抜398円)のお弁当。その安さで、一部では称賛の声もある。


こちらは、「幕の内398」という税込429円(税抜398円)のお弁当。ザ・お弁当な見た目である(筆者撮影)

セブンはよく使う筆者だが、こういうザ・弁当なコンビニ弁当を買うのは久しぶり。驚いたのは、イメージよりもちょっと小さめだったこと。


フタを開けるとこんな感じ。具材も結構ミニマムサイズな気がした(筆者撮影)

とはいえワンコイン未満だしな……とおかずを食べる。さすが食品に注力しているセブン。味はとてもおいしい。「幕の内」にたがわず、おかずの種類も豊富でいい感じ。

問題の「上げ底問題」はどうだろうか。ご飯のところは、確かに薄い。


ご飯の薄さがわかるだろうか。値段を考えると、お米の量が少ないのは致し方ないかもしれないが……(筆者撮影)

この商品に関しては、上げ底、というより、薄底という感じだった。全体的にかなり容器が薄い。どれぐらい薄いかというと、フタのほうが厚底である。


左が容器。右がフタ。右のほうが厚い。かつてはフタはもっと薄かった気もするが……(筆者撮影)

たしかに、かつての幕の内弁当のイメージからすれば、こうした薄い容器の印象が人々の目に悪く映るのは仕方のないことだろう。

ビリヤニも見てみると…

ちなみに、担当編集者にもビリヤニを購入してもらったが、正面から見るのと、裏や横から見るのでは、イメージされるボリュームに少し差が生まれそうな気はした。

が、これが「容量詐欺」とか「パッケージ詐欺」かと言うと、筆者としては「そんなことはないんじゃないかな?」と思った。別にセブンの擁護をしたいわけではないし、あくまでも筆者の感覚なのだが、これくらいは「工夫」の範疇ではないかと感じたからだ。

実際、ネット上では「昔は『どうなの?』って思う商品もあったけど、今は改善されてるよ」的な声も見られる。


なお、こちらは担当編集者が購入したビリヤニ。表から見ると、米も具も多く入っているように見えるが…(編集部撮影)


裏側から見るとこんな感じ。表面に対し、底の面積は3分の2程度くらいだろうか(編集部撮影)


さらに、具の部分は大きくえぐれていた(編集部撮影)

とは言え、このビリヤニに関して言えば、お腹いっぱい食べたいと思って購入した人なら、少し物足りなく感じるのも仕方がないとも感じた。それなら、800円程度にして、もう少し具を多くしたほうが、嬉しいと感じる人もいそうだ。

「ステルス値上げ」などは昔から指摘されていたが……

商品レビューがやや長くなってしまったが、今回の批判について、筆者は非常に興味深く感じた。なぜなら、こうしたステルス値上げや、ネット上で「パッケージ詐欺」などといわれる商品は、これまでも存在してきたからだ。

サンドイッチなどが典型だろう。正面からはぎっしり詰まっているように見えるが、中を開けると具材がなくスカスカ……なんてことが、真面目な法律系ニュースサイトで報じられたりもした(「セブンのサンドイッチ、『中身スカスカ』で騒動に…『上げ底惣菜』に法的問題は?」(弁護士ドットコムニュース/2020年10月24日)。

また、とある飲料商品で、パッケージが飲み物と同じ色をしていて量がわからない(意図的にそうしてる?)例もあり、「優良誤認表示では?」なんて意見もあった。

とはいえ、全体的な物価高や、他のコンビニやスーパーでも同様の事例はあり、これまではそれらの事例がネット上で激しく叩かれることはなかった印象だ。しかし、今回の減益報道をきっかけとして、たまりにたまった鬱憤が一気に噴出した感じがある。

こうした背景には、最近のセブン&アイHDを見ていて「大丈夫か?」と思うような事案が重なったこともあるだろう。カナダのコンビニ大手クシュタールから買収提案を受けたり、イトーヨーカドーの分離をめぐるゴタゴタがあったり、それに伴って社名の変更を発表したり……と、ニュースには事欠かないが、「叩きやすい」不安定な状態になってしまったことは間違いない。

値上げを恐れすぎた結果、ブランドの信頼も失ってしまった?

今回の事例から「ただ、一部の人がセブン減益の理由を誤解しているだけ」と思うことはたやすい。

しかし、筆者としては今回の騒動は、多くのビジネスパーソンにとって「教訓になる」事例だと考える。というのも、今回の袋叩き状態は「セブンが値上げを恐れすぎた結果、ブランドの信頼も失ってしまった結果ではないか?」と推測できるからだ。

ファンマーケティングの名著に『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP/2011年)がある。アメリカの伝説的なバンド「グレイトフル・デッド」の活動の広げ方を、マーケティングの観点から説明したものだが、その中に「最前列の席はファンにあげよう」という章がある。そこにはこう書いてある。

グレイトフル・デッドは、顧客や消費者に対し、配慮と敬意を持って接することを教えてくれる。だが、多くの企業は、新しいお客さんを獲得しようとする一方で、昔からの忠実なお客さんを最優先するのではなく、無視している。ビジネスを成長させるのは大賛成だが、既存の顧客や消費者の気持ちを犠牲にしてはならない。

円安が長引く、なんでもかんでも値上げ値上げの昨今。多くの企業が値上げを実施しているが、その一方で、上げ幅を下げるためにステルス値上げに踏み切っている会社も少なくない。

しかし、単純な値上げよりも巧妙な方法であるステルス値上げは、顧客にとっては不誠実な行為と見えてしまい、場合によっては純粋に値上げをするよりも悪影響を及ぼす場合もあるのだ。引用の言葉を借りれば「既存の顧客や消費者の気持ちを犠牲に」する行為だからだ。

話を戻すと、セブンは最近、スムージーや宅配ピザ、ドーナツなど新商品をどんどん投入している。これ自体、コンビニが生き残るために必要で、素晴らしいことだ。

しかし一方、これまで売られていたおにぎりお弁当においては、やや言い方はキツくなるが「ファンをだますような手段を取っている」と受け止められても仕方がないのではないか。

もちろん、そのような意図は会社側にはないだろう(し、ないと信じたい)。しかし今回、ここまでセブンに対する厳しい意見が見られたことを踏まえると、「そのように消費者に感じさせていること」そのものを認識しなければならないだろう。

ドーナツにせよスムージーにせよ、新しい顧客の獲得手段なのだろうが、それらに注力するあまり、旧来の忠実なお客さんを無視している(ように見えてしまっている)のが今のセブンなのだ。


肝煎りで始まった(再挑戦した)ドーナツ。こういった新しい試み自体は非常にいいものだが、一方で昔からいるファンを大切にできているかも、商売では問われる(筆者撮影)

「ファンを大切にする」という大切さ

「グレイトフル・デッドはアーティストだからファンが大事だけれど、セブンはコンビニ。そもそもその2つを比べるのは無理があるんじゃないの?」と思った方もいると思う。


しかし、近年のコンビニ業界を見ていると、それぞれのコンビニに愛着を持つ「ファン」を作り、彼らを大事にすることが重要だと思えてくる。

というのも、コンビニの数は現在、飽和状態にあるからだ。日本フランチャイズチェーン協会が発表した2024年8月の国内コンビニ店舗数は5万5730店舗で、前年同月より0.1%(80店)減っている(前年同月は5万5810店舗)。微減ではあるのだが、前年を下回るのは、2022年6月から26カ月連続。数の面ではほぼ天井に達している。

こうなってくると、その数が飽和しているコンビニの中、各社は「店舗数増加」以外でそれぞれのコンビニの魅力を高める手段が求められる。

もちろん、プライベートブランドの拡充で商品力を上げたり、これまで出店していなかった地域への出店も重要だが、それも限界がある。そんな中、それぞれのコンビニに「愛着」を持った「ファン」(今でいうと「推し」?)を作っていくと、より持続的にそのコンビニを消費者は利用してくれるのではないか。

『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』でもこう書かれている。

情熱的なファンが、会社や製品のことをほかの人に話し、そのアイディアを広めてくれる、ということを忘れてはならない。情熱的なファンは、何年も繰り返し自社の商品を買ってくれるのだ。

コンビニが飽和し、ただ「モノが買える場所」としての強みを失った先には、ある種の「ファンマーケティング」的な方法でシェアを拡大するほかないのではないか。

実は、筆者もセブンのファンである。かなりの頻度、セブンでご飯を買っている。いうまでもないが、セブンの強みは圧倒的な「食べ物のおいしさ」にある。個人的には「2種レタスのシーザーサラダ」が大好きで、ほぼ毎回買う。「武州煮ぼうとう」もめちゃくちゃおいしくて、食べるたびに毎回感動している。

「金のシリーズ」にも根強いファンがいるように、セブンは圧倒的な商品力で「ファン」を作る力をまだまだ持っていると思う。今回の騒動を生かしつつ、セブンがどのように「ファン」を作っていくのか、ひとりのファンとして期待したい。

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)