中国で「スシロー」と「くら寿司」が好調…それでも「盤石」とは言えない「決定的な理由」

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7万店以上の日本食レストランが中国に

中国における日本食ブームはここ数年でさらに加速している。かつては特別な機会に楽しむ贅沢な食事とされていた日本料理が、現在では日常的な外食として都市部を中心に定着している。

特に「スシロー」や「くら寿司」といった回転寿司チェーンは、手軽でありながら本格的な日本食を提供することから、中国の多くの消費者に強い支持を得ている。回転寿司という形式が、リーズナブルな価格で新鮮な寿司を楽しめるという点で、広範な消費者層に受け入れられているのだ。

外食文化が発展し、特に都市部では健康志向が強まっている中国では、寿司が「ヘルシーな食事」の代表格として定着。寿司はカロリーが比較的低く、新鮮な魚介類を使用していることから、健康を重視する中国の若い世代に特に支持されている。また、日本の食文化に対する関心も高く、日本旅行や日本のアニメ・映画を通じて日本のライフスタイルに触れた中国人が増えていることも、日本食人気の一因となっている。

日本の農林水産省のデータによれば、2023年10月時点で海外に存在する日本食レストランの数は約18.7万店に達しており、2021年比で約20%の増加となっている。そのうち、中国には約7.8万店があり、これはアメリカ(約3万店)を大きく上回る数字だ。このことからも、中国が世界最大の日本食市場であり、日本料理が広く浸透していることがわかる。中国では寿司が特別な料理ではなく、カジュアルな食事の一つとして認識されており、食生活に深く根付いている。

2023年8月、福島第一原子力発電所からの処理水海洋排出が開始された際(中国では「核汚染水」として報道された)、一時的に日本食全般に対する懸念が中国国内で広がった。特に魚介類を使用する寿司に対しては強い不安の声が上がり、消費者の間で日本食離れが懸念された。

しかし、実際にはこの影響は限定的であり、一時的な売り上げの落ち込みこそあったものの、処理水問題は寿司店の売り上げに大きな影響を与え続けることはなかった。特に、スシローやくら寿司といった日本資本の回転寿司チェーンは、安定した人気を維持しており、多くの消費者が引き続きこれらの店舗を訪れている。

ローカライズに成功したスシローとくら寿司

スシローは、中国市場で大きな成功を収めている代表的な日本資本の回転寿司チェーンである。2024年に北京で新たに店舗をオープンした際には、10時間待ちの行列ができるほどの話題を集めた。この驚異的な人気は、スシローが提供する寿司の品質と価格のバランスが消費者に非常に高く評価されていることの表れだ。

スシローの中国での価格設定は、日本の店舗と比較してやや高く、1皿10元(約200円)からスタートする。席料が別途発生するため、全体として日本のおおよそ2倍のコストだ。しかし、それでも中国現地の寿司店と比較するとリーズナブルであり、何より「本場の日本料理を体験できる」という付加価値が大きい。このため、多くの中国人消費者はスシローを訪れ、その満足度は非常に高い。

筆者自身も深センや広州でスシローを訪れ、その人気を目の当たりにした。実際にスシローを経験した訪日旅行歴が何度もある中国人の友人たちからも、「スシローは日本の寿司に非常に近い体験ができる」との評価を聞くことが多い。

また、デジタルマーケティングにおいても、スシローは抖音(中国版TikTok)や小紅書(中国版Instagram)などの現地のプラットフォームを活用し、クーポン販売やキャンペーン情報を積極的に発信している。

中国のチェーンレストランであれば足並み揃えて行うプロモーションを愚直に行っているのは、後進の日本企業の手本だ。このように、若年層をターゲットにしたローカライズされたマーケティング戦略が、スシローの成功を支えている。

くら寿司もまた、中国市場での展開に積極的だ。1995年に大阪で創業したくら寿司は、食材の安全性にこだわり、無添加の「天然寿司」を提供している。

中国でもこのコンセプトを維持しつつ、子供向けのガチャガチャゲームやデジタル化された注文システムを導入し、若者や家族連れの支持が厚い。くら寿司は、中国の消費者に対して安心・安全な食事を提供するという点で大きな信頼を得ており、その人気は今後も拡大していくことが予想される。

経済停滞で高級店に黄信号

中国で寿司と言えば、日本と同じように特別な日や記念日に食べる高級料理というイメージが強かった。特に日本で言う「お任せ」が「OMAKASE」としてブランド化しており、その時の旬の食材やゲストの好みに応じてメニューを決める形態が、プレミアム感があると人気が高い。

食事の内容はシェフの腕に委ねられるが、その分料金は高く、1人あたり1万円から2万円、中には10万円を超えるほどの高額だ。にもかかわらず、日本の「お任せ」とは違い、実際はただのコースメニューと変わらないケースも多々ある。

筆者の友人から聞いた話だが、中国では「探探」などのマッチングアプリで知り合った男女が初デートでOMAKASE寿司店を選ぶケースが多く見られたようだ。シビアなことに初回デートでカフェや中華料理レストランを選ぶ男はケチな男と思われ恋愛対象から外されてしまいがちで、日本料理屋は一目置かれやすいようだ。

高級で特別な体験ができる場所として、女性が主導権を持つ社会では、無論男性が全額を負担することが一般的である。このような高級寿司店は、記念日や特別なデートに利用される「安全な選択肢」として認識されていた。

しかし、2023年以降の中国経済の減速に伴い、こうした高級寿司店の利用は減少傾向にある。大衆点評(中国版グルーポン)で割引クーポンを提供する高級寿司店が増え、先述のOMAKASEを提供する店舗では、かなりのディスカウントをしなければ客を呼び込むことが難しくなっている。

かつては予約が取れないほどの人気を誇っていた高級寿司店も、現在では厳しい経営状況に直面しており、特に上海では毎月高級日本料理屋が減少していると現地の知人は言う。

一方、スシローやくら寿司といった回転寿司チェーンは、よりカジュアルで手軽な日本食としてますます人気を集めている。OMAKASEのような高級料理とは異なり、手頃な価格帯とカジュアルな雰囲気が、若いカップルや友人同士、家族連れなど幅広い層に支持されている。

実際、筆者の友人たちからも「OMAKASEの格式張った雰囲気より、もっとリラックスできるカジュアルな場所がデートに最適だ」という意見を頻繁に聞くようになった。スシローやくら寿司は、こうしたデートシーンでも気軽に利用できるカジュアルな日本食店として定着しつつある。

さらに、中国国内には「なんちゃって日本風居酒屋」と呼ばれる店舗も多く見受けられる。これらの店舗は、入口にジブリやスラムダンクのフィギュアを飾り、店内にはアニメのポスターが飾られているなど、日本のポップカルチャーを前面に押し出しているが、提供される料理はマヨネーズたっぷりの寿司や、ローカライズされた日本料理であることが多い。

このような店舗は本格的な寿司とは程遠いものの、若者たちには人気がある。しかし、スシローやくら寿司が提供する「本場の味」と比較すると、消費者にとっては本物の日本料理を提供している点で、これらのチェーン店が圧倒的に優位に立っている。

回転寿司ビジネスの課題

中国における回転寿司ビジネスの最大の課題の一つは、ショッピングモールへの依存である。回転寿司チェーンの多くは、ショッピングモール内に出店することで集客を図っているが、モールの集客力自体が低下すると、店の売り上げにも直接影響を与える。

最近、広東省東莞市の万科ショッピングモールに出店していたスシローが閉店したことがSNSで少しばかり話題になったが、これはスシロー自体の人気が低迷したというよりも、ショッピングモール自体に人が集まらなくなったことが主な原因である。

中国の飲食業界では、立地選定がビジネスの成否を大きく左右する。例えば、中国の大手火鍋チェーン「海底撈」も、コロナ禍に急激な店舗拡大を行った結果、立地の悪いモールに出店した店舗では採算が合わず閉店に追い込まれるケースが多発した。

スシローもまた、立地によって売り上げに大きな差が生じており、特にショッピングモールへの依存度が高いため、モール自体の集客力に左右されるというリスクを抱えている。

しかし、これはスシローやくら寿司が中国市場で全体的に不調であることを意味するわけではない。主要都市では、これらのチェーン店は依然として高い人気を誇っており、安定した業績を維持している。特に北京や上海、深センなどの大都市では、回転寿司が手軽でありながらも本格的な日本食として、多くの消費者に支持されている。

ショッピングモールへの依存という課題を克服するためには、立地戦略の見直しが必要である。多くのモールが人手不足や経済状況の悪化で集客力を落としている中、より集客力の高い場所や独立店舗での展開が求められている。

例えば、日本国内では、回転寿司チェーンがロードサイド店や駅前に独立して出店するケースが多く、これが安定した売り上げを確保する要因の一つだ。中国でも、こうした出店戦略を導入することで、モール依存からの脱却が期待されるものの、ロードサイドは日本のようにオフラインストアが充実しているわけではないので、日本と同じ発展モデルは考えにくいと普段深センで運転している筆者は考えている。

日本料理は決して「盤石」ではない

2024年、中国国内で長年親しまれてきた日本料理チェーン「山葵家・創意料理」が全国的に閉店するというニュースが報じられた。このチェーンは2011年に杭州で創業し、手頃な価格で精緻な日本料理を提供していたことで多くの消費者に支持されていた。

しかし、無計画な店舗拡大や市場競争の激化により、経営が悪化し、最終的には全国的な閉店に追い込まれた。特に2023年以降の中国経済の減速が、このチェーンの経営に大きな打撃を与えたとされている。

山葵家の崩壊は、中国国内の日本料理市場が決して安定しているわけではなく、競争が非常に激しいことを示している。中国では、日本食ブームが続いている一方で、多くの消費者が本格的な日本食を求めている。

しかし、地元資本の寿司店や日本風居酒屋の多くがローカライズされすぎているため、消費者は質の高い日本料理を求めて、日本資本のチェーン店に流れる傾向が強まっている可能性がある。

これに対し、日本資本の回転寿司チェーンであるスシローやくら寿司は、安定した品質と価格戦略、そして強力なマーケティング戦略を駆使して依然として好調な業績を維持している。

これらのチェーンは、カジュアルでありながら本格的な寿司を提供し、消費者に対して信頼を確立している。中国の消費者は、品質に対する要求が非常に高く、安価なだけではなく、一定の品質を維持することが成功の鍵となっている。スシローやくら寿司は、その点で他のローカルな寿司店とは一線を画していると言えるだろう。

日本資本の寿司チェーンが中国で成功している理由の一つは、安定したサプライチェーンの確保だ。これにより、常に新鮮で高品質な食材を提供することが可能となり、消費者の信頼を勝ち取っている。また、デジタルマーケティングを駆使し、若者に向けたローカライズされたキャンペーンを展開することで、消費者との接点を効果的に増やしている。これにより、競争が激化する中でも、他の店舗との差別化を図り、支持を集めている。

結論としてスシローやくら寿司といった日本資本の回転寿司チェーンは、中国市場において確固たる成功を収めている。OMAKASEのような高級寿司店が苦境に立たされている一方で、カジュアルでありながらも高品質な寿司を提供するこれらのチェーンは、多くの消費者から支持を集めている。処理水問題や中国経済の減速といった外部要因はあるものの、これらのチェーンは柔軟に対応し、今後も中国市場で成長を続けるはずだ。

中国の消費者にとって、日本料理はもはや特別な日の料理ではなく、日常の中で楽しむカジュアルな選択肢となっている。こうした市場の変化に対応し、適切なマーケティングと品質管理を行うことで、日本資本の回転寿司チェーンは今後も中国市場での成長を続けることが期待される。

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