【リレーエッセイ「ラブレター from 酒場」】これがおいしいから、とかではなく行く店/パリッコ

写真拡大

 僕は、あちこちの街に出かけて行って、未知の大衆酒場を巡ることが一番の趣味である人間です。おのずと、より魅力を感じるのはチェーン店よりも個人店ということになります。

 しかし、そういう目的とは別に、打ち合わせの仕事などで、なじみのない街を訪れることもあります。

 例えば同じ日の日中に2件の打ち合わせが入っていて、その間隔が2時間あったとしましょう。1つ目が終わり、次の街に移動する。時刻は中途半端な、午後2時半。次の予定まであと1時間ほど。さてどうやって時間を潰そう? という場面で、「喫茶店で時間を潰す」という選択肢を選ぶ人は多いでしょう。ちょっとした仕事をしたり、読書や音楽鑑賞などでリラックスしたりと、有意義な時間が過ごせます。

 ただ、喫茶店って基本、お酒置いてないですよね?信じられないかもしれませんが、ならばもう僕は、お酒を飲んで時間を潰したいんですよ。いや、普段の仕事場で原稿を書きながら、昼間っからガブガブ酒を飲んでいるわけではありません。けれどもたまに街に出て、午後そのくらいの時間だったらもう、1、2杯飲んだってかまいやしないという気持ちがある。気ままなフリーライターという立場に加え、専門が酒。つまり、このあとの打ち合わせだって酒にまつわることだし、なんなら場所が居酒屋だったりするんですもん。

 というわけで、駅前を徘徊して良さげな酒場を探してみる。ただ、よっぽどの街でないかぎり、この時間に飲める個人経営の大衆酒場、簡単には見つかりません。

 はい、前置きが長くなりました。そんな時に重宝するのが、チェーン店。「サイゼリヤ」なんてあったら完璧です。あの店、レストランと居酒屋とカフェが合体してるようなもんですから。迷わず入店し、ビールまたは驚異の100円グラスワインを注文。ふぅ、とひと息。

 ここまではいい。ところが今の僕は、サイゼリヤに食事を求めてやって来ていないわけです。というか、夕方〜夜の酒のために、胃袋には余裕を残しておきたい。けれどもサイゼリヤで、料理を何も頼まずに酒だけ飲んでる40代男性はさすがにヤバすぎる。そこで必ず注文するのが「柔らか青豆の温サラダ」なんですね。塩気の効いた青豆の上に温玉と粉チーズという、シンプルな前菜で、たったの200円。誤解してほしくないのは、僕はサイゼリヤで飲むのも大好きだし、そういう時でも必ず、青豆サラダは頼むくらいのお気に入りメニューなんです。けれども今このシチュエーションにおいては、正直言ってあってもなくてもいい。世間体のために頼んでしまっている。青豆に対して「ちょっと悪いな…」という気持ちがなくはない。心の中で「また今度、きちんと食べにくるからね…」と言い訳しながら食べているという、よくわからない状況。

 まさに、限られた場面においてのみ「これがおいしいから、とかではなく行く店」であり、そしてまた、そこがチェーン店のありがたさでもあると思うんです。

「ガスト」には「小さなおかず」シリーズがある。「餃子の王将」には「ジャストサイズメニュー」がある。「はま寿司」には「シャリハーフ」がある。「日高屋」には、メンマ、キムチ、やきとりネギ和えの「三品盛合わせ」がある。どれも、それがどうしても食べたくて注文するわけではないけれど、存在してくれていることに感謝。そんでまた、食べたらちゃんとおいしいし。というのが、今回の僕のアンサーでしょうか。

 さて次回のテーマ。以前「好きな中華料理チェーン」については聞きましたが、もっと広げて「好きなチェーン店」でどうでしょう?

パリッコ:酒場ライター。著書に「酒場っ子」「天国酒場」など多数。スズキナオ氏との酒飲みユニット「酒の穴」としても活動している。「缶チューハイとベビーカー」が絶賛発売中!