3つの柱から成る「建学の理念」

 ─ オープンであることがウリであるということですね。

 冨永 はい。もう1つの特徴は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の3つの柱から成る「建学の理念」です。例えば工学系の本多光太郎先生は鉄の磁性研究に取り組み、「新KS鋼」を開発しましたし、西澤潤一先生は光ファイバー通信を発明しています。工学系の世界で著名な方々が社会に大きな価値を創造してきた歴史があるのです。

 ─ そういった歴史を踏まえた上で、国際卓越研究大学に選定された場合に、どのような価値を社会に提供しますか。

 冨永 3つの公約を掲げています。それは「インパクト」「タレント」「チェンジ」です。そして、これらは先ほどの建学の理念ともつながっているのです。

 1つ目のインパクトは国際的に卓越した研究という学術的なインパクトと世界に変化をもたらす研究展開という社会的インパクトを意味しており、これらは研究第一や実学尊重につながるものでもあります。

 また、世界の研究者を惹きつける研究環境を整備するタレントや全方位の国際化を進めるといったチェンジは門戸開放につながります。ちなみにチェンジには機動的で責任ある経営ガバナンスも含まれています。

 ─ いち早く外を向き、変革に乗り出した危機感は、どのように醸成されていったのですか。

 冨永 本学は東京や大阪のように人や資金が集めやすい環境にありません。さらに東日本大震災を経験し、大学が学府の中で閉じこもっていても何の貢献もできないことを、身をもって学びました。

 自分たちが外に出て行って社会と共に行動しなければ震災は乗り越えられず、復旧と復興も進めることができないと学んだわけです。社会と共にチャレンジしていくのだという精神は、そういった中で培われてきたと思いますね。

 ─ 学内の機運も盛り上がっていると感じますか。

 冨永 そうですね。大学には文系から理系まで様々な価値観があります。多様な価値観がクロスオーバーしている組織でもあります。そういった人たちから期待の声が数多く上がっています。背景には大学運営という面での危機感があるのでしょう。

 2004年から国立大学が法人化されて運営費交付金が削られ、研究環境が非常に劣化してきていました。特に若い人は有期雇用になってしまい、その数も減少傾向にあります。技術職員その他のサポート体制も手薄になってきていたのです。

 そうした中で、教職員も様々な仕事を抱えており、本来研究に充てるべき時間が減ってしまっていました。2000年初頭時、大学の研究者の研究時間は50%近くを占めていたのですが、現在は35%にも届いていない。国際卓越研究大学の目標では、これを25年後には50%にまで上げたいと思っています。

 ─ そういった時間と共に資金が重要になってきます。

 冨永 はい。本学が産業界からいただいた資金や寄付金など自分たちで稼いできた資金が年間100億円をはるかに超えています。国際卓越研究大学としての認定を受ければ、その相当額が25年間にわたって毎年国から助成されるようになります。これまでの運営費交付金は使い道が決められていましたが、今回の資金は人件費などにも充てることができます。

 ということは、研究者の数を増やすことができますし、研究をサポートする人材の数も増やせる。そうすれば、研究者は研究により多くの時間を費やすことができるようになるわけです。



サイエンスパーク構想の意義

 ─ 産業界との対話が非常に大事になってきますね。