【インタビュー】サッカー日本代表、「Y-3」新ユニフォーム制作秘話!コラボの裏側とアディダス ジャパン担当者が込めた“熱き”想い
いよいよ始まる2026年ワールドカップのアジア最終予選。日本代表は8大会連続の出場を目指し、まずは9月5日(木)、中国代表をホームの埼玉スタジアム2002へ迎える。
日本代表は、この試合から今年6月に発表された新ユニフォームを着用する。
『FIRE』をコンセプトに、青のホームは青い炎、白のアウェイには赤い炎が描かれたユニフォームは、adidas×ヨウジヤマモトによる「Y-3」と日本代表とのコラボレーションとしても大きな注目を集めている。
最近は街中で着ている人を見かけるケースも少なくない、新しい日本代表ユニフォーム。その製作の“裏側”を今回、Qolyが直撃した。
今回お話をうかがったのは、アディダス ジャパンのフットボール事業部でカテゴリーマネージャーを務める金子勝太氏。
新ユニフォームの制作にスタート地点からかかわってきた金子氏に、ここまでの反響やデザインプロセス、その中での苦労、さらには今回のユニフォームに込められた想いなどをたっぷりと聞いた。
売上は前モデル比で約3.4倍!
――日本代表の新ユニフォームの発表から約2カ月が経ちました。反響はいかがですか?
2022年のカタールワールドカップで着用いただき、今回新しいユニフォームが出る前まで着ていただいた前モデル…これもすごく人気で好評いただいていたんですけど、弊社の直営チャンネル(公式ストア)においてはありがたいことにその約3.4倍という販売枚数を最初の1カ月間で記録することができました。
かなり大きな反響をいただいているというのが現状ですね。私たちとして目指してきたターゲット層や客層に対してアプローチがかなりうまくできているのかなというのが結果として出ている部分もありまして、すごくうれしいというのが率直なところです。
――そういった売上の情報などが入ってくるまではやはり緊張というかドキドキしましたか?
本当にドキドキしました(笑)。というのも、今回私も(プレゼンテーションでの発表があった)パリに足を運んでいて、寝ている間に商品の販売が始まっていたという状況でした。
当日の夜に日本へ帰ってきたんですが、そのくらいからいろいろな連絡をいただいて…お客さんもそうですし、取引先の皆さんからもかなり反響があるよということで、うれしい連絡をたくさんいただきまして、ローンチの方法も含め、こんなに大きな影響があったんだなと実感しました。
――今回の日本代表×Y-3のコラボレーションが決まったのはいつ頃ですか?
ユニフォームのプロセスにかかわらず、サッカーに関するプロダクトは通常、他のたとえばカジュアルなアパレルなどよりも基本的には長い時間をかけて企画と開発が行われていきます。本当に皆さんが想像するよりも少し早くから実は開発のプロセス自体は始まっていて。
今回、日本代表とY-3がコラボレーションしていくことが決まったのは、こちらから企画を提出して本当に数週間後というところで、クイックに進んだかなと思います。
――具体的な時期を教えていただくというのはさすがに難しい…ですよね。
そうですね。たとえばファストファッションだと、半年とかで次の企画をパンパンパンパン回していくと思いますが、それよりも長い期間を設けてやっています。
――企画が動き出してから、adidasのグローバルを含めどのような流れで企画が進められていったのですか?
シンプルに言うのは少し難しいんですが、今回かかわっているチームがいくつかあります。
まず、私たちアディダス ジャパンのフットボール企画チームと、グローバルのadidasの…ドイツに本社がありますが、そのグローバルのフットボール事業部。通常、私たち日本のフットボール事業部とグローバルのフットボール事業部がやり取りをしながら進めていきます。
さらに、今回はY-3でやっていくということがあったので、通常のクリエーションプロセス(アディダスジャパンとグローバルのadidas)に対して、今度はグローバルのY-3事業部というところを巻き込んでいます。
当然このY-3事業部はヨウジヤマモト社と一緒に働いていますので、結果的にそのヨウジヤマモト社も加えてという、大きく4つのグループで構成されている形です。
――なんとなくですが、当初はこの夏のビッグイベントに限定した企画だったのかなという印象もあるのですが、そのあたりはいかがですか?
どのユニフォームに関しても、選手であったり、ファン・サポーターの皆さんにも長く愛用してもらいたいという気持ちがあります。そういうものを作ろうということで私たちは考えてやっていますので、特に大会に限定してということではなく、普段から着てもらえるユニフォームにしたいなと思っていました。
今回も心を込めて考えているので、できるだけ長く着ていただきたいと思っています。
――Y-3のコラボというと、ユニフォームではこれまでサードやフォース(※第3・第4ユニ)のイメージがありました。今回、レギュラーのホームとアウェイのユニフォームで実現したことにはどんな理由があるのですか?
これはすごくシンプルで、私たちが選手に着てもらいたい、ファンやサポーターの皆さんに着てもらいたいと思ったユニフォームを、一緒に作れるのがY-3だったというのが一番大きな理由です。
「これをみんなに着てもらいたい」「これを着て活躍してもらいたい」という気持ちがまずあったので、限定的なユニフォームとしては考えていませんでした。
――実際のプロダクト開発に関しては、ある程度キャッチボールをしながら進めていくのかなと思います。今回のユニフォームは『FIRE』がコンセプトですが、やはり1998年の『炎』をモチーフに取り入れた日本代表ユニフォームのイメージに通じるものを感じます。これをいま復活させた理由というのは、どこから来たアイデアだったのですか?
『FIRE』のコンセプト自体は、私たちアディダス ジャパンからの提案として今回始まっています。
ただ、もちろん『FIRE』というコンセプトは、98年のユニフォームで『炎』を題材にしたコンセプトのユニフォームはありましたけど、そこを復活させようという意図はまったくありませんでした。
むしろどちらかというと、そこ(98年のデザイン)に近づかないよう、別の形で出していきたいという思いが最初からあったんです。
98年もフランス絡みでしたし、「点と点をつなげていったらこの形にたどり着いたんでしょう」みたいには、逆に思われたくなくて、そこはすごく意識した部分でした。
この夏の大舞台においては、やっぱりそこで輝く選手たちの姿をまずは想像して…。私たちとしても前回の大会ですごく悔しい思いをしました。もちろんチームもそうだと思いますが、私たちも開催地であったにもかかわらず、直接応援することもできませんでした。
本当に悔しい思いをしたなかで、一度火が消えてしまったところに、もう一度灯していきたい、次は完全燃焼したい、という思いが始まりです。
98年の出だしがどういった気持ちでユニフォームをデザインしたのかは分かりませんが、今回の24年のユニフォームに関してはそういった思いで始まっています。
――そういった思いが込められていたのですね。今回、デザインが出来上がっていく過程において、今のデザインにある程度近いものが最初から出てきた感じだったんしょうか?
毎回あるんですけど、何回かキャッチボールをしながら、「もっとこういう風にしたい」といったやり取りは発生します。
ただ、今回すごく良かったのは、日本人をよく知るチームと一緒にデザインのプロセスもできたので、どういうアプローチをしたら日本国民にとって美しいと思われるか、「着たいな」とか「かっこいい」と思ってもらえるか、みたいなところは比較的早い段階から一緒にすり合わせができたと思います。
もちろん、色味や色のトーンであったり、グラフィックの作り方、配置みたいなところは細かい調整もあるんですけど、大枠のところはわりと早い段階からガチっとハマったなという印象でしたね。
――ヨウジヤマモトというと、パリのイメージがどうしても強いです。Y-3起用の一番の理由はそこにあるのかなと感じるんですが、今年は日本サッカー協会(JFA)とアディダス ジャパンの直接契約が始まってちょうど25周年でもあります。このタイミングだから今回のようなことが実現した部分もあったのかなと想像したりするんですけど、そこは単なる偶然ですか?
そこは申し訳ないですが、偶然になります(苦笑)。あまりというかまったく意識していないところで、こういった質問いただいてそういうこともあったんだなというのが正直なところです。
また、「パリ」というところも実はコラボレーションの一番の理由ということではなくて、今回は日本のサッカーファミリーに対して、どうやったら新しくて、より効果的な、そして受け入れてもらえるかというアプローチがどのようにしたらできるかということを念頭に置いて考えを始めました。
というのも、私たちアディダス ジャパンにとって、日本の中でどうしたらサッカーというものを文化としてより根付かせていくことができるか、というのが以前から掲げているビジョンなんです。
常日頃から海外のようにサッカーの話題が溢れているというか、イギリスやドイツなどサッカーが中心の世の中が片や存在しているなかで、日本はまだそこまでは行けていません。もちろんアプローチは異なると思うんですけど、同じようにサッカーを文化として根付かせたいというのがあります。
じゃあ、どうやって今回そこに根付かせにいこうかというアプローチを考えているなかで、より若い世代をターゲットにすることを考えました。
そうするためには、もともと大きなカルチャーが存在するファッションのレンズを通して、サッカー日本代表ユニフォームを…もちろん「ピッチのユニフォーム」であることは当然なんですけどそれだけではなく、「ストリートのユニフォーム」にしたいという思いもあったからなんです。
そこで、次世代のサッカーファミリーを担っていく若い世代の人たちにも人気が高いY-3とサッカー日本代表のコラボレーションというのは、すごくマッチするなということで提案させていただいたという流れでした。
――アウェイユニフォームが今回、白と赤で構成されています。今までありそうでなかったと思いますが、どういう形で決まっていったんですか?
たしかにそうですね。今まででしたら白ベースに、赤は入っているものもありましたけどアクセントカラーとして使っていたことが多かったと思います。
今回、まず大きなコンセプトとして『FIRE』というものがあります。
それとは別に、ホームとアウェイそれぞれにサブタイトルみたいな感じのもので、白のアウェイユニフォームに関しては同じ『FIRE』でも、赤く、これからどんどん大きくなっていく炎というのをイメージしてデザインに落とし込んでいます。どんどん熱くなって、大きくなり、強くなっていく。そういったところを表現しました。
一方で、ホームユニフォームに関しては、青いユニフォームでさらに青い炎をそこに採用しています。青い炎は、いままさに燃え盛っていて、ものすごく熱い炎、温度の高い炎です。
ホームとアウェイで2つの別々の炎を表現するという意味で、アウェイには白に赤の炎を使ったことにより、色のストーリーや炎の考え方、デザインのアプローチとしてもしっくりくる形になりました。
今回、青いユニフォームに赤い炎を載せるのではまた全然違ったと思います。その点においては、白いユニフォームに赤い炎というのが100%マッチしたと思うので、白と赤の珍しい、今までになかったコンビネーションになっています。
――今回のプロジェクトを進めていて、発表に至るまでさまざまなことがあったと思います。一番これは大変だったな、みたいことは何でした?
今回のようにY-3チームと一緒に取り組んでいくなかで、私たちだけでは決めることができない問題がやはりありました。
グラフィックの考え方やグラフィックそのものというのが一番のところですけど、Y-3として考える美学や美しさ。それは、ユニフォームの素材や生地においても同じです。
どうしたらY-3に求められるものを、フットボールとしても同じレベルに持っていけるか。ここのすり合わせやコミュニケーションというのは、とても、とても大変でしたね(苦笑)。そこが一番苦労したポイントかなと思います。
あとは、拠点が私たちは日本で、グローバルはドイツにあるので、物理的に離れている分タイムラグが発生したり、すれ違いがどうしても発生してしまって。デザインやサンプルをすぐに確認できないといったことも大変でした。
――今回、パリのファッションウィークにて、「Y-3」2025春夏コレクションのランウェイで新ユニフォームをサプライズ発表するというのもすごく特別な取り組みだったと思います。あれはどのようにして決まったのですか?
構想自体は早い段階から、ブレインストーミングをしている時に「こういうのはどうだろう」というラフな会話のなかから出てきたものです。じゃあ、どうやったら実現できるかと考えに至るまでもスピードは速かったなと思っています。
ただ、決まってから実際にショーが始まるまで長い時間があったので、その間どういうふうに進めていくんだろうなとか、本当にこれは進んでいるんだろうかという気持ちもありました。
具体的なプランが出てきた時には「あの時に話していたアイデアが本当に実現しているんだ」と、驚き半分というか。全員がやりたかったことなんだなぁと思って、前例のないやり方になってすごく良かったなと思いますね。
――フットサルなどで新しい日本代表ユニフォームを着ていると周りの人がすごく声をかけてくれて、実際にその人も買ったりしているのですが、「Y-3が入ってあの価格ってすごいよね」と言われたりします。ユニフォームの価格設定に関しては、やはり多くの人が手に取りやすいようにといった“こだわり”はあったのでしょうか?
ここもすごく意味があって、先ほども少しお話したのですが、今回のユニフォームはY-3のプロダクトでもありますし、adidasのプロダクトでもあります。ただ、なによりもまず日本代表のユニフォームであること、なんですね。
Y-3は、ラグジュアリーファッションとスポーツを融合したブランドですので、価格帯も通常のadidasのプロダクトとは異なります。
ただ、日本代表のユニフォームであることを考えた時に、手が届かない方が出てきてしまうことは避けたいという想いがありました。価格帯によっては「欲しいのに買えない」といったことも起こりかねません。
先ほどもお話ししたように、adidasでは、サッカーを文化として根付かせていきたいという思いを強く持っていますので、多くの方に手に取っていただける価格帯を目指すべきだと思っていました。そこはかなり意識して値段は設定させていただきました。
――adidasにとって、Y-3は特別な存在の一つなのかなと思います。今回のような取り組みができたというところで、グローバルなど海外を含む「外からの評価」という点ではどのような声がありますか?
日本代表のユニフォームは特にここ数年…2020年頃からかなり注目をされるようになってきていると思います。
2022年の『ORIGAMI』をコンセプトにしたユニフォーム。そして、なでしこジャパン専用のピンクと紫を使った『SUNRISE』というコンセプトのアウェイユニフォームが2023年に出ましたが、この2つのコンセプトは海外の方からも非常に注目されました。
もちろん、日本代表チームのカタールワールドカップでのパフォーマンスがすごく良かったということもあり、世界中から大きな注目を集めることになりました。そういった流れもあり、おそらく日本のユニフォームに対する意識が世界中で高まっていたのかなと思っています。
2022年にもNIGOさんとのコラボレーションを行いました。この時はユニフォームではなくプレマッチという形で試合前に着るスペシャルコレクションでしたが、そういった日本ならではのコラボレーションもあって、日本自体への興味・関心も年々高まっていると思います。
そういったなかで、今回のようなアプローチができたことにより、ユニフォームもそうですし、サッカー日本代表への興味というのが各国から出てきているのかなと思いますね。それはかなり感じます。
――それでは最後に、adidasとして、日本代表と今後どのような未来を描いていきたいかをうかがってもいいですか?
非常に大切なパートナーですし、最良のパートナーだと思っています。彼らと一緒に取り組むことで、私たちが今まで見られなかったものや、これから見ていけるものも、大きく異なってくると思っています。
だからこそ、今回のようにユニフォームを一緒に企画をして、選手に着てもらうことでサッカーファミリーの数をどんどん大きくしていきたいと思います。
やはりフットボールの担当者としては、競技者の人口であったり、サッカーが大好きでこのユニフォームが着たいと思ってもらえるような人であったり、もっともっとプレーしたいなと思ってくれる人、そして選手に憧れていく子どもたちがどんどん増えていってもらいたいと思います。
今後もJFAさんと一緒に、こういったユニフォームや日本代表選手を起用したキャンペーンを展開していくことで、日本中のサッカーが好きな人を増やしたり、サッカーが好きな人のより強い興味であったり、応援したいなという気持ちを強く作っていきたいと考えています。
――そうした思いが記事で少しでも多くの人に伝われば、と思います。本日はありがとうございました!