中継ぎは「簡単じゃない」 大谷翔平のポストシーズン仰天起用プランを論じた米地元記者に届けたい現役戦士の声
投手としての復帰に着々と準備を進めている大谷。(C)Getty Images
「世界一になるチャンスがあるのに7億ドルを投資した選手をベンチに置いておこうと本気で思うのか。チームとファン、そしてこの街にタイトルを獲得する最高のチャンスを与えないのは職務怠慢だ」
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これは現地時間9月12日にドジャースの地元紙『Los Angeles Times』のコラムニストであるビル・プラシュケ氏が、「プレーオフでショウヘイ・オオタニをリリーフ登板できないのか?」と銘打った記事内で大谷翔平について寄せた言葉だ。長年ドジャース番を務めてきた重鎮は、現在、右肘側副靭帯の損傷からの復帰途上にある大谷を来るポストシーズンで中継ぎ登板させるべきだと主張した。
たしかに「夢」のある話ではある。仮に彼がポストシーズンひいてはワールドシリーズのマウンドに上がったとしたなら、世界の野球ファンが大きな関心を寄せるのは間違いない。実際、大谷のリリーフ登板はかねてから、一部の米メディアや識者の間で論じられてきたテーマではある。
ただ、事はそれほど甘くはない。そもそも右肘に2度もメスを入れた選手の復帰を慎重にならざるを得ない理由は、術後のハードルが高まるからだ。
米アナリストのジョン・ロエジェル氏は、自身のリポートで、メジャーリーグにおいて2度目のトミー・ジョン手術を執行した選手が術前と同レベルにまで回復したのは65.5%だと紹介。1回目よりも約15%下がると論じている。そして実戦復帰までの平均リハビリ期間は19.3か月と長期間に及んでいることもまとめられている。
実際、大谷が手術後初めて捕手を座らせた投球練習をしたのは8月31日(現地時間)で、この時はわずか10球しか投げていない。9月4日(現地時間)に実施した2度目のブルペン練習も15球で切り上げている。この丁寧に段階を踏んだ調整ぶりを見ても、二刀流の復活に向けた慎重さは十分に感じられる。
現役戦士も「ブルペンに回れば、不確定要素が増える」と断言。
さらに言えば、いきなり復帰の場で経験値の少ないリリーフで抜擢するプランはリスクも伴う。プラシュケ氏は「ウォーミングアップ必要なのは1イニングだけで、マウンドに立つのも3アウトだけ」と“軽視”するが、即座に出力を上げなければならないことで生じる負荷は小さくない。
かつて大谷の中継ぎ転向について意見した現役投手もいる。MLBキャリア14年で通算718登板をしてきたアダム・オッタビーノ(メッツ)は、昨年11月にニューヨークのスポーツ専門局『SNY』の野球討論番組「Baseball Night in NY」に出演した際に「ブルペンに回れば、不確定要素が増える」と断言。そして、こうも続けている。
「二刀流を続けていくために、健康を維持することが目標なら『転向』が最善だとは言えない。リリーフピッチャーだからと言って、仕事量や負担は皆さんが思うほど減らないと言っておきたい。見方によっては比較的に簡単な仕事かもしれないけど、考慮すべきは選手寿命の観点だ。そう考えると簡単だとは言えない」
百戦錬磨の38歳リリーバーも「簡単じゃない」と言うように、「中継ぎ=先発より楽」というような考え方は、やはり安直だと言わざるを得ない。プラシュケ氏は「ショウヘイ・オオタニなら何でもできる」と結論付けているが、流石に無理がある暴論だとも言えよう。
たしかに大谷は幾度も「不可能」を可能にしてきた。しかし、リハビリ下でDHとして出場し続け、MVPの最有力候補となる活躍を見せている異様な現状以上に何かを求める必要があるのだろうか。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]