韓江さん=AP

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 スウェーデン・アカデミーは10日、2024年のノーベル文学賞を、韓国の女性作家の韓江(ハンガン)さん(53)に授与すると発表した。

 韓国人にノーベル文学賞が授与されるのは初めてで、アジア人女性としても初となる。

 アカデミーは韓さんの作品について「歴史的なトラウマと対峙(たいじ)し、人間の命のもろさを示す、強烈な詩的散文」と評価した。

 韓さんは1970年、韓国の光州で、作家の韓勝源(ハンスンウォン)さんの娘として生まれた。

 戒厳令のもと、民主化を求める学生や市民と軍が衝突した80年の「光州事件」を巡り、その後を生きた人々の心情をつづる「少年が来る」を執筆した。2016年には、肉食を避ける女性を通して韓国の社会や家族、歴史の問題に迫る「菜食主義者」で、アジア人として初めて英国のブッカー国際賞を受賞。韓さんの作品として初めて邦訳された。

 韓さんには賞金1100万スウェーデン・クローナ(約1億6000万円)が授与される。

 韓江さんの作品は日本でも多くが翻訳されている。代表作「菜食主義者」(きむふな訳)のほか、今年春には、長編小説「別れを告げない」の日本語版(斎藤真理子訳)が刊行された。第2次世界大戦後の済州島で起きた「四・三事件」を扱い、幻想的でありながら、重い歴史に迫ったと、日本国内でも高く評価されていた。

 今年夏に本紙のメールインタビューに答えて、「済州島の天候を実際に感じながらたくさん歩いたことが、役に立ちました。風と雨と雪の中を」と書いた。「完成の喜びを味わいながら(原稿のデータが入った)USBメモリーをズボンのポケットに入れてずっと歩きました」と振り返った。

 韓国文学の翻訳書を主に刊行する出版社、クオンの金承福社長によると、「菜食主義者」は約2万部が刊行されている。「弱い人から目を背けず、深い悲しみを描く作品はすばらしく、これから多くの人にますます読まれるのが楽しみです」と語った。