パリ五輪で金20個、金銀銅計45個と、海外で開催された五輪の中では最多のメダル数となった日本。選手団やコーチ陣を労う声が多いが、統計データ分析家の本川裕さんは「近年、総メダル数が増加しているのは女子種目、新競技などができた影響もある。また、他国がもし日本と同じ人口規模だったら、何個の金メダルを獲得したかを計算すると、米国は14個、中国は3個だった」という――。

■金20個で浮かれていては日本に再び冬の時代が到来する

夏季五輪パリ大会では日本人選手の活躍で国中が大いに沸いた。毎回のことではあるが金銀銅のメダル数についても何個獲得できたかが大きな話題となった。ここでは、少し冷静になって日本や各国が獲得したメダル数について評価してみよう。

メダル数の評価については、何と比較するかで、大いに左右される。通常、参照されるのは、過去の実績値、目標値、予測値、外国の獲得数などである。まず、最初の3つとの比較について概観し、その後、外国との比較についてやや詳しく見てみよう。

まず、過去との比較について、これまで日本選手団が獲得した金メダル数とメダル総数の推移を見てみよう(図表1参照)。

今回、一番目立っていたのは、金メダル数とメダル総数がそれぞれ20個、45個だったことで、前回東京大会の27個、58個よりは少ないものの、海外で開催された五輪大会の中では最多のメダル数となった。

金銀銅の順で優先順位をつけた「メダルランキングで」でも、今回パリ大会は、前後2回の東京大会、およびメキシコシティー大会と同じ世界ランク3位タイだった。

これまでの日本のメダル数獲得の推移を振り返っておこう。

ソ連のアフガン侵攻に抗議し1980年モスクワ大会を西側諸国がボイコットしたのを受けて1984年のロサンゼルス大会では東側諸国が不参加だったのでロサンゼルス大会のメダル数は額面どおりには評価できない。

ロサンゼルス大会を除いてこれまでの推移を大きくまとめると、高度経済成長を背景に、東京オリンピックを契機に盛り上がった競技スポーツ強化のおかげで20年程度メダル数の水準が高まっていたが、その後、1990年前後のバブル崩壊のあおりをうけ、また、プロ選手の出場が全面解禁された1992年バルセロナ五輪以降の世界的な競技水準の上昇に後れを取ったため、1980年代後半から1990年代にかけ、一時期、メダル数はかなり落ち込んだ。

ところが、2000年頃から、これではまずいと考えた官民の努力で、メダル数増に向けた選手育成や施設整備が継続的に実施され、その成果が徐々にあらわれて、リオでの過去最多メダル数という成果がもたらされ、自国開催の2回目の東京五輪に向けては、さらなる競技力強化策が実施されたため、東京大会ではついに金メダル、メダル総数ともに過去最多となった。

そして、今回のパリ大会も東京大会の余勢を駆って上述の好成績を果たしたと言えよう。

なお、毎回注目される米国のデータ専門会社グレースノートによる開幕時の各国メダル予想では、日本の金メダルは13個、メダル総数47個とされていたので、少なくとも金メダル数については予想以上の健闘であった。また日本選手団の金メダル数目標は20個だったので目標もジャストの達成だった。

■メダル数の増加は女子種目、新競技など競技種増加の影響

データからはこのように日本のメダル数は大きくは徐々に増加して来ている傾向が見て取れるが、オリンピックの競技数自体が女子種目の追加や新競技の導入などで、だんだんと増え、それにともなってメダルの授与数が増えている要因で日本のメダル数も増えている側面もある。そうであるなら、過去の実績と比べると言ってもそのままでの比較では過大評価であることになる。そこで図表2では世界全体のメダル数に占める日本のメダル数の割合の推移を図表2に掲げた。

これは世界の全部でメダルが100個だったとしたら、日本のメダル数は何個だったかを図示したものである。GDPの推移は名目推移とこれにインフレ率をあてはめ実質化した実質推移とが両方、発表されるが、メダル数も実質メダル数というべき値の推移を算出している訳である。

これを見ると、メダル数割合では、1964東京大会の場合、金メダル数9.8%、5.8%で過去最高だったことが分かる。金メダル数、メダル総数が海外開催大会最多だった2024パリ大会の場合、金メダル数6.1%、メダル総数4.3%と前回東京大会だけでなく、1968メキシコシティー大会、1972ミュンヘン大会をも下回っており、海外大会最高とは言えない。

メダル数割合の推移の特徴としては、一度、1964東京大会前後まで上り詰めた増加傾向が、その後、落ち込んでいき、20世紀末のバルセロナ大会、アトランタ大会を底に、再度、V字回復の傾向をたどって来たと言えよう。

ただし、少子化に伴う人口減にともなって人口の世界シェアが縮小していくことを考え合わせると、今後、高度成長期の勢いの中で頂点を迎えた1964東京大会を越えるのは難しそうである。

■メダル数は日本は世界3位だが人口対比ではそう多くない

オリンピックは世界各国の選手団が競い合う競技大会なので、やはり、各国別のメダル数のランキングが大きな興味の対象となっている。各国比較では日本の位置はどう評価したらよいであろうか。

閉幕したばかりのパリ大会での日本の金メダル数は20個でオーストラリアを抜いて世界第3位、メダル総数は45個と世界第6位だった。

基本的にオリンピックのメダル数ランキングは、金、銀、銅の順番で優先順位をつけたランキングとして発表されるのが通常パターンとなっている。日本は、図表3の通り、米国、中国に次いで世界ランキング第3位である。

メダル数の評価で重要なのは人口規模である。人口1億人の国のメダル数が人口10万人の小国のメダル数を上回っていたとしてもそれほど驚くには当たらない。世界に通用するレベルの競技能力をもつような素質のある人間が現れる確率は、国によって人口当たりではそれほど大きく変わらないと考えられるので、人口規模の大きな国はそれだけ多くのメダル数を獲得してもおかしくないはずである。

図では、この点を考慮し、もし日本と同じ人口規模だったら、各国は何個の金メダルを獲得したことになったかという数字(人口調整金メダル数と呼ぶことにする)を掲載した(図表左サイド)。

例えば、米国は人口が3億4000万人と日本の2.76倍なので人口で調整したメダル数は、実際のメダル数40個÷2.76=14個に相当すると考えられる。すると米国は確かに金メダル数世界1ではあるが、人口対比では、日本の20個より少ないと考えられる。

他方、人口調整金メダル数の多さで目立っているのはニュージーランドである。実際の金メダル数は10個であるが、人口が517万人と日本の約4%にすぎないニュージーランドの人口調整金メダル数は何と240個と日本の12倍になるのである。

ちなみに、金メダル数が3個に満たないので図には掲げていないが、人口調整金メダル数では、金メダル1個のドミニカ国(三段跳びのシア・ラフォンド選手)が1870個で世界トップ。次いで、やはり金1個のセントルシア(陸上女子の100メートルのジュリアン・アルフレッド選手)の694個である。人口は順に7万人、18万人のカリブ海に浮かぶ島国で、いずれも五輪での初めての金メダルだ。

中国は金メダル数40個で米国と並んで世界1位であるが、人口が13億人なので人口調整金メダル数では3個にすぎない。金メダル数3個以上の28カ国の中で中国を下回っているのはブラジルの2個だけである。人口を考え合わせると中国は金メダル数の非常に少ない国なのである。

全体的に、図の人口調整金メダル数を見ると、途上国で少なく、先進国で多いという一般傾向を読み取ることができる。

日本は、というと、実は、先進国の中でそう多いわけではない。主要先進国であるG7諸国の人口調整メダル数は、米国14、日本20、フランス30、英国25、イタリア25、ドイツ18、カナダ28となっており、日本は米国、ドイツに次いで下から3番目なのである。

金メダル数13個の韓国は人口調整数では31個と日本を大きく上回っており、同30個の開催国フランス並みに健闘したと言えよう。

こうした観点からは、なぜ日本ではオリンピックの獲得メダル数レベルが少ないのかが問われなければならない。オリンピック大会の起源であるヨーロッパの競技文化にまだ馴染めないところがある点や遠慮がちといった日本人特有の国民性に理由を求めず、それ以外の合理的理由を探すと、私見では、日本では高校野球がさかんだからではないだろうか。

金メダルの可能性のある運動能力抜群の高校生徒が、将来の高報酬と栄誉(イチロー、大谷翔平など)が期待できるプロ野球での活躍を展望して、みな高校野球の道に入ってしまうので、その他の競技スポーツでは怪物選手が現われにくいのではなかろうか。女性の場合は高校野球には向かわない。五輪金メダルの獲得数で近年女性選手が目立つようになったことにもこのことが影響している可能性があろう。

■経済力が左右する五輪メダル数

上で人口あたりのメダル数が先進国で多く、途上国で少ない傾向があると述べた。これは、考えてみれば当然である。

栄養状態、身体の健康度、政情の安定度、スポーツする生活の余裕、また競技施設の充実度など、先進国の方が途上国よりスポーツする環境はずっと整っている。経済発展度を示す人口1人当りのGDPは、人口規模と同じぐらい五輪のメダル獲得数に影響を与えているという米国の学者の研究結果もあるぐらいなのである。

人口規模と人口1人当りのGDPを掛け合わせるとGDP規模そのものとなる。従って、GDP規模(すなわち経済力)とメダル数とが比例するということになるのは当然である。

経済力とメダル数の関係をグラフで理解するため、図表4には、X軸にGDP、Y軸に五輪のメダル数を取った相関図を示した。単年次であると年毎の特殊事情が影響するので、パリ大会までの7大会の結果を掲げた。GDPの値は、こういう場合の通例として、為替レート換算でなく、通貨の強弱に左右されない購買力平価(PPP)換算の値を使っている(IMFによる2024年見込み値による)。

主要国については、7大会の結果をそれぞれ線でつなげて表示したので、毎回のメダル数の起伏も理解できる図となっている。

結論的には基本的には経済規模に比例してメダル数が増える関係にあることが理解できるであろう。

図中には回帰傾向線(対数回帰)を示したが、この線より上の国は経済規模以上にメダル数が多い国、下の国は経済規模に比してメダル数が少ない国と評価できよう。

回帰傾向線より上の場合は、経済以上にスポーツを重視するスポーツ大国、あるいはスポーツによる国威発揚型の国と言えるであろう。米国、中国、英国、フランスなどはこうしたパターンの国である。日本はどちらかというと国威発揚からは遠い国であり、ドイツも日本のパターンに近づいている。

2024年パリ大会で米国は中国とメダルランキングのトップを争ってデッドヒートを繰り広げたが、図表3で見たようにメダル総数では中国を圧倒的に引き離しており、経済規模との関係では、他国と比較してひときわ多くのメダルを獲得しており、その状況がますます強まっている点で目立っている。国際政治上でやや失われてきている威信をスポーツで取り戻そうとしているようにも見える。

他方、相対的なメダルの少なさが目立っているのはインドである。人口では中国を追い抜いたインドであるがパリオリンピックのメダル数では6個(金メダル0個)と中国の91個(金メダル40個)とまるで比較にならない。なお同じ南インドの人口大国パキスタンはメダル数1個、バングラデシュは0個である。頭脳や事業経営では優秀であるインド人がなぜスポーツには力が入らないのかは大いなる謎である。

オリンピック大会の自国開催がメダル数を増やす効果がある点はよく知られている。図中に自国開催の場合にはマルに黄色の印を付けておいた。図を見れば、2000年のシドニー大会がオーストラリアの、2008年の北京大会が中国の、2012年ロンドン大会が英国の、2021年東京大会が日本の、そして2024年パリ大会がフランスのメダル数の増加に大きく寄与したことは明らかである。

そして自国開催から1〜2回後の大会でもその余波でメダル数が高止まりする傾向も見て取れる。ただし、日本の場合、2021年の東京大会で急増したメダル数は次のパリ大会では急減し、自国開催の余波は少なくともメダル総数については見られない(金メダル数は明らかに余波が認められるのであるが)。

金メダル数が世界3位だったことに浮かれず、世界のメダル総数との対比(図表2)やメダル数についての経済規模との相関(図表4)で冷静に判断すれば、パリ大会での日本のメダル獲得数の評価は、多くも少なくもないまあまあの水準だったと認められよう。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)