「パパ、明日の運動会で走ってね」運動不足で“全力ダッシュ”はけがの危険性も…直前でできる対策はあるのか聞いた

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10月14日はスポーツの日。小学生の子どもを持つ親なら、運動会で「保護者対抗リレー」や「借り物競走」に参加しなくてはいけなくなることもあるだろう。

しかし、普段「家から駅、駅から会社まで歩く」「休みの日に近所を散歩する」くらいの運動しかしていない人が張り切って“全力ダッシュ”をしようものなら、思いがけないけがをする可能性もある。

実際に、オムロン ヘルスケアの調べ(2023年)によると、運動会に参加した父親のうち、約1割が転倒や負傷をしているという。

子どもの前で格好いいところを見せたい!けれど大きなけがは絶対に避けたい。

たとえば明日、保護者リレーに参加することになった親がするべき準備とは?一般社団法人 日本スポーツ整形外科学会の広報委員長を務める、大阪行岡医療大学の前達雄教授に聞いた。

要注意は「若い頃足が速かった人」?

「前提として、普段あまり運動をしていない方が子どもたちの前で格好いい姿を見せようとして、突然『全力で運動する』ということ自体が危険なんです。まずは『全力で』という発想を根本的に変えて『8割ぐらいの力で運動する』ということを心がけてください」

前教授によると「子どもの運動会でけがをする」という保護者は多く、その症状は肉離れや転倒による骨折、肩鎖関節(鎖骨と肩甲骨の間の関節)の脱臼、アキレス腱の断裂などさまざまだという。

そんなけがの原因は、「自分のイメージする動きに、実際の体の動きがついていかない」こと。気持ちが焦って前傾姿勢になることで、“体の前面から転倒する”というパターンが多いのだ。

「慣れない運動をするのがだめという話ではなくて、気持ちに体がついていかないというのが大きいんです。『若い頃から現在までずっとフットサルをしている』『ランニングを続けている』といった方は、今の自分のレベルがわかっていると思うので、大きなけがはしないんです。特に、10〜20代の時に足が速かった人や、運動が得意だったという方は要注意です」

少々悲しい事実だが「若いころの気持ちを思い出して」と張り切るのが危険だということはわかった。

「全力で走る」のは避けるとして、けが対策としては「ストレッチする」「湯船で体をほぐす」などが浮かぶだろう。しかし、前教授によると前日にできるのは「運動しやすい服の準備と、参加種目の確認」のみだという。

「普段履き慣れているスニーカーにジャージなど、運動のための服装をしてください。中には革靴で運動会にきて、突然走ることになるお父さんなどもいますが、けがの観点からすると望ましくありません」

前教授によると、しっかりとしたストレッチを10〜20分行ったとしても、その持続効果は1時間ほど。また、お風呂で体をほぐすのも、リラックス効果はあるものの、翌日まで体の柔軟性が続くことはないという。

また、走る気満々でいたものの、実は参加種目は綱引きだった。そんな「思いがけない運動」もけがの原因になってしまうようだ。

「これは保護者参加の種目を事前に教えてくれる、両親向けの案内をするといった学校側の協力も必要ですが、あらかじめ種目を知っておくこと。たとえば1、2カ月前からリレーだとわかっていたら、一度8割くらいの力で走ってみて、足腰の状態を確かめておくということはできるかと思います」

前日にできることが限られるとなると、運動会当日に「お父さん、今日出番あるよ」と明かされた場合は、さらに準備が難しいだろう。“出番直前”にできることはあるのだろうか?

けがをしにくいフォームは「大きな歩幅」

前教授によると、前日の準備と同じく、ストレッチは「出番の直前まで続けなければ」大きな効果は見込めない。出番までに体をほぐしておきたいという人は、あらかじめ出番の時間を確認し、直前まで脚の後面の筋肉(ハムストリング、腓腹筋など)を伸ばす運動をしておくのが良い。

また、けがをしないために「テーピングをする」「サポーターをつける」などは不要。これらはけがをした箇所を補助するためのものなので、体の柔軟性を上げたり、けがをしにくくする効果はないという。

そんな中、心がけたいのは「けがをしにくいランニングフォーム」だ。

前教授によると、ポイントは「1つのステップを大きくするようなイメージで走る」こと。速く走ろうと思って小さな歩幅にするよりも、大きい歩幅で足を前に出すことを心がけることで、体がついてくるようになり、転びにくくなるそうだ。
 
そしてもう一つ大事なのが、やはり「8割の力」で走るということだ。
 
「雨が降った後の駅のホームは、全力のスピードではなく気を付けながら歩きますよね。それと同じイメージで『8割の力』で走れば、けがは少なくなると思います」

ちなみに「学校のグラウンド」という環境も、けがの原因のひとつだそう。表面がサラサラとした砂で覆われた硬い地面は滑りやすいため、特にリレーなどで走るカーブ地点は注意してほしいという。

「カッコいい姿」は来年に向けて作ろう

今年できる一番大切なことは、全力で張り切りたい気持ちを抑えて「8割の力で挑む」こと。もしそれでも「全力で走る格好いい姿を見せたい!」と思う親は、ぜひ来年に向けてけがをしない体を作っていってほしい。

「たとえば『来年の運動会では、100mをしっかり走りたい』という人は、最初は50mを1日5〜10本ほど走って慣らしていきながら、次は100mと徐々に距離を伸ばして、1年先に『100mを何本か走れる状態』を作るということが大事かなと思います」

ちなみに、出番のあと襲ってくるかもしれない筋肉痛への対策も、日常生活に戻るためには大切。出番が終わったらしっかりとアイシングしてクールダウンし、ストレッチ。さらに、家に帰ったらお風呂に入って筋肉をほぐしてほしい。