By OLCF at ORNL

2024年9月時点で公開されている中では世界最大の計算能力を誇るスーパーコンピューター「Frontier」について、Natureが解説しています。

A day in the life of the world’s fastest supercomputer

https://www.nature.com/articles/d41586-024-02832-5



世界各国が開発・設置しているスーパーコンピューターは主に学術用途に使用されており、例えば「小さな雲の粒が地球の気候が温暖化するペースにどのような影響を与えるか」というシミュレーションなど、素粒子から銀河まであらゆる分野の最先端モデルの作成に役立っています。オークリッジ国立研究所の生物物理学者のディリップ・アスタギリ氏はこうした状況を踏まえ、「スーパーコンピューターは科学機器であり、宇宙望遠鏡と同じようなものだ」と発言しました。

Frontierは2022年に登場したスーパーコンピューターで、1エクサFLOPS、つまり1秒間に10の18乗回以上の浮動小数点演算を行える性能を持っています。Natureがまとめた過去のスーパーコンピューターの演算性能は下図の通り。Frontierの登場前に世界最速だった日本の富岳は442ペタFLOPSであり、単純計算でFrontierは富岳2つ分よりも高い計算能力を持っているといえます。



Frontierは合計9408個のノードで構成されており、それぞれのノードには4つのGPUと1つのCPUが設置されています。GPUを大量に使用することで同時に多数の数値計算を行えるようになっており、こうした大規模な並列化が計算能力の向上に役立っているとのこと。科学者がこうしたGPUを活用するにはプログラムのコードをカスタマイズする必要があります。カスタマイズの必要性について、「普通のPCとスーパーコンピューターは普通の車とF1カーぐらい異なる」とテネシー州オークリッジ国立研究所の科学部長であるブロンソン・メッサー氏は述べました。

もちろん、スーパーコンピューターは誰でも利用できるわけではなく、メッサー氏と3人の同僚が毎年4月に申請を評価しています。承認率は平均25%程度で、2023年は131件のプロジェクトが承認されました。2024年にはFrontierの計算に基づいた論文が約500件発表されると試算されています。

こうしたスーパーコンピューターの構築にはエネルギー問題がボトルネックになっているとのこと。計算そのものに電力が必要なだけでなく、計算中に発生するチップからの熱を冷却するためにもエネルギーが必要です。Frontierの前身のスーパーコンピューターである「Summit」では冷却だけで全体の総エネルギー消費量の10%を占めていましたが、Frontierでは3〜4%まで抑えることに成功しました。

なお、今後イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所に設置してある計算力第2位のスーパーコンピューター「Aurora」が最適化の積み重ねでFrontierを抜くと予測されているほか、カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所で2024年内稼働予定の「El Capitan」もAuroraをしのぐ計算能力を持つ予定とのこと。その他、ドイツのスーパーコンピューター「Jupiter」も登場する予定で、スーパーコンピューターの覇権争いが激化しています。