なぜ「中小企業の20代男性」の未婚率が異常に高いのか…「大企業勤めと公務員から売れていく」厳しすぎる現実
■2040年には「男性5割、女性4割」が生涯無子に
日本の「真ん中」が結婚できなくなっています。
より正確に言うと、中間層の婚姻減少が顕著で、それは自動的に中間層が子どもを持てなくなっていることにつながります。
2021年の出生動向基本調査に基づき、日本の生涯無子率(50歳時点で子を得られなかった人の割合=生涯未婚率+婚歴有無子率)は、男性38%、女性28%に達しました。この数字は、OECD諸国内でもトップの数字です。ざっくり言えば、男性の4割、女性の3割は生涯子どもを持つことができないままということです。
しかも、残念なことに、これが天井ではなく、まだまださらに上昇します。なぜなら、この数字のベースとなる生涯未婚率があがるためです。2040年には、男性の5割、女性の4割が生涯無子となると推計されます。現在30代前半の人たちがそれに該当します。
それを回避するためには、現在の20代後半から30代前半の婚姻増が重要になってくるのですが、その年代の婚姻激減は止まりません。
しかも、この婚姻減は全体的に均等に減少しているのではなく、ある階層にだけ集中した減少傾向が見られます。
ひとつは所得階層による違いです。
■400万〜600万円の中間層が激減
少子化といわれて確かに、18歳未満の児童のいる全体の世帯数は大きく減少していますが、世帯年収900万円以上では、2000年と2022年とを比較してもその世帯数はまったく減っていません。減っているのは、それ以下の年収層であり、特に減少が著しいのがボリューム層である400万〜600万円の年収中間層です(国民生活基礎調査より)。
つまり、婚姻減とは、この年収中間層が結婚できなくなったことによって起きており、ある程度の高年収層以上に限れば、婚姻減も少子化も起きていないことになるのです。
そして、年収による「結婚の壁」の影響を大きく受けるのは男性のほうです。
2022年の就業構造基本調査から、有業男女の年齢別年収別の未婚率を比較したものが図表1のグラフです。
■300万円の女性は600万円の男性を選んでいる
男性は、300万円未満の年収の未婚率がどの年代でももっとも高く、年収があがればあがるほど未婚率も下がる、つまり、高年収ほど結婚しているというわかりやすい形になっています。特に、34歳までに年収600万円以上あれば74%、400万円以上なら63%が結婚していますが、400万円未満だと45%と半分を切り、300万円未満でたった25%しか結婚していないということになります。
対して、女性は自分の年収によって未婚率が大きく変化することはほぼありません。
ちなみに、男女とも20代未婚時代においては、年収中央値は300万円程度ですが、女性が自分と同等の300万円の男性を選ぶことは稀(まれ)です。そもそも夫婦とも同程度の収入同士の年収同類婚は2022年時点でも2割に過ぎません。
先に述べた通り、児童のいる世帯数が減っていないのは900万円以上の世帯収入ですが、300万円の女性が結婚相手として選ぶのは、最低でも600万円の男性であったことを裏付けます。結婚という市場において、男性は「年収の高いほうから売れていく」のです。
この男性の低年収未婚構造をさらに深掘りしていくと、年収を決定づける要因でもある就業企業の規模による差異が浮き彫りになります。
■中小企業の20代男性が結婚できなくなっている
企業の規模別に、100人まで、100〜300人まで、300〜1000人まで、1000人以上と官公庁の5つに分類してそれぞれの年齢別未婚率を計算すると、男性の場合は、企業規模が大きくなればなるほど未婚率は下がります。これは、企業規模が大きいほど年収も高まることと関連します。
2012年と2022年とで、その未婚率を年齢別に同規模比較したグラフが図表2です。
男性の場合は、全体の未婚率があがっているため、どの企業規模であっても未婚率は上昇しているのですが、35〜39歳の直近10年間の未婚率上昇ポイントで比較すると、企業規模が小さい順に7.4→7.3→3.5→2.9%ポイントの上昇となっており、特に、300人未満の中小企業において20代未婚率の上昇が顕著です。中小企業において20代の男性が結婚できなくなっているわけです。
■企業の規模で残酷なほど振り分けられている
ところで、グラフ上では、女性の20代未婚率が100人未満の規模を除いて、4ポイントほど未婚率が下がっていますが、これは有業者だけを対象としており、20代の有業女性の未婚率が下がったように見えるのは、結婚後もそのまま有業者として働き続ける20代が、10年前より増えたことによります。この未婚率計算分母に、有業既婚女性が加算されたことによる計算上のマジックであり、決して20代女性の未婚率が改善されたわけではありません。
ちなみに、官公庁は民間のどの規模の企業と比較しても未婚率が低いだけではなく、この10年でむしろ未婚率を唯一下げている状況です。若者に聞いた就職したいランキングにおいても、公務員が上位を占めるのも納得です。官公庁や公務員の仕事に魅力があるというよりも、安定や安心があるという点が大きいのでしょう。特に、地方では公務員の所得は高いほうに位置づけられます。
このように、未婚率は年収およびその年収を決定づける就業先の規模によって大きく影響を受けます。特に、男性の場合は、年収の多寡または勤める企業の大小によって結婚できる者とできない者とを厳格に振り分けてしまうことになります。
■「いつかはそこそこ稼げる」という未来が見えない
「金がないから結婚できない」という若者の声を「結婚できないことを金のせいにするな」という高齢者がいます。それは高齢者が単に意地悪を言っているのでもなく、彼らが結婚した時代においては、本当に「そんなことはなかった」からに過ぎません。
昭和であっても、20代の給料は高くありませんでした。しかし、たとえ給料が安くても、将来の経済的不安を抱える若者は3割程度にとどまっていました。「今は安月給でもいつかはそこそこ稼げる」と多くが思えたからです。直属の先輩や上司を見てもそういう安心感はありました。しかし、令和の今では、20代の7割以上が将来の経済的不安を抱えています(内閣府世論調査より)。
ニュースなどでは「賃上げ」が取り上げられ、先般の自民党総裁選の候補者会見においても、岸田内閣における賃上げについては各候補とも一様に評価し、踏襲していく旨の発言が多かったですが、そうした政治家がドヤ顔をするほど成果は表れているでしょうか。若者に限らず「所得が増えた」という実感できる方は一体どれくらいいるのでしょうか。
■実質的に使えるお金が2割も減っている
確かに、額面の給料は増えたのかもしれません。が、実際の手取りに関しては「それほど増えていない」どころか、むしろ昨今の物価高と照らし合わせれば、「去年買えていたものが買えなくなった」という印象を抱く人が多いのではないでしょうか。
そしてその感覚はおおむね間違っていません。
国民生活基礎調査に基づき、20代から50代の各年代とも、物価高を考慮した2023年の実質可処分所得の中央値を計算すると、社会保険料など国民負担率が大きく増えているため、1996年のそれにも及ばないどころか、2割以上も減ったままです。
約30年前より実質使えるお金が2割も減っていることの異常さのほうこそ問題視すべきでしょう。こんな状況だからこそ7割もの大多数が経済的不安を訴えているわけです。
一部では、実質可処分所得は増えているなどという言説もありますが、よくよく見れば、一番低かった時期(リーマンショック直後)を始点として「増えている」としていたり、数値が平均値である場合もあったりするので注意が必要です。
■「金がなくて結婚できない」に潜む本音
もはや平均値にあまり意味はありません。平均値は、一部の高所得層がいるだけで自ずとあがってしまう虚構の数字であり、実態を反映しません。むしろ格差が広がっている場合こそ、平均値は無意味なものになります。数値に関しては中央値を見るようにするべきでしょう。
約30年前より実質可処分所得が減っている人が半分以上いる上に、7割が自分の将来の経済的不安を抱えている。その反面、そんな不安など抱かない上位3割の層は、「婚姻減」などどこ吹く風で皆婚時代と変わらないレベルで結婚をしていっています。経済的不安を抱える者と抱えない者との格差がそのまま結婚や子を持つかどうかの差に直結しています。
何も裕福な層の足を引っ張りたいわけではありません。日本の「真ん中」と言えるボリューム層である中間層の底上げこそが必要なのです。少なくとも、若者が、不安にさいなまれて行動を委縮させてしまわないような安心材料こそが求められているのではないでしょうか。
中間層の若者が「金がないので……」と言っているのは、「何も安心できないので」という心の叫びなのかもしれません。
----------
荒川 和久(あらかわ・かずひさ)
コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
----------
(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)