サウジ戦で圧巻のパフォーマンスを披露した守田。写真:梅月智史(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

 現地10月10日、キング・アブドゥラー・スポーツシティ・スタジアムで行なわれたワールドカップ・アジア最終予選のサウジアラビア戦は、日本が2−0で快勝した。

 先月のインドネシア戦と中国戦では3バックを採用したサウジアラビアだが、日本戦は4−3−3に変更。日本の3−4−2−1に対し、かみ合わないシステムを選んだ。

 序盤はそのミスマッチに対し、日本が苦戦、というか、試行錯誤する展開だった。

 まずは守備面。相手のビルドアップは、布陣のかみ合わせでフリーになりやすい両サイドバック、12番のサウード・アブドゥルハミドと14番のハッサン・カディシュが起点だ。対面する日本の両ウイングハーフ、三笘薫と堂安律は、背中で相手のウイングを消しつつ、ボールが出たときに、やや長い距離から寄せていく。そのため、アブドゥルハミドとカディシュには前を向いてスペースを窺う時間があった。

 8分には、アブドゥルハミドがワンツーで三笘をかわし、センターFWの9番フェラス・アルブリカンへ縦パス。そこから逆サイド、エースのアル・ドサリへ展開し、スムーズな流れでフィニッシュへ持ち込む。序盤はこうしたサイド攻撃が目立った。前からプレスにいきたい日本に対し、サウジアラビアはミスマッチを利用してボールを運んでいた。
【画像】日本代表のサウジアラビア戦出場16選手&監督の採点・寸評を一挙紹介。2選手に7点の高評価。MOMは攻守に躍動したMF
 ならばと、三笘や堂安がマンツーマンで相手サイドバックに付いてしまうと、後方で3バックと相手3トップが同数になり、リスクが大きい。そこで中間ポジションから出ていくのだが、追い込み切れず、相手の得意な局面突破を許していた。

 一方、守備だけでなく、ビルドアップも苦戦した。

 日本は3バックでボールを運ぼうとするが、その前に相手3トップが立っている。同数で動きづらい。ボランチの遠藤航と守田英正も、その眼前に相手インサイドハーフが2枚立っている。最後尾でボールを持つことに問題はないが、そこから自陣を抜けられず、無理にボールを入れてウイングハーフやボランチを詰まらせ、ボールを奪われたりと、ビルドアップに苦労した。

 最初は遠藤が下りて4枚回しに変形し、3トップに対して優位を作る試行錯誤もあったが、ただボールを持つだけ。そこから誰かが中盤へ侵入するわけでも、町田浩樹や板倉滉が大きく幅を取るわけでもない。状況に変化はなく、フリーで運んだ遠藤から三笘へのサイドチェンジも精度を欠いた。

 日本は攻守にやや苦戦。あまり良い立ち上がりではなかった。さすがイタリアの名将マンチーニ。このくらいは当然、やってくるということか。

 ただし、この苦戦は10分で終わった。試行錯誤を終えた日本が、徐々に解決策を打ち出したからだ。
 
 ビルドアップの出口になるべきポジションは明確だった。相手アンカーの両枠で浮いている、2シャドーの南野拓実と鎌田大地だ。しかし、相手は3トップとその間を埋めるインサイドハーフ2枚が「W」を描く配置で、縦パスのコースを遮断しているため、2シャドーへのルートを覗きづらい。この問題をどう解決するか。

 ここで出色の働きを見せたのが、守田だった。12分に自ら相手インサイドハーフの裏へ走って板倉からの縦パスを引き出すと、続くシーンでは同じ相手の前に立って注意を引き付け、板倉から南野への縦パスのコースを空ける。裏を取って警戒させ、次はその警戒を逆手に取り、ほかの選手にプレーさせる。

 さらに直後の場面では、2度もやられたためか、少し離れて守田の様子を見ていた相手インサイドハーフからサッと離れ、谷口彰悟からパスを受けると、素早く前を向いて南野へ縦パス。相手は寄せが遅れた。裏を取って成功、釣り出して成功、3度目はそのままストレートにプレーして成功。完全に、相手の心理を手玉に取っていた。

 この3度目の流れから、先制点が決まったのが14分。南野からパスを受けた堂安がフリーになり、正確なクロスを三笘が折り返し、一体何人いるんだというなかで守田がさらに折り返して、最後は鎌田が押し込んだ。

 この試合は守田のサッカーセンスが随所に光ったが、最も印象に残ったのは、このサウジアラビアの準備を破壊し、先制ゴールを導いた場面だ。ミスマッチこそ、守田にとっては好物なのかもしれない。

 一方、かみ合っていなかった守備も、左サイド側の鎌田、三笘を上げ、右サイド側に南野と堂安が下がる左高右低のアシンメトリーな修正で、結果として4−4−2気味にかみ合わせ、安定させた。前半の終わり頃は押し込まれたが、試合は日本のペースだった。
 
 後半になると、サウジアラビアが3−1−4−2に変更。おそらく4−4−2気味の日本のプレスを外しつつ、アル・ドサリが中央で脅威を与える形を模索したのではないか。しかし、これはあまり効果的ではなかった。

 なぜなら、後半は1点リードした日本がプレッシングをやめ、5−4−1で引いてしまったからだ。スペースがなくなると、アル・ドサリが中盤のつなぎ役をこなすようになり、最高のフィニッシャーがゴールから遠ざかってしまった。

 一方の日本は63分にウイングハーフを前田大然に代えることで、リトリート傾向を一層強める。森保一監督はサウジアラビアを侮らず、注意深く構えた。W杯や親善試合のドイツ戦のように、前後半でチームの違う顔を見せている。

 42分に鈴木彩艶がファインセーブした場面、後半にロングボールから危ない場面はあったが、全体としては日本のコントロールがよく効いていた。鬼門のアウェー戦で大したものだ。

 とはいえ、1点差は何が起こるかわからない。81分にCKから小川航基が2点目を決めたことで、試合は完全に決した。このゴール直後、サウジアラビアは観客が一斉に帰り、監督も座して動かなくなった。Jリーグだと、むしろここから、なのだが。

 2点差でこれほど相手の気持ちが折れたのは、日本がいかに試合を支配し、力を示したか。その証明でもある。

文●清水英斗(サッカーライター)