【小寺信良の週刊 Electric Zooma!】AI処理の実力は? Google「Pixel 9 Pro XL」で写真と動画を撮る
Pixel 9 Pro XL(左)とPixel 9
4モデル体制となった今年のPixel
8月14日、GoogleはPixelの今年の新モデルを発表した。6.3型のPixel 9、同サイズでカメラが多いPixel 9 Pro、Proと同性能で6.8型のPixel 9 Pro XL、2つ折りモデルのPixel 9 Pro Foldの4モデルだ。公式サイトでは9と9 Pro、Foldの3タイプしかないように見えるが、Proの中でサイズ違いが2台あるという見せ方になっている。
価格は順に128,900円、159,900円、177,900円、257,500円から。9と9 Pro XLは8月22日発売で、9 Proと9 Pro Foldは9月4日発売。例年だと、このあと落ち着いた頃に廉価モデルの“9a”が出るというのが恒例のパターンである。今回は先に発売された9と9 Pro XLをお借りしている。
今年のPixelはカメラ性能や処理速度向上というよりは、AIのフィーチャーがメインとなっているようだ。とはいえ、多くの人が期待するのはやはりトリプルカメラって実際どうなの、というところだろう。今回はPixel 9 Pro XLをメインに、写真と動画性能をテストしてみた。
左から「Pixel 9」、「Pixel 9 Pro」、「Pixel 9 Pro XL」
微妙に変わったデザインテイスト
デザイン的には、これまでPixelは背面のカメラ部がバー状になっているというのが決まりだったが、今回もイメージ的にはそれを踏襲してはいるものの、ボディの端までは届いておらず、島状の突起にまとめている。またボディラインも平坦で、エッジ部分がより鋭角になっている。
左がPixel 8、右がPixel 9 Pro XL
左がPixel 8、右がPixel 9
無印9と9 Pro XLのスペックを比較してみる。ディスプレイが違うのは当然として、メモリ容量が違う。カメラは、メインとワイドは同じで、Proでは望遠カメラが追加されている。地味に一番大きな違いは、前面カメラのスペックで、画素数がかなり違う。自撮りが多い人には、Proモデルは魅力だろう。
9 Proシリーズ(左)は3カメラ仕様
モデル名 Pixel 9 Pro XL Pixel 9 ディスプレイ 171 mm Super Actua1344×2992 LTPO OLED
486 PPI
3,000 ニト 160 mm Actua
1080×2424 OLED
422 PPI
2,700 ニト プロセッサ Google Tensor G4 Google Tensor G4 コプロセッサ Titan M2 Titan M2 メモリ 16GB 12GB ストレージ 128GB/256GB/512GB 128GB/256GB メインカメラ 50メガピクセル Octa PD
F1.68、82度(約24mm) 50メガピクセル Octa PD
F1.68、82度(約24mm) ワイドカメラ 48 メガピクセル Quad PD
F1.7、123度(約12mm) 48 メガピクセル Quad PD
F1.7、123度(約12mm) 望遠カメラ 48メガピクセル Quad PD
F2.8、22度 (約105mm) - 前面カメラ 42メガピクセル Dual PD
F2.2、103度(約17mm) 10.5メガピクセル Dual PD
F2.2、95度(約20mm)
カメラはメインでも24mm、ワイドともなれば12mmもあるが、それは静止画の話だ。動画となれば手ブレ補正のために画角は一回り狭くなる。動画では手ブレ補正はOFFにできないので、静止画同様の画角にはならない。
静止画:ワイド
静止画:メイン
静止画:望遠
動画:ワイド
動画:メイン
動画:望遠
9 Proだけのポイントとしては、動画ブースト機能があることだ。動画ブーストは、昨年12月にPixel 8 Pro向けに提供された機能で、撮影された動画をいったんGoogleフォトのライブラリに送り、クラウドで色、照度、手ぶれ補正、粒状性を処理したのち、ローカルにダウンロードするというものだ。スマホ内の解説には「8K解像度でも撮影できます」とあるが、撮影直後の動画データを調べてみると、フルHD解像度であった。8Kで撮影できるというより、クラウド上で8Kにアップコンバートされるという事ではないだろうか。
動画ブーストの説明画面
手ブレ補正は、標準、ロック、アクションの3つがあるが、常時全部使えるわけではない。4Kでは標準とロックのみ、8Kでは標準のみとなる。アクションが使えるのは、HDで30fpsの時だけだ。マクロフォーカスは、動画ブーストがOFFの時には動作するが、ONでは動作しない。したがって8Kでは動作しないという事である。
このように常時全ての機能が使えるわけではなく、他のモードとの組み合わせで使えたり使えなかったりするため、組み合わせは非常に複雑だ。とりあえずオールマイティになんでもできるのはフルHD/30fpsだけで、それ以上欲を出すと代わりに何かを我慢しなければならない。色々設定を変えて撮影していると、1本の動画素材なのにHDRだったりSDRだったり、4Kだったり8Kだったりと、フォーマットがコロコロ変わる可能性がある。
動画設定は、解像度や動画ブーストの有無で使用できる機能の組み合わせが変わる
時間はかかるが効果は大きい動画ブースト
まずはクラウド上で処理を行なうという、動画ブーストを試してみた。解像度で8Kを選択すると、自動的に動画ブーストがONになる。解像度としてはフルHDや4Kでも動画ブーストは設定できるが、連動してHDRもONになる。OFFにすることもできることから、必須条件というわけでもないようだ。
撮影すると、すぐに動画は再生できるが、それはまだ補正前だ。クラウドに送って処理が返ってくるまで、場合によっては翌日になることもある。昨年の導入時には、夜間撮影に効果ありと説明されていたが、昼間でも色補正や解像感の面で効果はありそうだ。後処理で手ブレ補正が加わる関係で、画角は少し狭くなっている。
ブーストが完了すると通知が来る
動画ブーストによる補正
コントラスト補正に関しては、ブーストなしのほうが良好に見える。画像全体を見るのではなく、人物に対してフェイストーンをどう調整するかといったところまで考えて補正が行なわれるようになれば、より利用価値が出てくるだろう。
一般的な動画撮影としては、カメラの画角に12mmから105mmまでのバリエーションがあるので、1台のスマホでかなり印象の違う画角で撮影できることになる。特に105mmの望遠はかなり寄れるので、象徴的な映像が撮れる。
画角のバリエーションが多いのでコンテンツは作りやすい
カメラ選択としては、0.5倍、1倍、2倍、5倍のプリセットがあり、実際にカメラが切り替わるのは0.5倍、1倍、5倍である。1倍と5倍が画角的にかなりジャンプするので、2倍(約50mm)ぐらいの絵も欲しいところだが、これは1倍のメインカメラをデジタルズームした絵になるので、画質的にはかなり荒れてしまう。単体で見ればこんなものかなと思ってしまうが、編集して見ると他のカットと明らかに画質が合わず、使い勝手は良くない。
「2倍」は画質面でかなり落ちる
手ブレ補正は、「標準」ではやや弱く、歩き撮りには少し厳しい。一方「アクション」は非常に補正力が高く、ジンバルに乗せて撮影したかのような映像が撮影できる。フルHD/30pでしか使えないのが難点だが、それでいいなら積極的に使いたい機能だ。ちなみにロックは手持ちフィックスを撮るための機能なので、移動撮影には向いていない。
手ブレ補正の「アクション」は驚異的な補正力を誇る
スロー撮影は、これもフルHD解像度になってしまうが、4倍と8倍が撮影できる。どちらも画質や解像感を落とすこともなく、かなり良好に撮影できる。
スロー撮影は8倍でもかなり高画質
「ぼかし」モードでは、人物に対して背景をぼかして撮影する事ができる。これはクラウドに送って後処理ではなく、その場でリアルタイムの処理である。特定の被写体をタッチで選択する必要があるが、何かのモノでは動作せず、人物だとうまく動作する。輪郭部分に少しエッジが甘いところもあるが、全体的な印象としては不自然さは少ない。
背景をぼかして動画撮影までできるようになった
5~6年ほど前に静止画でも同様のことができる機能がウケた事があるが、ついに動画でも当たり前にできるようになったというのはなかなか感慨深い。
AI大活躍の静止画
静止画撮影機能で注目の機能は、新設された「一緒に写る」モードだ。これまでグループショットを撮影する場合、前面カメラでは背景まで入らず、また大人数で撮影することは難しいという問題がある。メインカメラでグループショットを撮影する場合、三脚などがあればセルフタイマーも使えるが、そうでない場合は誰か1人が撮影しなければならないため、撮影者が写ってないということになっていた。
「一緒に写る」機能は、まず最初に1人を撮影し、2回目の撮影ではカメラの指示に従ってカメラを構えて残りの人を撮影する。そうすると2枚の写真が合成され、同時に撮影したような結果を出すという機能だ。
最初に1人を撮影
カメラの指示にしたがって2枚目を撮影
2枚目を撮影する際には、1枚目に撮影した人物が半透明で切り抜き状態として表示される。自然な位置になるよう、カメラの角度などを調整するわけだ。
合成された2ショット写真
同じ人物を2回撮影する事もできる
AIによる後処理としては、「編集マジック」に新しい効果が追加されている。
編集マジックに新しく追加された4機能
オートフレームは、AIがより良い画角になるよういくつかの画像を提案してくれる機能だ。試してみたところ、オリジナルの写真よりも引いた画角の画像を生成してくれた。人物の足や背景の植物、空などはAIが自動的に足してくれたようだ。
オリジナル写真
オートフレームで拡張された写真
AIが作った足もとは白のスニーカーを履いているが、実際には黒のサンダルである。
実際に履いているのは黒のサンダル
「ポートレート」は、人物を自動で切り出して、位置やサイズを変更できる機能だ。
人物をタッチすると自動的に切り抜かれる
人物を大きくして手前にいるようにアレンジしてみた
「空」と「ゴールデンアワー」は、背景の空のバリエーションだ。天候に応じてカラーバランスも調整してくれるので、不自然さは少ない。
「空」は背景の空を変更できる
「ゴールデンアワー」は夕景に変更してくれる
そのほか、「イマジネーション」では写真をどうしたいかをプロンプトで指示を与えることで、AIの自動生成が動作するという機能もある。現時点では英語で指示を与える必要があるが、そのうちローカライズされるだろう。
テキストで指示が出せる「イマジネーション」
結果はちょっとわざとらしい
総論
今回のPixel 9シリーズは、Proが3カメラになったのも1つの見どころではあるが、AIによる後処理が大幅に導入されたところが大きい。動画はクラウド処理になるので時間がかかるのが難点だが、HD解像度が8Kになったり、後処理で手ブレ補正が強化されたりといった機能が無料で利用できる。クラウド側の負荷は大丈夫なのかと心配になるほどである。
静止画に関しては、ローカルで処理されるため、色々試して結果がすぐにわかるところが魅力だ。まだLab機能なので正式リリースではないが、人物の切り出しに関してはかなり精度が高く、足りない背景を足すといった処理もそつなくこなしている。
これまでも人物は加工するのが当たり前ではあったが、シミやシワを隠すというのではなく、無いものが加わることで、ある意味撮ったままの写真ではないものが当たり前に出来上がる時代になったともいえる。
こうした機能の一部は、すでに下位モデルにも展開が始まっており、筆者のPixel 8ではすでにポートレート、空、 ゴールデンアワーの3機能は使えるようになっていた。Google Pixelはソフトウェアだけで進化できる余地が大きいスマートフォンだったが、AIの強化によりそのメリットが活かされたといえる。