「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」など腸の病気を医師が解説 食べ物や日常の注意点とは?

写真拡大 (全7枚)

子どもの頃からお腹が弱い、最近よくお腹を下す、そんな方も多いかと思います。しかし、下痢や腹痛を繰り返している方の中に、腸の難病が隠れていることがあるそうです。そこで、国の指定難病である「炎症性腸疾患(IBD)」について、消化器内科医の河口貴昭先生(河口内科眼科クリニック院長)にMedical DOC編集部が話を聞きました。

≫【イラスト解説】「クローン病」になると表れる症状・発症しやすい人の特徴

監修医師:
河口 貴昭(河口内科眼科クリニック)

2003年、千葉大学医学部を卒業後、NTT東日本関東病院で内科全般を学んだのち、東京山手メディカルセンター(旧 社会保険中央総合病院)や慶應義塾大学病院などで炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)という腸の免疫難病の治療に取り組む。2022年11月、これまで培ってきた経験と知識をより多くの方々に還元したいと「河口内科眼科クリニック」を開設、院長となる。

炎症性腸疾患(IBD)とはどんな腸の病気? 潰瘍性大腸炎やクローン病・IBSとの違いを医師が解説

編集部

「炎症性腸疾患(IBD)」とはどんな病気ですか?

河口先生

「炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)」とは、主に「潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)」と「クローン病」という2つの病気の総称です。どちらも腸管免疫が暴走して自身の腸管を攻撃してしまうことで慢性的に腸炎が起こり、下痢や血便、腹痛などの症状を繰り返してしまうという病気です。

編集部

潰瘍性大腸炎とクローン病はどう違うのですか?

河口先生

ヒトの消化管は、口からはじまって、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸と続き、大腸の最後の部分である直腸は肛門へとつながっています。潰瘍性大腸炎は、原則的に大腸にしか炎症をおこしません。また、直腸から炎症がはじまって大腸全体へと広がっていく特徴があります。一方、クローン病は口から肛門までの全消化管に炎症が飛び飛びに生じるのが特徴です。クローン病では合併症として腸が狭くなったり、腸に穴があいたりすることがあります。肛門にも炎症が出やすいのも特徴です。

左:潰瘍性大腸炎右:クローン病(赤:炎症部)

編集部

ではIBSは?

河口先生

「IBS(irritable bowel syndrome:過敏性腸症候群)」は、腹痛や下痢などが何ヶ月も続くにもかかわらず、内視鏡検査をしても腸に炎症などの所見が認められない場合を言います。自律神経の乱れによる腸管蠕動(ぜんどう/くねらせる動きのこと)の亢進・低下や腸の知覚過敏が病態に大きく関わっていると考えられています。IBSは、炎症性腸疾患とは別の疾患ですが、どちらも自律神経や免疫が影響する疾患のため、炎症性腸疾患にIBSが合併することもよくみられます。

編集部

炎症性腸疾患の患者さんは多いのですか?

河口先生

炎症性腸疾患は元々欧米に多く日本では稀な疾患でしたが、実はここ数十年で日本でも若い方を中心に非常に増えてきています。2015年の厚生労働省の調査研究は潰瘍性大腸炎が約22万人、クローン病が約7万人いると推計されていますので、日本人の約580人に1人が潰瘍性大腸炎に、約1800人に1人がクローン病に罹患している計算になります。詳しいことはまだよく解っていませんが、食生活の欧米化やストレス社会、抗菌薬の濫用などが炎症性腸疾患患者増加の原因ではないかと考えられています。

炎症性腸疾患(IBD)と診断される人に多い症状一覧 診断基準となる検査は何をするの?

編集部

炎症性腸疾患の人には、どんな症状が表れるのですか?

河口先生

初期症状としては下痢が表れることが多く、徐々にゆるくなって水のようになっていく(水様便)こともあります。さらに進行すると血便や下血、腹痛をたびたび起こすようになり、発熱や体重の減少、貧血などが表れます。さらに、クローン病の場合は、腸閉塞になりやすく、食べ物が詰まって便が出ない、「痔ろう」となって肛門周囲に膿瘍ができるといったこともあります。

編集部

もう少し具体的に教えていただけますか?

河口先生

下痢や腹痛などの症状が続く方は、以下のチェックをしてみてください。当てはまる項目が多い場合は、病院で検査を受けることをお勧めします。

下痢が続いている
腹痛や下痢で眠れないことがある
お腹が張りやすい
血便がある。または便潜血陽性になったことがある
肛門周囲に腫れや膿がある
ここ最近、体重が急に減った
便意はあるのに出ないことがある

編集部

これらの症状があると、炎症性腸疾患と診断されるのですか?

河口先生

これらの症状のある方は、炎症性腸疾患の可能性があります。しかしながら、炎症性腸疾患以外の病気でも同様の症状が表れることは多いため、正しく診断するためには、大腸内視鏡検査をはじめ、便の細菌の検査や血液検査などを行います。さらに、クローン病の診断には、胃や小腸の検査も必要です。

編集部

炎症性腸疾患は難病に指定されていると聞きました。

河口先生

そうですね。潰瘍性大腸炎もクローン病も厚生労働省により「指定難病」に定められており、先ほどのさまざまな検査で診断されると、一定の条件を満たすことで国から医療費助成を受けることができます。

炎症性腸疾患(IBD)の人は腸の炎症を抑えるために何を食べるべき? 治療中の日常生活のヒントや注意点が知りたい

編集部

炎症性腸疾患が完治することはないのですか?

河口先生

この病気は少しずつ解明されてきているところはありますが、残念ながら現時点では「完治」させる方法が見つかっていません。一度発症すると、悪化(再燃)と改善(寛解)を生涯繰り返します。炎症性腸疾患の治療は、腸の炎症を抑え、寛解期を出来るだけ長く保てるようにコントロールするのが目標となります。

編集部

腸の炎症を抑えるために、何を食べたら良いのでしょうか?

河口先生

まず大前提として、炎症性腸疾患の腸の炎症を抑えるにはお薬による治療が最も効果的で重要です。その上で、炎症性腸疾患患者さんの食生活には腸内環境の改善が大事だということが近年の研究でわかっています。例えば一部の善玉菌はヒトが食べた食物繊維を分解して酪酸や酢酸などの短鎖脂肪酸を産生しますが、この短鎖脂肪酸は腸の免疫機能を正常化させる働きがあることが様々な基礎研究で明らかになっています。また炎症性腸疾患の患者さんの腸内ではこれら善玉菌が減少していることも知られています。ですから、炎症性腸疾患の患者さんには、味噌や納豆やヨーグルトなどの「発酵食品」から善玉菌を補うとともに雑穀や芋類、野菜、果物など「水溶性食物繊維」を積極的に摂ることで善玉菌にたくさんエサをあたえ、腸の中で善玉菌をたくさん育てることをお勧めしています。

編集部

なるほど、そうなのですね。

河口先生

ただし、クローン病で腸が狭くなっている人は、食物繊維を食べすぎると腸管が詰まってしまうので、食物繊維は控えるか、よく噛んで細かく砕いて食べるようにしてください。あとは油っこいものや辛いものは腸に刺激になるので、腸に炎症がある方は控えたほうがいいでしょう。全体的には、「肉より魚」「洋食より和食」とイメージされるとよいと思います。

編集部

ほかに、日常生活で気をつけた方が良いことなどありましたら教えてください。

河口先生

腸の免疫に深く関与している自律神経は、睡眠不足やストレスの影響を受けやすいため、睡眠をしっかり確保することやストレスがたまらないような生活を心がけるといった対応が効果的です。さらに、症状がない時期も薬はしっかり続けるなど、ご自身で症状をコントロールし、人生を前向きに満喫するよう意識することも大事だと思います。

編集部

最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。

河口先生

炎症性腸疾患の患者さんは年々増えています。現時点で「完治」は難しい病気ではありますが、早期に発見し治療を開始することで、病気がご自身の仕事や日常生活に及ぼす影響を最小限に抑えることは可能です。チェックリストで思い当たる症状のある方は、専門の医療機関で早めに相談・検査をしましょう。相談する医療機関を選ぶ際には、炎症性腸疾患の専門知識のあるドクターがいるか、自身のライフスタイルにあわせて無理なく通える診療時間かなど、事前にHPなどで確認してから受診することをお勧めします。

編集部まとめ

早期発見・早期治療をすることで、お仕事を続けていくことも可能なのですね。治療を継続することが大事なので、専門知識の面でも、診療時間などの面でも、長く付き合っていける医療機関を選びましょう。

近くの消化器内科を探す

医院情報

河口内科眼科クリニック

所在地〒135-0021 東京都江東区白河三丁目1番3号

アクセス半蔵門線「清澄白河」駅B2出口より徒歩3分
大江戸線「清澄白河」駅A3出口より徒歩7分

診療科目内科、消化器内科、眼科

03-6458-5980

ホームページ