ニューヨーク金先物価格、地政学リスクの高まりで最高値更新の可能性も

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先週(8月5日週)の動き:利益捻出の売りにNY金は一時急落も最高値水準に復帰、国内金価格は円高加速の影響から一時大幅安に

ニューヨーク金先物価格(NY金)、株式市場の影響を受け売買交錯するも一時的に最高値更新

先週の内外金市場は、大荒れ状態となった。前週から続いた為替市場での米ドル円相場の値動き加速(米ドル安円高)に反応するかたちで、週初8月5日に日経平均株価が前週末比4,451.28円、12.4%安と1日としては過去最大の下げ幅を記録したことを端緒に世界同時株安現象のリスクオフ中で、ニューヨーク金先物価格(NY金)は売り買い交錯状態となった。

8月2日に発表された7月米雇用統計にて失業率が市場予想を超えて上昇(4.3%)したこと、米経済の減速あるいは後退観測が高まったことを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)による9月利下げ観測が100%織り込まれた。それによって、NY金は一時2,522.50ドルと最高値を更新した。

高値警戒感が強まる中で、8月5日に始まった株式市場を中心とする混乱は、安全資産としてのゴールド買いが見られる一方で、株式など他資産の清算にともなった現金捻出(キャッシュアウト)の対象に利益の出ているゴールド売却も活発化し8月5日は売買交錯状態となった。8月5日の高値は2,500.80ドル、安値は2,403.80ドルと1日100ドル近い値幅は、そのまま先週のNY金のレンジとなった。

FRBによる9月利下げ観測だが、利下げ幅が0.25%から0.5%に拡大されるとの見方や、年内の利下げ回数も3回に増加を読む見方が増えた。このような状況であったこともありその後、週後半に向け世界的に株式はじめ市場横断的に落ち着きを取り戻し、NY金は益出しの売りが一巡、買い優勢に転じた。そのため8月9日の終値は2,473.40ドルと、前週8月1日に記録した終値ベースでの過去最高値2,480.80ドルに接近するところまで回復して取引を終了した。

週足は前週末比3.6ドル、0.16%高で続伸ということに。最高値水準を維持して終了したことになる。想定レンジを2,440~2,530ドルとしていたが、前述のように市場波乱の中で2,403.80~2,500.80ドルとなった。

国内金価格は、円高加速の影響を受け大きく下落も想定レンジ内の展開に

一方、国内金価格は8月5日に米ドル円相場の円高加速の影響を大きく受けることになった。2,400ドル台のドル建て価格の水準で、米ドル円相場の1円の変動は国内価格には1グラム当たり77円ほどの影響をもたらす。

ファクトセットのデータでは、8月5日の米ドル円の安値は141.69円、前週末の146.55円からは5円ほどの米ドル安円高となった。それに加えNY金の値幅が100ドル近くに拡大したことから、大阪取引所の金先物価格(JPX金)は前週末比752円安の1万1110円で終了。1日としては過去最大の値下がりとなった。終値ベースでは4月2日以来4ヶ月ぶりの低水準に。

ただし、週後半に向け米ドル円相場が146、7円台で落ち着きを取り戻し、かつNY金が戻りに転じたことで8月9日には一時1万1545円を付け、1万1463円で終了した。それでもJPX金の週足は399円、3.36%安となった。レンジは1万1092~1万1863円となった。加速方向にあった米ドル円相場を考慮し、先週は国内金価格の下値を1万1100円としていたことから、想定レンジ1万1100~1万1860円通りの展開となった。

中国人民銀行金準備、3ヶ月持ち分に変化なし

金市場の話題としては、中国人民銀行が毎月7日に定例で公表している前月末の外貨準備の内訳で金準備に変化がないことが判明した。2022年11月以来2024年4月まで18ヶ月連続で持ち分を増やしてきたが、5月以降7月まで増加は止まったことになる。

現時点の保有量は約2,264トンとなっている。公表は国際通貨基金(IMF)への届け出がベースになっている。一方で、中国はかつて外貨準備の一部を運用に回す国家ファンド(SWF)を有している。運用資産に金(ゴールド)が含まれているとみられる。しかし、その実態は明らかではない。さらに、中国工商銀行はじめ中国銀行、中国農業銀行、中国建設銀行と国有4大商業銀行は金(ゴールド)の窓販を行っているが、国有ゆえにその販売在庫も広義では持ち分としてみなすこともできるだろう。したがって、定例発表分の増加が見られないことが、広義の持ち分が増えていないと言い切れないのが実態といえる。

今週(8月13日週)の見通し:中東情勢の緊迫化など地政学リスクの高まりに注意。米経済指標では14日発表7月米CPI、15日発表の7月米小売売上高に注目

米主要経済指標の経済指標動向に注目

日本が連休となった8月12日のNY金は中東情勢の緊迫化など地政学リスクの高まりもあり、終値は2,504.00ドルと終値ベースでの最高値を更新して終了した。一時2,513.40ドルまで買われた。取引時間中の最高値は8月2日の2,522.50ドルだが、それには至らず。イスラム組織ハマスの最高指導者が先月イランで死亡したことを巡り、ハマスを支援するイランがイスラエルによる暗殺とみなして報復攻撃に出るとの見方が強まっている。また、ウクライナがロシア領土に攻め入るなど軍事的な動きの活発化に市場は警戒感を高めている。
 
今週の米国ではFRBの政策方針を探るうえで注目度が高い物価指標などの発表が相次ぐ。8月13日(火)に7月の生産者物価指数(PPI)、14日(水)に7月の消費者物価指数(CPI)が発表される。注目のCPIについては前月比で物価上昇率の上振れの可能性が指摘されているが、前年同月比では引き続き緩やかな伸びにとどまると予想されている。多少の加速が見られても、9月利下げ転換には影響がないとみられる。15日に発表される7月小売売上高も、個人消費の動向を見る上でもポイントとなる。

今週の予想レンジ:NY金2,460~2,550ドル、国内金価格は1万1440~1万1950円

NY金は12日の安値を下限に2,460~2,550ドルを想定する。中東情勢の流動化で一時的に上値を試す可能性を予想するが、その水準を維持できるかというと難しそうだ。米ドル円は145~8円のレンジでの安定を読み、国内金価格は1万1440~1万1950円を想定している。

亀井 幸一郎 金融貴金属アナリスト/(有)マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表取締役