内海州史・セガ社長COO

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「アニメやゲームなどのエンタテインメント産業は輸出に向いている」─。こう強調するのは今年4月にセガ社長COOに就任した内海州史氏だ。日本全体の国際収支においてデジタル赤字が課題となる中で、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』や『龍が如く』などの豊富なIP(知的財産)をグローバルに広げ、「セガのブランド価値を上げる」と意気込む。ソニー(現ソニーグループ)在籍時には、家庭用ゲーム機「プレイステーション」の立ち上げに携わり、様々な著名経営者の決断と覚悟を垣間見てきた。日本のゲーム産業の可能性とは?


ゲームの地位が変わった!

 ─ ゲーム産業は好調です。現状認識を聞かせてください。

 内海 とうとうゲームの地位が世界のエンタテインメントの中心に、つまりは文化(カルチャー)のレベルにまで上がったなと感じます。私がソニーに在籍して家庭用ゲーム機「プレイステーション」の立ち上げに携わっていた1990年代前半の頃は、ゲームを玩具からエンタテインメントに変えようと一生懸命に頑張っていました。

 ソニーが「ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時=SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント=SIE)」を設立したのも、そういった流れを意識してのことでした。しかし今はモバイルも含めて、老若男女がゲームをプレイするようになりました。ようやくゲームがアニメや音楽、映画などと同じレベルで語られるようになってきたわけです。その意味で、文化的なレベルにまで上がって来たということだと思います。

 ─ 約30年前は今のような地位ではなかったのですね。

 内海 はい。30年前、映画業界の方々にゲームのIP(知的財産)に関する営業に行っても、門前払いとは言わないまでも、ハリウッドではよく使われる用語の「エレベーターピッチ(15~30秒というエレベーターに乗っているほどの短い時間に、自分自身やビジネスについてアピールする手法)」でなければ話を聞いてもらえませんでした。

 しかし今は違います。「このような素晴らしいゲームをよくぞ作りましたね。私も、セガのゲームをよくプレイをしていました」とか、「あなた方のゲームのファンです」などと言われるのです。今の映画監督やプロデューサーは皆、もともとはゲーマーです。ゲームのことをよく知っている人たちなのです。

『スーパーマリオブラザーズ』や『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』などで遊んでいた人たちが監督やプロデューサーになっているのです。ですから、環境は以前とは全く違ってきています。

 ─ ゲームの世界に身を置くとは思っていなかった?

 内海 思っていなかったのですが、自然な流れでゲームの世界に入りました。ソニーが音楽や映画の会社を買収した頃、私がいた経営企画ではエンタテインメント部門を作らないと、新たな事業に対応できないという議論が交わされていました。

 なぜなら、ハードウェアの世界では、コストでは1円でも安く、1銭でも安くするというコストダウンの世界観が強かったのに対し、エンタテインメント産業では、タレントやクリエイティブといった人間関係が重要で、かつ固定費はかかっても変動費がほとんどかからないというビジネス構造が全く違う世界でした。当時のソニーは、その現実的で難しい対応を迫られていました。私は、そういった場面に偶然居合わせて、会社からエンタテインメント部門に行くように言われました。