うつ病の人は健康な人と比べて特定の脳ネットワークが平均73%も拡大していることが判明
人間の脳ではさまざまな領域が連携するネットワークが形成されており、このネットワークが特定のプロセスを実行しています。うつ病の人とそうでない人の脳を比較した新たな研究により、うつ病の人の脳では特定の脳ネットワークが平均73%も拡大していることがわかりました。
Frontostriatal salience network expansion in individuals in depression | Nature
Part of brain network much bigger in people with depression, scientists find | Depression | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/article/2024/sep/04/part-of-brain-network-much-bigger-in-people-with-depression-scientists-find
近年、多人数のfMRIデータを収集して脳ネットワークの個人間の変動を調査する、「precision functional mapping(精密機能マッピング)」というアプローチが注目を集めています。しかし、精密機能マッピングはこれまでのところ、うつ病の人と健康な人の脳の違いを明らかにする目的では使われていなかったとのこと。
そこでコーネル大学医学部などの研究チームは、うつ病の被験者141人と非うつ病の対照群37人を対象に精密機能マッピングを行い、脳ネットワークのサイズを正確に測定してそれぞれの平均サイズを調べました。
その結果、うつ病の人々ではFrontostriatal salience network(前頭線条体顕著性ネットワーク)と呼ばれる脳ネットワーク領域が、健康な人々と比較して平均73%も大きいことが判明しました。
以下の図は脳の顕著性ネットワークをマッピングしたもので、左が健康な人、右がうつ病の人です。特定の領域に顕著性ネットワークがあった人の割合に応じて、割合が少ないほど青っぽい色に、多いほど赤っぽい色になっています。画像を比較すると、うつ病の人では外側前頭前野(LPFC)や前帯状皮質(ACC)、尾状核(Cd)、被殻(PU)、側坐核(NAc)などの顕著性ネットワークが広いことがわかります。
この結果は、過去に健康な被験者932人とうつ病患者299人から収集された脳スキャン結果の分析でも裏付けられました。研究チームによると、うつ病患者における特定の脳ネットワークのサイズは、時間や気分、経頭蓋(とうがい)磁気刺激治療によって変化しなかったとのことです。
しかし、被験者に特定のうつ症状が生じると、ネットワークの異なる領域間の脳信号の同期が弱くなり、これらの変化が将来的なうつ病の重症度にも関連していたと報告されています。
また、思春期にうつ病を発症した57人の子どもの脳スキャンデータを分析したところ、うつ病患者で拡大している脳ネットワークは、症状が出る数年前から拡大していることも判明。成人になってからうつ病を発症した人でも、同様に数年前から脳ネットワークの拡大がみられたとのことです。
これらの結果は、特定の脳ネットワークの拡大がうつ病の結果として生じているのではなく、うつ病を発症する危険因子になっている可能性を示唆しています。しかし、脳ネットワークの拡大が遺伝によって生じているのか、それとも何らかの経験によって生じているのかは不明です。そして、脳ネットワークの拡大そのものがうつ病に関連しているのか、それとも特定の脳ネットワークが拡大することで別の脳ネットワークが縮小することが関連しているのかもわかっていません。
研究チームは今回の発見について、将来的なうつ病発症リスクを調べる方法の開発につながるほか、個別化された治療法の開発にも役立つ可能性があるとしています。また、論文の共著者であるコナー・リストン教授は、「うつ病に関連しており、うつ病のリスクをもたらす可能性がある脳ネットワークが特定されたことは、それだけで一部の人々にとって心強いことだと思います」とコメントしました。