冨永 本学では三井不動産と連携して「東北大学サイエンスパーク構想」を進めています。本学の青葉山新キャンパスには3GeV高輝度放射光施設の「ナノテラス」があります。要は大きな顕微鏡です。強い光を当てて物質をナノレベルで見ることができるのですが、このナノテラスは官民共同出資でつくりました。

 他にも世界トップレベルの研究開発施設が集積しています。ナノテラスをはじめ、様々な企業や研究者の方々に使っていただくための場がサイエンスパークです。これは是非、国外の方にも使っていただきたい。産学官が一体となって、その利用を推進し、イノベーションを生み出していきたいと。

 三井不動産は千葉県の柏の葉でリサーチパークづくりの経験があります。ですから、同社の産学連携や新産業創造に関する知見も活用させていただきながら様々な企業や研究者に本学のコミュニティーに入っていただき、情報共有しながら新しいものを生み出そうと考えています。

 ─ スタートアップ企業の支援体制はどう進めますか。

 冨永 本学からスタートアップ企業も徐々に登場しています。IPO(株式公開)も6社あり、このほかにユニコーン企業が1社誕生しています。こういった企業をもっと増やしていくためにも、本学もスタートアップ企業を応援していきます。

 学内で全ての学生に対してスタートアップの教育をすることはもちろん、学生や研究者がスタートアップを立ち上げたいという入口から最後の出口まで、全てのフェーズで本学がサポートする体制を取っています。

 ─ 一方で冨永さんの専門でもある医学ではどうですか。

 冨永 本学には「東北メディカル・メガバンク機構」があります。震災を機に設立された機構なのですが、東北地方に住む15万人の血液などのサンプルを、健康調査を通じて収集し、遺伝子のゲノム解析に活用しています。健康な人の遺伝子を全て解析してバンキングすれば、どういう人が病気になるかどうかが分かってくるのです。

 特に我々の一番の強みは7万人の3世代にわたるコホート(疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法の1つ)がある点です。これは世界の中で一番大きいと思います。これを活用することで、将来ゲノムをベースに疾患を予測し、病気を予防するという医療もできるようになると期待されています。


仙台市で完結するキャンパス

 ─ 多方面にわたる研究を社会に実装していくことが期待されますね。さて、東北大学は仙台を拠点にしています。地方にあることのメリットとは。

 冨永 実は仙台市のような人口100万人規模の都市というのは、非常に研究や教育に向いた都市なのです。田舎でもなければ大都会でもない。しかも、自宅から大学に行くまで通学時間も東京のように1時間も2時間もかからない。本学では同じ街の中で衣・食・住と学びが完結しているのです。これは非常に優れている点だと思います。

 本学は仙台市内に青葉山に加えて、同じ市内中心部の片平や星陵にもキャンパスがあり、別の街に移動する必要がありません。仙台という街にコミットし、各エリアにはめ込むように大学のキャンパスがあるからです。しかも青葉山キャンパスと青葉山新キャンパスは隣接しており、非常に便利です。

 ─ そういった地理的な優位性を生かしながら、少子化時代の大学運営をどう進めますか。

 冨永 東北地方は日本の課題の先進地域になります。社会課題が集積している先進地域とも言えるでしょう。そういった東北地方でこそ、課題を克服するためのイノベーションを見つけることができれば、それを世界に展開できると思っています。

東京大学総長・藤井輝夫の「人類全体として必要な知恵を持ち寄って課題解決を」