クロマグロの親(左)とメジマグロと呼ばれる子は身の色が違う(写真:筆者提供)

7月に北海道釧路市で、太平洋クロマグロの資源管理に関する国際会議が開催されました。国際的な圧力により厳格な資源管理が行われ、徐々にですが資源は回復してきています。

2024年11月〜12月に開催される「WCPFC(中西部太平洋マグロ類委員会)」で正式に決定される予定ですが、2025年以降に30キロ以上の「大型魚」は1.5倍(約2800トン)、30キロ未満の「小型魚」は1.1倍(約400トン)にそれぞれ漁獲枠を増やす案で合意されています。

クロマグロ資源が回復して漁獲枠が増えるのはいいことです。しかしながら、今後の漁獲枠配分や30キロ未満の枠を増やすことをはじめ、マスコミで問題の本質に触れられることは、ほとんどありません。

日本は小型マグロの漁獲枠の増加を要求

会議後の交渉結果を見ると、漁獲枠を増やすことに最も積極的だったわが国と、アメリカ・メキシコなど各国との温度差が感じられます。日本の増枠案は大型魚で2.3倍、小型魚で1.3倍と突出していました。各国ともに、増枠そのものには反対しなかった一方で、「増枠の幅」については、資源の持続性を考えて慎重な姿勢がうかがわれました。

クロマグロの国際会議で、理解すべきことがあります。それは、大西洋では原則禁止されている30キロ未満の小型マグロまで、日本が増枠を要求していたことです。

サステナビリティやSDGsの浸透が進んでいる環境下で、せっかく資源が回復傾向にあるのだから、大切に資源を増やしながら漁獲をしていこうという姿勢が各国には見られました。

特に小型魚の増枠については「アメリカやメキシコから強い懸念」が出ていました。また増枠に当たっては「0歳魚(2キロ未満)の漁獲が増えないよう努力する」という規定が設けられています。実はこの「0歳魚」をアメリカやメキシコは漁獲していません。実質的に日本に向けた規定なのです。

最終的な合意内容は、日本のみ小型魚が増枠となり、同じく未成魚を漁獲している韓国は増枠なしとなっています。これは、日本が小型魚の増枠を勝ち取ったというより、そもそも小型魚の漁獲が「成長乱獲」(成長して大きくなる前に獲ってしまい資源量が減少すること)につながってしまうと懸念する国々との、考え方の相違です。

増えたクロマグロをどう配分するか?

少しずつ増えてきたクロマグロの漁獲枠をどう配分するのか? これが大きな課題です。わが国では、マグロに限りませんが、資源管理よりも目の前の魚をたくさん獲ることに主眼が置かれるという、おかしな状態になっています。

また、国際的には水産資源は国民共有の財産(EU、ノルウェー、オーストラリアなど)となっている、もしくは行政が国民の負託を受けて管理する(アメリカ)のが主流です。一方、わが国では「無主物」となっているため、水産物の位置づけが異なっています。漁獲枠の配分においては、資源の持続性とその価値を最大限にしていくべきです。

科学的根拠に基づく漁獲枠の設定と、それを厳格に守ることで資源はようやく回復してきています。しかしマスメディアの番組でそうした例を見ることはほぼありません。このため、魚に関する資源の持続性やサステナビリティへの意識が欧米などに比べてとても希薄になってしまうと考えられます。

その結果が大半の魚種が激減してしまっている日本の現状なのです。太平洋クロマグロに関しては、皮肉なことに外圧で資源が回復している例外です。

マグロを成熟前に獲りまくる日本


太平洋クロマグロ 年齢別漁獲尾数割合(出所)水産庁 

上の表は、太平洋クロマグロの年齢別漁獲尾数割合です。恐るべきことに漁獲尾数では、実に未成魚(2歳魚・16キロ以下)の比率が実に93.9%以上になります。

漁獲枠の分類は30キロを境に大型魚と小型魚になっていますが、小型魚の大半は30キロ未満どころか5キロにも満たない0〜1歳魚が尾数ベースで86%(2011年〜2020年の平均)もあります。

50%成熟する4歳(約58キロ)以上は3%程度しかありません。大西洋クロマグロで、30キロ未満の漁獲を原則禁止とし、200〜300キロの大型(10歳以上)が普通に漁獲される大西洋とは状況が大きく違います。資源管理の違いにより、泳いでいる魚のサイズ構成が異なってしまっているのです。

かつて、世界における日本のサンマの漁獲量シェアは、8割前後もありました。今では台湾・中国に漁獲量が追い抜かれ、シェアは2割程度に落ちてしまっています。こうなってしまうと、他国との協調が不可欠になりますが、国益が絡む内容なので、なかなか効果がある資源管理ができていません。

一方で、わが国は太平洋クロマグロで、漁獲枠の大半を占めることから資源管理のイニシアチブが取れる立場にあります。小型クロマグロの漁獲枠を増やしてほしいと言うのではなく、漁獲量を抑えて、将来のために大型のクロマグロを増やしていくと言うべき立場なのです。

WCPFCの資料によると、太平洋クロマグロ漁業で、日本の漁獲枠のシェアは全体の75%、小型については86%となっています。他の漁業国からすれば、資源の持続性、成長乱獲を防ぐために日本に小型マグロの漁獲をしてほしくないわけです。

特に畜養はともかく、小型をそのまま水揚げしてしまうことは、大西洋では30キロ未満の漁獲を原則禁止していることを考えればよくないことがわかるはずです。

クロマグロの親と子供の違い

クロマグロの親と子では、その価値が大きく異なることをご存じでしょうか? 冒頭の写真を見ていただければわかりますが、本マグロと呼ばれる親と、メジマグロと呼ばれる子供では、身の色が異なります。親は鮮明な赤色であり、脂がのった腹部にかけてきれいなグラデーションになっています。

一方でメジマグロのほうは、トロの部分がなく、身の色は親のような鮮明な赤色ではありません。2023年の東京市場での鮮魚価格は親の平均がキロ4125円に対し、メジマグロはキロ1454円と親の価格はメジの約3倍です。

メジマグロの漁獲は、同じ数量を漁獲しても小型のため、かなりの本数になってしまいます。また幼魚は成熟していないので卵を産みません。小型魚を漁獲しても、養殖(畜養)に利用するならまだいいのですが、多くがメジマグロ、ヨコワ、本マグロの子などの名称で流通しています

ノルウェーと日本で異なる漁獲枠の配分

さて、これから国内でのクロマグロの枠の配分が大きな議題になってきます。ノルウェーのように、沿岸漁業に配慮した国の考え方が参考になります。

下の表はノルウェーでのクロマグロの枠の配分です。そもそも大型の漁船には枠が配分されておらず、15メートル以下の小さな漁船に限っての配分となっています。


一方でわが国の配分は、大中巻き網漁船向けに約半分となっており、沿岸漁業への配慮という観点で、ノルウェーとは大きく異なっています。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の中には「小規模・沿岸零細漁業者に対し、海洋資源及び市場へのアクセスを提供する」とあります。


現在の状況は、漁獲枠がタイトなためマグロ漁に出られない一本釣り漁船や、マグロを獲っても水揚げできない漁船があります。また、マグロの釣り船は、月ごとに枠が決まっていて、同じくタイトなために月が替わって釣りが再開できても、数日でクローズになっているケースが続いています。

マグロ釣りに行くのにマグロが釣れないのであれば、キャンセルせざるを得ませんので地元経済にも影響が出てしまいます。

太平洋クロマグロの資源はまだ回復途中

本来必要なことは、マグロが増えたからたくさん獲れるようにしたいということではないはずです。マサバなどの他魚種も同様ですが、さまざまな魚種で小さな魚を獲りすぎてしまう「成長乱獲」が日本の海では起きて、資源に悪影響が起きています。

増えたといっても、太平洋クロマグロの資源は、少しずつ回復している途中にすぎません。日本が主導してマグロ資源の将来を決める位置にあります。まずは、小型クロマグロの枠では保留枠を増やして鮮魚などで流通することを抑制し、畜養に回す分に限るといった配分が将来につながります。

また、枠の配分は大型クロマグロの分も含めて、沿岸漁業者への配分比率を大幅に増やすことです。そして資源量が大西洋並みに増えるようになったら大型漁船への配分を増やすといった、ノルウェーでマダラの枠を配分する際に使っている手法を取り入れる必要があります。そうすれば、資源だけでなく、漁業者間の関係も改善していくことができます。

(片野 歩 : Fisk Japan CEO)