Tomonari SAKURAI

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パリオリンピックも終わり、バカンス真っ最中のフランスは静けさを取り戻した。それでも何かネタはないかと考えていると、この博物館のことをふと思い出した。そして、2年前とまったく同じシチュエーションで再び訪れることになったフランス都市交通博物館。ただ、2年前と違うのは、当時は年に3回のみの開館だったのが、現在では毎月第1・第3土曜日の月に2回開館するようになった点だ。

【画像】フランス都市交通博物館のアトリエでレストア中のバスを見学(写真17点)

8月の第3土曜日である17日、午前中の降水確率は0%。しかし、午後から雨になるという予報だったため、朝一番に開館時間に合わせてバイクで出かけた。ところが5分もしないうちにパラパラと雨が降り出し、空は重々しく暗くなってきた。万が一に備えて早めにカッパを着込んだのは正解で、その後すぐに本降りとなった。オリンピックの閉会式が行われたスタッド・ド・フランスの横を通り過ぎる頃には土砂降りとなり、すっかりずぶ濡れの状態で博物館に到着した。

入口では、この博物館を運営するスタッフが手ぐすねを引いて待ち構えていた。長年バスや地下鉄に携わってきたベテランたちが、この博物館を支えているのだ。2年前にも一度訪れたことを告げ、新しく入った展示物がないかと尋ねると、特に新しいものはないという返答だった。そこで今回はアトリエを見せていただけないかとお願いすると、整備を担当するミッシェルさんを紹介され、アトリエへ向かうことになった。

アトリエへ向かう途中、ミッシェルさんと同年代の年配の方々に会うたびに、彼らは立ち止まって挨拶を交わしていた。この博物館の開館日は、バスなどに関わってきた人たちの同窓会のような場になっているようだ。

アトリエには数台のバスが整備中だった。1930年代のルノーTN4Hはエンジンを降ろしてのオーバーホール中で、エンジンは前方にすっぽりと抜けていた。1950年代のルノーR4192は内装の張り替えが終わったばかりだという。アトリエで一番古いのは1925年にナントを走っていたというベルリエVHBで、現在フルオーバーホールが施されている。このバスは、現代でいうマイクロバスにあたり、ホテルなどが駅からお客を送迎するのに使われていたそうだ。また、1934年のルノーTN6 C2は、以前レストアが完了しており、現在も整備中だという。イベントや映画撮影などで走行することがあり、実際にエンジンをかけてくれた。この博物館の車両のほとんどが実際に走ることができ、”生きた博物館”を謳っている。

フランスでは、新しい法律でバスやトラックのような死角の多い車両には、自転車やバイクに対して「死角に気をつけて」というステッカーを貼らなければならない。それが貼られているということは、これらの車両が実際に公道を走行している証拠でもある。そしてさらに奥へ進もうとすると、「そこから先は何もないよ」と言われた。しかし、どうもルノー4がレストアされているようで気になったため確認すると、「それはこの中のメンバーの個人的な車両で、博物館のものではないよ」とのこと。特別仕様かと期待しすぎたようだ。

博物館に戻ると、この土砂降りの中でも家族連れを含め、多くの来場者が訪れていた。そして、博物館が開いている時には、古いバスに来場者を乗せて街を一周することができる。この博物館はまさに”生きた博物館”であり、乗せる方も、乗る方もいきいきと楽しんでいる姿が印象的だった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI