ウクライナ待望のF-16戦闘機が同国で運用を開始しました。同国にとっては初のNATO規格の戦闘機ですが、いわゆる「ゲームチェンジャー」になるのでしょうか。そもそも、F-16の供与には別の意味合いが含まれている模様です。

ウクライナ向けのF-16は100機弱

 2024年8月4日、ウクライナ空軍仕様のF-16「ファイティングファルコン」戦闘機が披露されました。

 ロシアに侵略されるウクライナを支援するため、2023年春にF-16の供与が決定されて以来、パイロットの訓練や機体の整備など、多くの課題がありましたが、1年を経てようやく引き渡しが実現したといえるでしょう。ただ、ロシアは強大な軍事力を有する大国です。果たしてF-16は「ゲームチェンジャー」となり得るのでしょうか。


2024年8月4日、ウクライナ空軍の日に合わせて行われたF-16の運用開始式典で訓示するウクライナのゼレンスキー大統領(画像:ウクライナ大統領府)。

 F-16が到着したにより、ウクライナは防空能力を飛躍的に向上させられることは間違いありません。ロシア軍の防空網を突破し、地上部隊を支援し、制空権を一時的に掌握することは可能になるでしょう。しかし、F-16が単独で戦争の勝敗を左右する「ゲームチェンジャー」となるかは疑問が残ります。

 ウクライナに引き渡されたF-16の数は不明ですが、現時点では十数機以下と考えられます。供与予定は95機のため、全数が引き渡されればウクライナ空軍にとって大きな戦力向上が見込めますが、それでも1000機以上の戦闘機を保有するロシア空軍の1割に過ぎません。したがって、F-16の有無によって戦局が大きく変わることはないでしょう。

 このようにF-16の役割は相対的なものであることから、決定的な要因とはならないでしょうが、無視できない存在であることは間違いないはずです。F-16は優れた飛行性能と多様な兵装を搭載可能な汎用性を兼ね備えており、ロシア軍の航空機やミサイルに対する効果的な迎撃手段にはなりえます。

優れた多用途性の獲得は今後の課題か

 具体的には、低空を飛来する巡航ミサイルやドローンに対しては、既存の防空システムに加え、新たな対応能力を提供するだけの性能を持っています。

 特に期待されるのは、ロシア空軍の戦闘爆撃機Su-34による滑空爆弾を用いた対地攻撃への対抗手段としてです。F-16は、従来のウクライナ空軍機にはなかった自律誘導型のAIM-120「アムラーム」空対空ミサイルを運用できる能力があり、高い空中戦闘能力を有しているため、ロシア空軍への有力な対抗手段となるでしょう。


2024年8月4日、F-16の運用開始式典で上空をフライパスするF-16戦闘機。右側に立つのはウクライナのゼレンスキー大統領(画像:ウクライナ大統領府)。

 しかし、F-16の運用には高度な技術と経験が求められます。F-16は多用途に使える戦闘機、いわゆる「マルチロールファイター」ですが、パイロットをその多用途性に適応させるには、長きにわたるトレーニングが必要です。ウクライナのパイロットたちがF-16への機種転換および習熟を行うために使えた訓練期間はわずか1年に過ぎず、このなかでF-16の全能力を発揮できるだけの技術を習得するのは現実的ではありません。戦闘機の真価を発揮するための鍵は訓練の質と量であるため、今後も人材の育成は大きな課題となるでしょう。

 加えて、整備や補給の体制も整える必要があり、これらの課題を克服するためには国際的な支援が不可欠です。

 ロシア側もF-16の導入に対して対策を講じることが予想されます。高性能なSu-35戦闘機による護衛の強化や、新たな防空システムの戦術など、ウクライナの空軍力に対抗する手段を講じるでしょう。したがって、F-16がどの程度戦闘に寄与できるのかは、今後の戦況や両軍の対応次第と言えます。

 とはいえ、F-16の運用がウクライナで始まったことは同国にとって大きな前進であり、戦闘能力の向上に寄与することは間違いありません。ウクライナの防衛力強化に向けた「一歩」として、F-16の役割は今後も注目されるべきだと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は考えます。