ミニバンからスポーツカーまで「販売の実際」を取材した(写真:スズキ、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業)

新車がほしくても、買えない車種が多い――。

昨今、日本の自動車市場でこんな事態が起きている。受注を停止していたり、納期が極端に長いためだ。人気の高い車種だけでも、10モデル以上が納期を遅延させている。

いったい、なぜこんな事態が起きているのか。主な車種の受注・納車状況を取材した。

トヨタ「ランドクルーザー70/250/300」

トヨタ「ランドクルーザー」はシリーズ化され、「70」「250」「300」の3種類に分けられた。今は、いずれの車種も購入が困難だ。そこで複数のトヨタの販売店に尋ねると、それぞれの事情が見えてきた。まずは、ランドクルーザー70から。

「発売時点で各販売会社、各販売店に一定の台数が割り当てられ、これにもとづいて最初の受注を行った。割り当て台数はすでに完売となり、今は受注していない。受注の再開時期も未定だ。また、受注を再開したら即座に注文を入れてほしいと希望するお客様も多い。水面下では順番待ちができているから、いつ購入できるかわからない状況となっている」


ランドクルーザー70(写真:トヨタ自動車)

すべての販売会社に問い合わせたわけではないから、どこかで受注を継続している可能性もあるが、主だったところはどこも停止していた。

ランドクルーザー250も状況は同じで、どの販売店からも「2025年の末までは、受注は再開されないだろう」という趣旨の回答をされた。

フラッグシップのランドクルーザー300は、受注の停止がメーカーのホームページにも記載されている。購入時に支払う諸費用などがわかるWEB見積りも閉鎖され、完全に販売していないようだ。

では、ランドクルーザーシリーズを買いたいと思った人は、どうすればいいのか。2024年8月中旬時点で、ランドクルーザー250は定額制カーリースのKINTOで取り扱っている。

納期は、ガソリンエンジン車が3〜4カ月、ディーゼル車が6〜9カ月だという。

ただし、KINTOでは、リース期間を満了すると車両を返却せねばならないなど、購入とは異なる注意点がある。自分の所有にはできないため、走行距離やカスタマイズなども含めて使い方に関する制約も多い。


ランドクルーザー250(写真:トヨタ自動車)

これに反すると返却時に精算が発生するから、つねに借りていることを意識して使う必要がある。ただし、リース期間は最長7年間で設定できるから、使用上の制約が気にならなければ、問題ないだろう。

KINTOの取り扱いは、車種によって不意に終了したり再開したりする。購入が困難な車種をKINTOで利用したい場合、ホームページを頻繁に確認したい。

悪路向けSUVがほしいと思ったら?

では、中古車を購入するのはどうか。ランドクルーザーシリーズは、各モデルとも中古車市場に流通しているが、新車の受注を停止した影響で、価格が高騰している。

たとえば、ランドクルーザー300「ZX」の新車価格は730万円だが、中古車市場では1.5倍の1100万円前後で販売されているし、ランドクルーザー250の「VXファーストエディション」は、590万円の新車価格に対し、中古車市場ではランドクルーザー300 ZXと同等の1100万円前後で売られている。


ランドクルーザー300(写真:トヨタ自動車)

どうしても今すぐ手に入れたいならともかく、ランドクルーザーシリーズの中古車は、割高で推奨できない。

ランドクルーザーが手に入らないなら、他メーカーの車種は?」と、考える人もいるかもしれない。

しかし、三菱「パジェロ」の生産も終了した今、国産の悪路向けSUVは、ランドクルーザーシリーズを除くと、軽自動車のスズキ「ジムニー」とこれをベースにした小型車の「ジムニーシエラ」しかない。悪路に強い4WDには三菱「トライトン」やトヨタ「ハイラックス」もあるが、ピックアップトラックだ。


ハイラックス(写真:トヨタ自動車)

輸入車に目をやれば、メルセデスベンツ「Gクラス」があるが、これも新車購入は難しい。

販売店に聞くと、「200万円前後の予約金を預けて注文を入れることは可能だが、納期は短くても2年以上」という。

注文はできるが、納車がいつになるかはわからない、というのが現状だ。なお、生活環境の変化などによってキャンセルする場合、予約金は返金するという。

では、ジープ「ラングラー」はどうか。販売店からは、「納期は約3カ月。在庫車もあり、短期間での納車も可能だ」との返答を得た。


ラングラー・アンリミテッド(写真:Stellantisジャパン)

ラングラーの価格は799万〜889万円で、ランドクルーザー300に近い。この価格帯やサイズ感の悪路向けSUVがほしい場合、ラングラーは有力候補になりそうだ。

スズキ「ジムニージムニーシエラ」

ジムニージムニーシエラも発売以来、納期の長い車種となっている。現行型の発売は2018年だから6年を経過したが、今でも人気は衰えない。

販売店によると「以前は納車に1年から1年半を要していた。直近では、ジムニーは半年から1年に縮まったが、ジムニーシエラは依然として1年前後と長い」という。

ジムニーの価格帯は170万〜200万円、ジムニーシエラは200万〜220万円だ。この価格帯の車種で、発売から6年を経過しながら、納期が半年から1年を要するのは相当に長い。


ジムニー(写真:スズキ)

ジムニーの届け出台数を振り返ると、2018年は月平均1800台前後だった。それが2024年1〜7月の月平均は3443台となっている。増産などにより、発売直後に比べると2倍近いペースで納車されているが、それでも納期は縮まらない。

もっと増産すれば……と考えてしまうが、生産規模を増やすと、その後も同じペースで生産する必要が生じる。将来的に売れ行きが下がると、余分な生産設備を抱えてムダが生じてしまう。さらに開発者からは、ジムニーのような悪路向けSUVの特別な事情も聞いた。

ジムニーには、スペーシアなどとは異なる独自のパーツが使われている。増産するには、これを生産するサプライヤー(下請メーカー)の生産規模も増やさねばならない」

この事情は、ランドクルーザーシリーズも同様だろう。悪路向けSUVの場合、乗用車とは異なる特殊性の高い少量生産のパーツやユニットが採用されている。


ジムニーの副変速機(写真:スズキ)

この増産を小規模のサプライヤーに依頼すれば、メーカーには安定した発注を継続的に行う責任も生じる。つまり、メーカーには、「増産には慎重にならざるをえない事情」があるというわけだ。

ジムニーは、中古車価格も高い。ジムニー「XC」の新車価格は200万2000円(4速AT)だが、2024年式の届け出済み未使用中古車は、約1.3倍の250万円前後で売られている。

納期は依然として長いが、それでも短縮傾向にあるから、「ほしい」と思ったら早めに新車を注文するのがいいだろう。

トヨタ「アルファード/ヴェルファイア

2023年6月にフルモデルチェンジされた「アルファード」「ヴェルファイア」も、人気が高く受注や納期に影響が出ている車種である。多くのトヨタの販売店で、以下のような返答を得た。

「現行アルファード/ヴェルファイアは2023年6月に発表されたが、短期間で販売会社の受注枠を使い切って受注を停止させた。それ以来、受注はしていない。2024年10月から11月には受注を再開すると予想しているが、正確な情報ではない。購入希望のお客様が多いため、受注を再開してもすぐに受注枠を使い切るだろう」


アルファード(写真:トヨタ自動車)

では、新型アルファード/ヴェルファイアの中古車状況はどうか。こちらも中古車価格は高騰しており、アルファード「ハイブリッドZ」は、新車価格620万円に対して中古車価格は1.5倍の900万円前後となっている。これでは中古車も購入しにくい。

それならば、新型アルファード/ヴェルファイアをベースとしたレクサス「LM」はどうだろう。販売店によると、「4人乗りは4〜5カ月、6人乗りは9カ月以上の納期を要するが、注文は入れられる」とのこと。

LMの価格は4人乗りの「500hエグゼクティブ」が2000万円、6人乗りの「500hバージョンL」でも1500万円と高いが、アルファードの中古車もエグゼクティブラウンジとなると1400万円前後に達するから(新車価格は850万円〜)、アルファードの中古車を高額で買うなら、納期が常識の範囲に収まるレクサスLMのバージョンLを検討したい。


レクサスLM500h(写真:トヨタ自動車)

なお、2024年8月中旬時点では、KINTOでのアルファード/ヴェルファイアの取り扱いはない。レクサスLMは取り扱っているが、契約期間は3年に限られる。

※本稿校了後の2024年9月上旬に、KINTOはアルファード/ヴェルファイアの取り扱いを開始した。販売店でも受注を再開する模様だが、前述の通り注文が殺到する可能性が高く、購入するなら迅速に行動したい。

トヨタ「ノア/ヴォクシー」

2022年1月に現行型がデビューした「ノア」「ヴォクシー」は、よく見かける存在となったが、新車の受注は停止しているという。

販売店では「受注枠を使い切り、今は受注を停止している。再開時期は未定だが、おそらく2024年の末以降だ。アルファードやヴェルファイアも受注停止しているから、現時点で受注できるミニバンはシエンタのみ。そこでシエンタを積極的に販売している」とコメントした。

たしかに「シエンタ」の販売は好調で、2024年1〜7月における小型/普通車の車名別登録台数ランキングでは、「カローラ」と「ヤリス」に続いて3位に入った。


シエンタ(写真:トヨタ自動車)

カローラとヤリスは、SUVの「カローラクロス」「ヤリスクロス」など、それぞれ複数のボディタイプを合計したシリーズ全体の登録台数だから、単一ボディではシエンタが実質1位になる。

ノア/ヴォクシーも、7月には両車の合計で1万3883台と、1位のカローラシリーズと同等の台数を登録している。つまり、ノア/ヴォクシーは限界まで多くの台数を生産しているが、それでも納期が遅延するほどの購入希望者がいるから、受注を停止させたというわけだ。

クルマが何らかの理由で受注停止となった場合、生産も止まることがあるが、今回取り上げた車種は違う。アルファード/ヴェルファイア、ノア/ヴォクシーなど、フルに生産しても追いつかないほどの注文が入ったから、受注が止まったのだ。

したがって、特にノア/ヴォクシーは販売ランキングの上位に入るのに、注文できない不思議な状態になっているのである。トヨタは、ノア/ヴォクシーの受注台数を公表していないが、相当な数字なのだろう。

ちなみに、ノアは直近までKINTOで扱っていたが、2024年8月中旬時点では停止している。復活する可能性もあるため、検討している人はKINTOのホームページを頻繁に確認したい。

ノア/ヴォクシーにこだわらなければ、日産「セレナ」、ホンダ「ステップワゴン」という選択肢もある。


セレナ(写真:日産自動車)

居住性を重視するなら、セレナが狙い目だ。身長170cmの大人4名が乗車して2列目シートの膝先空間を握りコブシ2つ分に調節しても、3列目の膝先空間はノア/ヴォクシーが握りコブシ1つ半、ステップワゴンは2つ分だが、セレナ2つ半が確保される。セレナは、シートアレンジも多彩だ。

一方、ミニバンでも走りと乗り心地を大切にするなら、オススメはステップワゴンとなる。低重心で走行安定性も優れ、乗り心地も重厚感がともなって快適だ。


ステップワゴンAIR(写真:本田技研工業)

リモートパーキング機能やハンズオフ(手放し)走行に対応するクルーズコントロールは、ノア/ヴォクシーにしか用意されないが、そこにこだわらないなら、納期が2〜3カ月のセレナやステップワゴンも検討するといいだろう。

ホンダ「フリード」

シエンタのライバルであるホンダ「フリード」は、今年6月にフルモデルチェンジしたばかりの新型車だ。そのため、いわゆる新車効果により人気が高く、納期も長い。

売れ筋となる「e:HEV エアーEX」は、2024年8月中旬時点で「納期は8〜10カ月」と販売店から聞かれた。「e:HEVクロスター」など、ほかのグレードは少し短いが、それでも4〜6カ月を要するそうだ。


フリードAIR(写真:本田技研工業)

メーカーによると「もともとe:HEV エアーEXは売れ筋になると考えていたが、予想を上まわり納期が遅延した」という。「増産も検討している」との話だったが、2024年8月中旬に販売店に尋ねた範囲では、納期の短縮は生じていない。

ステップワゴンは、ノア/ヴォクシーに対して納期の優位性があったが、フリードについてはライバル、シエンタのほうが納期はやや短い。トヨタの販売店によると「納期は3〜5カ月」というから特に短くないが、フリードと併せて検討する価値はあるだろう。

外観のミニバンらしさや3列目シートの快適性ならフリードだが、シエンタは3列目を2列目の下側に格納できて荷室の使い勝手が良い。運転感覚も含めて、シエンタの機能はコンパクトカーに近いために馴染みやすく、価格はフリードよりも割安だ。

シビック タイプR/フェアレディZ/GT-R

最後に、スポーツカーの納期や受注状況をお伝えしよう。ホンダ「シビックタイプR」についてホンダの販売店に聞くと、次のように回答された。

「長らく受注を停止しており、再開のメドも立っていない。キャンセル待ちのお客様も多く、いつ買えるかわからない。以前のNSXのように、購入希望のお客様を残したまま生産を終える可能性もある」


シビック タイプR(写真:本田技研工業)

次に「フェアレディZ」と「GT-R」、日産のスポーツカー2車種はどうか。

フェアレディZについて、販売店は「2022年の発売後、ほとんど受注していない。受注の再開時期も不明だ。納車を待つ人も多く、これが落ち着いた後で受注を再開するだろう」と予想している。


フェアレディZ(写真:日産自動車)

GT-Rのほうは、「もともと生産規模が小さいため(日本国内の登録台数は多い年でも月平均100台程度)、販売は抽選で行っている。2024年の抽選は、春に済ませた。基本的には前年の抽選に漏れたお客様を対象に抽選を実施している」という。いすれも新車購入は難しいようだ。


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せっかく開発しても、ほしい人が購入できなければ、存在しないのと同じだ。購入希望者が買えない状況が続けば不満が募り、メーカーに対する不信感や顧客満足度の低下につながることも考えられる。

転売が横行して中古車価格が高騰して市場が混乱するだけならまだしも、盗難が増えるような事態にもなりかねない。

メーカーは、納期も“商品力の大切な要素”と考えて、お客様を待たせる恥ずかしい売り方をしないように配慮すべきだ。

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)