長引くぎっくり腰、実は骨折かも? 寝たきり招く「骨粗しょう症」の危険
「重たいものを持ち上げたら背中に痛みが走って、動けなくなった。急いで病院に行ったところ、背骨が圧迫骨折しているといわれ、さらに骨粗しょう症と診断された。
まだ60歳前なのに、骨折の原因が骨粗しょう症なんて、本当にショック……」
50代後半のA子さんはこう嘆く。
彼女は背骨の圧迫骨折の数年前に肋骨、そのさらに数年前に手首を骨折したことがあったのだが、まさかこの年齢で骨粗しょう症だとは思っていなかったという。
「実はこのようなケースはそれほど珍しいことでもありません」
というのは、山陰労災病院院長の萩野浩先生だ。
「A子さんのように、40〜50代で手首を骨折したことのあるという人は、つまずいたり、転んだときに手をついて骨折しているのでしょう。
この時点ですでに骨が脆くなっていたと思われるのですが、そのことに気づかないまま、骨の強化に努めなかったため、その後、肋骨、背骨など、太い骨を次々に骨折したといえるケースです」
70代のB子さんは、背骨のうち3個が圧迫骨折を起こしていることがわかったという。
最初の骨折時はぎっくり腰だと思い安静にしていたが、痛みが治まらず、医師に診てもらったところ、背骨の2カ所が圧迫骨折と診断され、気づいたという。しかも、そのわずか3カ月後に転倒して3カ所目の背骨も骨折した。
こうした骨折を「ドミノ骨折」といい、一カ所を骨折したことをきっかけに次々と近くの体の中心部分の骨折が連鎖的に起こることがある。
■骨粗しょう症の患者は女性が男性の約3倍
「女性は閉経後、骨密度が極端に減少し、骨折のリスクが増えることがわかっていて、一度、背骨の骨折を経験した人が次の骨折を起こすリスクは5倍になるといわれています。
これが骨粗しょう症の恐ろしいところなのです」(萩野先生、以下同)
骨粗しょう症の患者は、2015年時点で1590万人いるといわれ、女性は男性の約3倍。また、女性の60代で5人に1人が、80代では2人に1人が骨粗しょう症であるという。
「私は、日本人における年間の太もものつけ根周辺の骨折は22万例、背骨の骨折は49万例と推計しています。しかし、背骨の骨折については医療機関で診療を受けた件数で、実際にはこの3倍程度の患者数があると推察できます」
つまり、年間約170万人、18秒に1人が背骨や太もものつけ根周辺を骨折していることになるわけだ。
背骨や太もものつけ根周辺の骨は太いので、いったん骨折すると、治療に時間がかかるだけでなく、痛みで動きにくくなったり、身体的な可動域の制限により生活範囲が狭まったり、寝たきりになることもある。
介護生活に入ったら5人に1人が1年以内に死亡すると萩野先生は指摘する。
こうした骨折のリスクを防ぐためにも、ぜひ取り組みたいのが定期的な骨密度測定と骨の強化だ。
骨が減少するのを抑える薬、骨の形成を促す薬など、さまざまな骨粗しょう症の治療薬があるが、食事や運動、日光浴などの生活習慣を整えることが基本だと訴えるのは、松浦整形外科内科の院長、井上留美子先生だ。
「薬のなかには使用できる期間が限られているものもあります。ですから、お薬だけでなく日常の生活習慣を見直すことで『転ばない体、転んでも折れない骨』を作る必要性があると私は日ごろから患者さんたちに伝えています」
骨を強化するためには食事、運動、日光浴などが大切だ。
「骨を作る栄養素には、カルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどがありますが、日本人の98%はビタミンDが足りていないといわれています。
ビタミンDには食事からとる種類と日光を吸収することにより体内で産生できる種類とがあり、両方とも大切です」(井上先生、以下同)
食事からとるビタミンDは意識的に食べなければ十分な量を摂取することができないのだそう。
骨の原料となるカルシウムは、ビタミンDによって吸収が助けられる。
ビタミンDは、鮭、青魚やきのこ類などに多く含まれ、たとえば、鮭一切れ(約80g)で1日分の量は充足する。
骨を強くするビタミンKは納豆や、ブロッコリー、ほうれん草などの野菜に多く含まれる。
■適度な運動も行いコツコツと骨を強化!
そしてもうひとつのビタミンD補給は日光浴から。
紫外線による日焼けを避けたい人は、比較的紫外線の弱い午前中に日光浴をしよう。ガラス窓は開けて、日焼け止めも塗らない状態で、両手のひらや足の裏を10〜15分程度、太陽に当てるとよいそう。
「適度な有酸素運動も必要です。大股早歩きでドシドシと歩くと重力がかかって骨がしっかり作られるでしょう」
また、年に1〜2度は骨密度を測るようにし、自分の骨密度の変化を把握することも大切だそう。
更年期以降、急激に減っていく骨密度の下降カーブを緩やかにするには、日々“コツコツ”実践することが大切だ。