経歴詐称がバレたらどうなる?詐称の項目や損害賠償について解説
1.経歴詐称とは
経歴詐称とは、過去の経歴を隠蔽したり、改ざんして申告したりする行為のことです。経歴は、その人の社会的な信用や能力を評価する重要な要素です。政治家や芸能人の学歴詐称疑惑がたびたび報じられますが、一般の人においても経歴詐称は大きなリスクを伴います。
採用の現場では、履歴書や職務経歴書、そして面接での自己申告に基づいて選考が進められます。採用されるためにつく嘘は、求職者の評価を誤認させる行為です。判明すれば信用に関わるだけでなく、内定の取り消しや懲戒処分になる可能性もあります。
2.経歴詐称にあたる項目
ここからは経歴詐称の具体的な内容を紹介します。
学歴詐称とは、出身校や入学・卒業の事実を偽ることです。具体的には次のような行為が該当します。
また、実際の学歴よりも低く申告することを逆学歴詐称といいます。大学を卒業したにもかかわらず、高校卒業までを受験要件とした特定の採用試験を受けるなどの行為がこれに当たります。
実際とは異なる職務経験を申告することを職歴詐称といいます。具体的には次のような虚偽申請が該当します。
過去の犯罪歴を隠す行為です。採用にあたり、犯罪歴の申告を求めたにもかかわらず申告しなかった場合や、履歴書の賞罰欄に記載すべき前科(有罪が確定した犯罪)を記載しなかった場合に該当します。
ただし、不起訴になったものや刑の言い渡し効力が消滅している場合などは申告しなくても犯罪歴詐称にはあたりません。
実際には契約社員や派遣社員だったにもかかわらず、正社員として働いていたと偽るなどの行為を指します。
取得していない免許や資格を持っていると偽る行為です。例えば、応募条件として資格や免許が必要な場合、保有していると偽って応募することは詐称にあたります。
前職の年収額を偽って申告する行為です。給与交渉を有利に進めるためにおこなわれることがあります。
メンタルの不調で長期休暇を取得したことや、重病を患っていたことを隠す行為です。病歴詐称は労働力の評価や適正配置を誤らせ、業務に支障をきたす可能性があります。
年齢を偽って申告する行為です。採用後に年齢詐称が発覚しても解雇や法的トラブルに直結するとは限りませんが、信頼を損ない、雇用関係に悪影響をおよぼすリスクがあります。
経歴詐称をしてしまう2つのケース
意図的な詐称
採用を有利に進める目的で、学歴や職歴を故意に偽るケースです。未取得の資格や免許に関しては、入社日までに取得する予定であろうと「取得した」と申告してはいけません。
ケアレスミス
学校の入学・卒業年度や前職の在籍期間の年月日を間違えてしまうケースがあります。また、和暦から西暦への変換ミス、資格の名称・等級の誤記といったミスも、結果として経歴詐称と見なされることがあります。
3.経歴詐称が発覚する理由
経歴詐称はさまざまな理由で発覚します。具体的には下記のタイミングで発覚することがあります。
履歴書や職務経歴書の内容と面接の質疑応答に矛盾がある場合、経歴詐称が疑われます。
入社にあたり提出する書類と、事前に申告した履歴書・職務経歴書の内容に矛盾が生じた場合、詐称が発覚します。以下が経歴を示す書類の例です。
バックグラウンドチェックとは、採用にあたって求職者の経歴に隠されている問題がないか、企業や第三者機関が確認するものです。採用調査や雇用調査とも呼ばれます。
リファレンスチェックとは、事前に求職者の承諾をとったうえで、現職(前職)の関係者に求職者の経歴や勤務状況を確認することです。重大なミスマッチや採用後のリスクを避けるためにおこなわれます。
企業によっては求職者のSNSをチェックしている場合があります。SNSで発信している情報と履歴書・職務経歴書の情報が一致せず、詐称が発覚することがあります。
現職、または過去に勤めた企業の同僚による告発や、同業界内のネットワークを通じて詐称が発覚することがあります。
履歴書や職務経歴書に書かれた経験やスキルと、実際の業務遂行能力が著しく乖離していたり、専門的な知識が不足していたりする場合に経歴詐称が疑われます。
4.経歴詐称がはらむリスク
経歴詐称に直接的な罰則はありませんが、内容によっては法的責任が問われる場合があります。経歴詐称が発覚した際に生じるリスクを、入社前と入社後に分けて解説します。
経歴詐称が発覚した場合、内定を取り消される可能性があります。ただし、取り消しが認められるのは、「客観的に合理的であり、社会通念上相当である場合」に限られます(労働契約法16条)。
転職エージェントの強制退会転職エージェントを利用している場合、経歴詐称が発覚すると強制退会させられる可能性があります。転職エージェントは、求職者と企業の双方からの信頼を基盤に運営されています。求職者の経歴詐称は自身の信頼を失うだけでなく、エージェントと企業の関係にも悪影響をおよぼします。
懲戒処分とは、従業員が企業の規則に違反した際に科される処分のことで、違反の程度に応じて以下の7つの種類があります。
戒告(かいこく):厳重注意を言い渡し、反省を求め、改善を促す
譴責(けんせき):始末書の提出を求めて厳重注意する
減給:本来支払うべき賃金から一部を差し引く
出勤停止:一定期間の出勤を禁止する
降格:役職や職位、職能資格を引き下げる
諭旨(ゆし)解雇:退職届または辞表の提出を勧告し、提出させたうえで解雇する
懲戒解雇:従業員との労働契約を一方的に解約する。公務員における懲戒解雇は「懲戒免職」という
懲戒処分の事例
2024年5月、松阪市民病院に勤める看護師が、履歴書などを改ざんして前職での勤務期間を実際より長く申告し、基準以上の給与を受け取っていたとして懲戒免職となった。
出典:三重 NEWS WEB|採用時に職歴に偽り 松阪市が看護師を懲戒免職
経歴詐称が原因で企業に損失を与えた場合や、詐称内容が悪質な詐欺行為と認められた場合、民事訴訟で損害賠償を請求されることがあります。
損害賠償の事例
虚偽の職歴を根拠に賃上げ交渉をし、高額な賃金を獲得したプログラマー(原告)が経歴詐称を理由に解雇された。原告は解雇が不当であると主張。一方、被告(企業)は、経歴詐称によって被った損害に対する賠償を求め、賃金を増額させたことが不法行為として認定され、損害賠償が命じられた。(東京地裁 2015年6月2日判決)
出典:LIBRA|近時の労働判例 ~労働法制特別委員会若手会員から~
看護師や介護福祉士などの国家資格を持つ人には、多くの職場で資格手当が支払われます。例えば、無資格者が資格を持っていると偽って報酬を得た場合、その行為は詐欺罪に該当し、刑法第246条に基づいて処罰される可能性があります。 ・軽犯罪法違反
軽犯罪法1条15号では、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称した者」は、拘留または科料(かりょう)*が科されると規定されています。たとえば、大学を卒業していないのに卒業していると偽ると学位を詐称することになるので、軽犯罪法違反に該当する可能性があります。
*1,000円以上1万円未満の金銭の納付を命じられること(刑法第17条) ・私文書偽造罪
私文書偽造とは、第三者の名義を勝手に使用して履歴書を作成したり、卒業証明書などを偽造し、他人をだまそうとする行為です。ただし、自分の履歴書に虚偽の内容を記載するだけでは、私文書偽造罪には該当しません。私文書偽造罪は刑法159条(第1項)に基づき3ヶ月以上5年以下の懲役が科されます。
無資格業務または名称使用に対する罰則
無資格ではその業務をおこなえない「業務独占資格」や、無資格ではその資格を名乗れない「名称独占資格」に違反すると処罰の対象になります。
〈業務独占資格の処罰の例〉
医師:3年以下の懲役または100万円以下の罰金(医師法第31条)
保健師・助産師・看護師:2年以下の懲役または100万円以下の罰金(保健師助産師看護師法第43条)
理容師・美容師:30万円以下の罰金(理容師法第15条、美容師法第18条)、また免許取得が制限される可能性がある(理容師法第7条、美容師法第3条)
〈名称独占資格の処罰の例〉
保育士:30万円以下の罰金(児童福祉法第62条)
調理師:30万円以下の罰金(調理師法第11条)
社会福祉士・介護福祉士:30万円以下の罰金(社会福祉士及び介護福祉士法第53条)
5.いかなる理由があろうと経歴詐称はいけないこと
経歴詐称は単なる倫理的な問題にとどまらず、法的にも重大なリスクを伴う行為です。軽い気持ちで犯した場合でも罪に問われる可能性があり、後の仕事探しに深刻な影響を与えることもあります。
履歴書や職務経歴書は、正直に作成するだけでなく、職歴に漏れがないか、学歴や資格の年月欄が正確であるかを丁寧に確認することが重要です。
参考
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