子育てや教育に唯一の正解はないもの。だからこそ、保護者も教師も日々、試行錯誤の連続です。ああでもない、こうでもないといった積み重ねが、もやもやを少しずつ晴らしていくのかもしれません。

今回は、小学生が髪を染めることへの対応について、小学校教師・たっくんさん(ペンネーム)のエピソードを、ご本人がつづったnoteからご紹介します。

自由、責任、他人の目──。妻との対話の中で、さまざまな視点からこのテーマについて一歩ずつ考えを深めていきました。そのプロセスからは、単なる賛否では語れない本質が浮かび上がってきます。

※以下、ご本人承諾のうえ、投稿内容をもとにご紹介いたします。

※写真はイメージです

この記事のポイント

人は「見た目」ではないけれど…… 自由と責任 「他人とは違う自分」を手に入れるということ 突き放すだけでは伝わらない

人は「見た目」ではないけれど……

「子どもが髪を染めてきたらどう指導する?」

小学校教師12年目のたっくんさんは、ある日、仮の話として妻からこう問いかけられました。

たっくんさんは、小学生が髪を染めることへの違和感を覚えつつも、多様性への配慮もあり、迷いながら回答します。

「なかなか指導しにくいよね。子どもがやりたいっていうより、親の思いで染めてくることもあるだろうし」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

「個性」を理由に、子どもが希望したり、保護者が髪を染めさせたりしているのであれば、そこには立ち入りにくいもの。とはいえ、時代や周囲の環境にもよりますが、髪を染めた小学生が周囲にどう見られるか? はどうしても気になってしまいます。

「でも、結局のところ髪を染めてきた子どもに対するレッテル貼りとかにつながっちゃうんじゃないかなとは思うよ」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

自由と責任

多様性や自由といった言葉は、時に人によってその解釈やとらえ方が異なることも。たっくんさんの妻は、自身の意見としてこう指摘します。

「自由っていうのは社会的なルールやマナーを守った上での選択だと思う。でも、好き放題はその社会性みたいなのを考えないで、自分の思い通りにするっていう意味合いが強いと思うよ。わたし、自由って責任が伴うことだと思う。」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

「髪色は自由」と髪を染めたことがもたらす結果は、自分で負わなければならないもの。しかし「社会性が未熟なうちから、その責任を背負って生きていける子どもはほんの一握りなのでは」と危惧します。

「他人とは違う自分」を手に入れるということ

染髪への賛否を超えて、たっくんさんは別の観点からも、子どもの成長についての考えを深めていきます。

「髪を染めると、さらに別な何かで自分を飾ることに意識が向くのはごく自然なことだと思います。そのことが承認欲求を肥大化させ、自分軸ではなく他人軸で生きることを助長させてしまわないか。この問題は結構大きな問題だと考えます」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

大人でも、子どもでも、自分を飾りたくなるのは自然な感情です。
ただ、小学生は、「自分がどんな人間か」のアイデンティティを築き始めていく時期。

「『外見に無頓着になれ』『外見なんて気にするな』と言いたいのではなく、今向き合うべき本質的な問題に目を向けたほうがよいと思うのです」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

※写真はイメージです

突き放すだけでは伝わらない

自分は何が好きで何が得意か。他人とどんなところが違って、どんな人なのか。子どもが自分に向き合い、葛藤(かっとう)し、試行錯誤する時間はアイデンティティの確立に欠かせません。

「問題は、どうやってクラスの子どもと保護者に伝えるか(特に保護者)。うーん、やっぱり難しい」と頭を悩ませるたっくんさんですが、自分の子どもが「髪を染めたい」と言ってきたら、こんなふうに声をかけようと考えます。

「そっか、そういうことに興味が出てくる年頃になったんだね。気持ちはわからないでもない。
でも、今君が髪を染めることで、周りの友達や先生からの見られ方が変わるかもしれない。そのことを考えたら、自分の見た目や能力、行動に責任をもてるようになってからでも遅くはないんじゃないかな? 」

(たっくんさんの投稿より *一部編集)

自分を飾りたい。周囲とは違う特別な自分でいたい──。その思いを否定することは、誰にもできません。

たっくんさんにも、自身が今では考えられない《トンデモファッション》に身を包んでは、特別な存在になったような気がしていた思春期の黒歴史があり、だからこそ子どもの気持ちに寄り添います。どんな結論になったとしても、「周りに変な目で見られるでしょ」「髪を染めるより前にやることがあるでしょ」と有無を言わさず突き放すだけでは、大事なことは伝わらないと考えるからです。

子育て中は、賛否をつけられない問題、一つの答えを出しきれない問題にたくさん直面します。そんな時にこそ、お子さまといっしょにさまざまな視点から向き合い、考え、悩み、話し合いを積み重ねていくことが、お子さまのアイデンティティをつくる一助になるのかもしれません。

●ご紹介した記事
子どもが髪を染めてきたらどうする?妻の回答に考えさせられた話
https://note.com/tak_teacher_14/n/n4a4033cc6e90

●元記事の著者プロフィール

たっくん|育児書を実践にいかす小学校教師

育児書×小学校教師の視点から子育て・教育の情報発信 ▶小学校教師12年目(1〜6年全ての担任・教務主任・研究主任・育休2回) ▶3歳0歳のパパ