鄭大世が代表活動を続けられた背景には恩人の存在があった。写真:GetttyImages

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「人生の恩人」

 元Jリーガーの鄭大世にとっていわば“人生の道標”になったのが、元北朝鮮代表の安英学(アン・ヨンハ)である。

「聖人中の聖人。ヨンハさんのことを悪く言う人はいません。常にポジティブで、義理を大切にし、礼儀を重んじて、謙虚。しかも何事にも尽くすスタンスで、エゴが一欠片も見えない人です」

 それでいて「誰よりも悔しい気持ちを持っている」と鄭大世は言う。

「その悔しさもネガティブに見えない。悔しくて他の選手にあたる行為って最悪ですよね、僕みたいに(苦笑)。ヨンハさんは悔しい気持ちを全部自分に向ける。それってとてもポジティブですよね。キャリアを振り返って、ヨンハさんがめちゃくちゃ活躍したクラブってないんです。中心軸でやっていた記憶はないですが、いわゆる人間力でクラブの評価を得ている。引退後に複数のクラブから『来てくれ』と誘われた話を聞くと、やっぱり凄いなと」

 
 鄭大世は川崎フロンターレに在籍時、北朝鮮代表を見下していた。

「強い川崎にいた時、代表チームに合流すると、『なんでこれもあれもないの?』『何このグラウンド?』『練習環境も終わってるでしょ』みたいな感じで愚痴をこぼしていたんです。そんな僕に対し、ヨンハさんは『分かるよ、分かるよ』って全部話を聞いてくれたうえで『でも頑張ろうな』って言ってくれていました。そのおかげで、僕は代表チームで戦えた」

 「僕が道を外さなかったのはヨンハさんのおかげ」と鄭大世は断言する。

「当時迷惑をかけた代表のチームメイト、スタッフには申し訳ない気持ちでいっぱいで今は本当に反省しています。挫折を味わって以降はなおさらその想いが膨らんで、自分の成功はみんなのおかげと思えるようになりました。成功を支えてくれた人たちの中で、ヨンハさんは燦然と輝く一番星です。ヨンハさんがいなければ自分のキャリアはなかった」

 自分がお世話になった意味でも、衝撃の人格者は安英学だった。

構成●サッカーダイジェストTV編集部

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