「自分はドヘニーの実力を軽くみてない」――楽勝ムードを一掃した怪物の言葉 「絶対王者」だからこそ井上尚弥に求められるモノ

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ドヘニー戦に向けた会見に臨んだ井上。(C)Lemino/SECOND CAREER

 文字通り“無敵のモンスター”として進化した姿を見せる――。「圧倒的優位」とされる試合だからこそ、井上尚弥(大橋)に慢心はない。

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 8月31日、ボクシングの2大世界タイトルマッチ(9月3日、東京・有明アリーナ)の記者会見が、神奈川県・横浜市内で開かれた。WBO世界スーパーバンタム級2位のTJ・ドヘニー(アイルランド)の挑戦を受ける同級4団体統一王者である井上は、「印象的には変わらない。こうして4つのベルト、4団体の防衛戦ができることに誇りを持ち、9月3日は必ず自分の中で納得する試合をこなしていきたい」と意気込んだ。

 今回の一戦は、昨年1月のスーパーバンタム転級以降も圧倒的な強さを堅持し、絶対王者に君臨している井上にとってどのような意味を持つのか。相手のドヘニーは直近3戦こそ無敗で3TKOと絶好調だが、海外メディアなどでの下馬評はお世辞にも高いとは言えない。さらに37歳という年齢もあり、世間でも「井上の防衛」という見方が大半だ。

 必然的にマッチメークを疑問視する声は、実現性が増した今年7月末から少なからずあった。だが、そうしたマイナス的な見方を一変させたのは、他でもない井上の自身の言葉だった。

「もちろん一発は警戒しながら、一発も触れさせないという気持ちで自分のボクシングを展開していく。当日どれだけ体重を増やそうが、フィジカル勝利をしてこようが、スピード勝負で触れさせなければ問題ない。技術の差を見せて、完封したい」

 約2か月前に東京都内で実施されたドヘニー戦正式決定の会見で井上は堂々と言い放った。先述のような世間の空気を悟ってなのか。彼の“断言”は周囲の喧騒をピシャっと沈めた。

 31日の会見でも「歴史を作りに来た」と勇んだドヘニーの挑戦を受ける王者の矜持を見せた。臨席したライバルを目視した井上は、「すごく良いパフォーマンスで仕上げてきて非常に怖い試合する選手」と強調し、こう続けた。

「身体は見るからにでかいし、当日は僕以上にリカバリーしてくると思う。そんな相手だからこそ、自分はKOしたいなと思う」

「スーパーバンタム級で戦う中で避けられない1戦ではある。今回、相手がドヘニーになったということ。自分としてはドヘニーの実力を軽くみていない。皆さんが言うほど簡単な試合になるとは自分自身は思っていない」

 いつもの会見時、少なくともスーパーバンタムに転級してからの過去3戦の会見時よりも眼光の鋭さは強烈だった。それは大衆から「勝ち方」を求められるようになった王者が抱える重圧に向き合っているようにも見えた。

 こうした現象は井上が単なる世界王者と一線を画す所以と言えよう。すでに来年も現階級で戦うと公言している30歳のモンスターには、この先も“圧勝”が求められるはずだ。それは陣営も十分に理解している。大橋ジムの大橋秀行会長は「今やったら、あの時(20、21年のラスベガスでの防衛戦)と全然違う。そういう前人未到のことをやっていくのが、これからの尚弥の役目だと思う」と力説している。

 目の前に立ちはだかる相手をどうやってねじ伏せ、いかに観客を納得させるパフォーマンスを見せつけるか――。今回の防衛戦で井上の双肩にかかる重圧は、世間が考えている以上に重いのかもしれない。

[取材・文:羽澄凜太郎]