久保建英に強力なライバル出現!? 番記者が「華麗な左足のキックで際立っている」と絶賛
古巣ヘタフェ戦で再び先発出場した久保だったが、持ち味を発揮できずに今季最低の出来で後半途中に交代した。今回はスペイン紙「アス」、およびラジオ局「カデナ・セル」でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、開幕からここまでの久保について、そしてさまざまなポジションでプレーできる新加入のセルヒオ・ゴメスとの比較をしてもらった。
【久保は危機感からか神経質になっている】レアル・ソシエダ加入以降、あのような姿の久保建英を見たことがない。自分の居場所を主張し、プレーできないことに怒り、一部の批判に腹を立てている。これまでの彼はピッチで楽しみ、見る者すべてを楽しませる選手という、サポーターから愛される一面を見せてきた。しかし今シーズン、少なくともラ・リーガ最初の4試合はそうではなかった。
ラ・リーガ4試合が終了し、久保建英は「気負いすぎている」とスペイン人記者 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
彼が落ちついてプレーできていないのは、本調子でないからだ。あるいは、自分が思っていたよりも試合に入れていないからかもしれない。笑顔が減り、あまり幸せそうに見えないことはいい兆候ではない。平静さを失い、気負いすぎている。チームが久保のいいプレーを必要とし、何よりも本人がそれを必要としているため、無理をしているようにも見える。
その結果、彼はより大きなプレッシャーを感じながらプレーするようになり、物事が前ほどうまくいかなくなっている。まるで体を拘束されているようだ。その反動でうまくいった時には、エスパニョール戦(のゴール後のパフォーマンス)で見せたような、以前にはなかった自分の価値を証明する強い気持ちが現われるのだ。
また、私は前回、今シーズン久保のライバルになり得るシェラルド・ベッカーの資質について言及した。昨シーズン終盤に前線で大活躍したことを考慮すると、そう考えるのは自然だろう。しかし、ベッカーが久保に敵わないことはすでに明らかになっている。もちろん久保の代わりを務めることもあるだろうが、それは一時的なものだ。
ベッカーは3つの攻撃的ポジションをこなせるクオリティーを備えているが、チャンスを生み出す能力は久保に遠く及ばない。それよりも、久保から出場時間を奪う可能性があるのは、イマノル・アルグアシル監督が得た新たなユーティリティープレーヤーであるセルヒオ・ゴメスだ。今季マンチェスター・シティから新加入した。
彼はそのレベルの高さ、ゲームへの貢献度、そしてセットプレーを蹴る能力で、本格的な競争相手となり得る。そして、久保も自分のポジションが以前ほど安泰でないことを自覚している。そのため、危機感からどうしても神経質になるのだ。
だからこそ、久保はこれまで以上に自分が輝いた時に存在感をアピールし、注目を集るのだ。しかし、彼の魔法はチームのなかで比類なきもの。そのため、集中力を高めて臨む限り、スタメンの座に異論を唱える者などいない。しかしそれには、ひとつひとつのプレーをより効果的に行なう必要がある。
【セルヒオ・ゴメスは久保のライバルになり得る存在】イマノル監督はコルネジャ(エスパニョール戦)で勝利したあと、「タケは2月以降ゴールを決めていなかったが、あのような才能とクオリティーを備えた選手にとって、その期間は長すぎた」と語っていたが、この言葉に同意する。もし久保がトッププレーヤーになりたいのなら、もっと決定的な数字を残す必要がある。美しいプレーをするだけではダメだ。
たとえば、先日のヘタフェ戦で彼は主役を演じられず、特筆すべき攻撃的なプレーはひとつもなかったが、もし久保がチームで最も違いを生み出せる選手であるならば、もっと貢献しなければならない。
誰も彼の献身性に疑問を持っていないし、誰よりも懸命に働いていることはわかっている。しかし、みんなが久保に望んでいるのは今以上のものであり、それは両足に宿る才能により、彼に課せられた試練なのだ。もしその期待に応えられないのなら、この夏あまり騒がれることなくやって来て、ピッチの外よりもピッチのなかでより多くを語り、早くも活躍が期待される選手がサン・セバスティアンにいる。
それが、セルヒオ・ゴメスだ。彼は久保のポジションを含め、さまざまなポジションでプレーできる。スタイルはまったく違うが、久保のよきライバルになり得るだろう。
とはいえ、彼は久保を助ける存在になるべきだと思う。というのも、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)が成功を収めるためには、久保がポジションを失うことなく、チームでの地位を維持するために活躍する必要があるからだ。
久保は違いを生み出す能力やフェイント、ドリブル時のスピード、とくに止めるのが不可能と思われるダイアゴナルの動きで輝く選手。一方、セルヒオ・ゴメスは足元にボールを求める選手で、1対1のドリブルではなく仲間との連係やワンタッチプレー、2列目からシュートポジションに入る能力、そして何よりも華麗な左足のキックで際立っている。それこそが彼の最大の長所だ。FKやCKを正確に蹴る能力を備えており、すでにセットプレーの責任者になっている。
ふたりはまったく異なるタイプの優れた選手たちなので、チームにとってベストなのは、一緒にプレーし、相互に補完し合うことだ。
繰り返すが、セルヒオ・ゴメスが久保のライバルになり得る存在なのは間違いない。もし久保の調子が悪ければ、イマノルがエスパニョール戦のように彼をそのポジションで起用する可能性は十分ある。しかし、ラ・レアルにとっては、両者が同じピッチに立つほうがポジティブなものになるだろう。それは、久保が右ウイング、セルヒオ・ゴメスが別のポジションでそれぞれチームに貢献できることを意味するからだ。
【両者が同じピッチに立つほうがいい】セルヒオ・ゴメスは久保にないものを持っている。久保もボールをうまく蹴ることはできるが、セルヒオ・ゴメスはそれ以上だ。また、戦術的センスに長けており、ピッチでどのようにポジションを取れば容易に競り合いやリバウンドを制することができるかを心得ている。
チームメイトとショートパスで連係し、誰も見つけられないようなスペースにパスを通すこともできる。さらに、イマノルと何年も過ごしているにもかかわらず、久保が難しいと感じている、守備をうまくやる方法も知っている。
一方、久保にもセルヒオ・ゴメスにないものがある。それは、たとえば突破力だ。セルヒオ・ゴメスには静止した状態からのドリブルやスピードはないし、ゲームの均衡を破り、ゴールラインまで行き、クロスをあげるような選手でもない。それは久保の得意とするところだ。
さらに、久保は自分が主役を演じるすべてのプレーで魔法を放つことができる。予測不可能で、いつどこで出るかがわからない。それはイマノルが最大限生かさなければならないものだ。そうすれば、久保をベストの状態に戻すことができるし、私たちはそうなることを願っている。
次節はそれを実現するのに理想的な試合となるかもしれない。なぜなら対戦相手のレアル・マドリードは、久保がこれまで常に高いモチベーションで臨んできた古巣だからだ。彼が自分自身の正当性を証明し、すべての批判を黙らせるのに、これ以上の舞台はないだろう。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)