東京・銀座のソニービルで開催中の「PS3」体験会。19日まで、午前11時から午後7時まで。(撮影:吉川忠行)

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「画像がきれい」――。フルHD(高解像度)対応をウリにした「プレイステーション3(PS3)」のデモンストレーション機の前で、足を止めた女性からこんな声が漏れてくる。都内の大手家電量販店の入り口近く、目立つ場所に据えられた特設展示の前にはあっという間に10人ほどの人だかりができた。11日の発売日を前にゲームを実体験できるだけあって、コントローラーを握る人が絶えることはない。

 「PS3」の注目度の高さはその機能にある。大容量の次世代光ディスク「ブルーレイディスク(BD)」再生機を搭載して、高性能の映像機器としての性格も併せ持つ次世代型ゲーム機だ。9月には販売価格を当初予定の6万2790円から4万9980円に引き下げ、値段の高さに二の足を踏んでいた顧客の注目の引き戻しに出た。年末商戦の激化に向け、12月2日に発売される任天堂の家庭用ゲーム機「Wii(ウィー)」(希望小売価格2万5000円)などに対抗する。

 現在、「PS3」の入手は困難とされている。ネット通販のアマゾン・ジャパンは「PS3」の先行予約を10月16日午後7時から開始。20分で販売予定台数に達した。また、都内近郊を中心に展開する大手家電量販店では抽選を予定しており、「台数が限定されているので、入手は困難になるのでは」(同社販売員)と見込む。

 注目度の高さや入手困難な状況から、一見、売れ行き好調による品薄のようだが、話はそう簡単ではないようだ。今回の品薄は、ソニーグループ内で青紫色レーザーダイオードの生産の遅れが出たことで、「PS3」用基幹部品の調達が目論見(もくろみ)どおりに進まなかったことが起因している。この生産の遅れにより、ソニー・コンピュータエンタテインメント・ヨーロッパ(SCEE)は9月初旬、11月17日に予定していた欧州での「PS3」の発売を07年3月に延期すると発表。5月時点で全世界での販売台数400万台(年内)としていた見込みは、日米2カ国で200万台と、地域が狭められた上に販売台数も半減した。また、「PS3」の国内の初期出荷台数は10万台程度(ソニー・コンピュータエンタテインメント広報)と、投入後わずか3日間で98万台を売り上げた「PS2」に比べ品薄感は否めない。現在の品薄状況は単なる人気の反映ではないようだ。

 今年3月、ソニーは「PS3」に関して「月産100万台規模の生産体制を早期に構築し、プラットフォーム(基盤)の立ち上げを一気に推進する」と公言していた。また、同社ホームページに掲載されている「株主の皆様へ」と題したハワード・ストリンガー会長のコメントには、発売予定の新製品の具体名としては「PS3」の名前が挙がっており、「エキサイティングな新製品」と評されている。

 前期の通期決算でも今期ゲーム部門見通しについて、同社は「『PS3』の発売にともない、大幅な増収を見込んでいる」と期待感を表していただけに、生産の遅れという今回の誤算は大きい。

 利益面では、「PS3」を各種サービスの基盤として立ち上げるための費用が響き、ゲーム事業単独で、2000億円の営業赤字とする通期の業績見通しを発表(05年通期は営業利益87億円)。ソニー本体も業績悪化に苦しんでおり、中間決算では、全世界で大幅増収した液晶テレビ「ブラビア」などが寄与し、売上高が前年同期比9.7%増の3兆5984万円、純利益が同60.2%増の339億円だったものの、世界で約960万個を予定している充電池の回収費用512億円が大きく響き、営業利益はほぼ10分の1の同90.9%減の62億円だった。

 「今期(07年3月末まで)の『PS3』の生産出荷台数600万台は無理な数字ではない」。

 10月の中間決算の説明会の席上、ソニーの大根田伸行CFO(最高財務責任者)は強気な発言を繰り返した。「2000億円の赤字を出して、投資の回収は可能か」との記者席からの質問には、「(「PS3」などの)ハードとソフト両方の売り上げによる投資の回収は可能」と淡々と強調した。

 街はクリスマス色に色づき始めた。昨年12月から販売されている「Xbox360」(マイクロソフト社)に、「PS3」「Wii」の発売が加わり、3つどもえの様相を呈した年末商戦が激しさを増すのは必至。しかし、小売店販売員に「PS3」の販売予定を聞くと、「クリスマスまでにお客様に十分供給できるかもめどは立っていない」と申し訳なさそうに顔をしかめる。

 ソニー復活の命運を賭けた「PS3」。のるかそるか。発売前のつまずきから立ち直れるかが注目だ。【了】

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