●2度目の朝ドラ出演に喜び「だるまに目を入れました(笑)」

『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ役など知られる声優の田中真弓が、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月〜土曜8:00〜ほか ※土曜は1週間の振り返り)で女中の稲役を好演。来年で御年70歳となる田中だが、主戦場ではない映像の仕事について「全然慣れてないから70歳で新人です(笑)。まだまだ伸びしろだらけ」と謙虚に心の内を明かしつつ「今後ももっとやっていきたいです」と目を輝かせた。

『虎に翼』稲役の田中真弓

朝ドラ出演は『なつぞら』(19)に続いて2作目の出演となった田中は、「本当にうれしかったので、だるまに目を入れました(笑)。『なつぞら』の時は村川さんという役で1回だけの出演だったから、いつか回を重ねて出てくる役をドラマでやりたいなとずっと思っていたので」と大喜びの様子。

小学生時代から女優になりたいと思っていた田中は、いつか朝ドラのヒロインになることを夢見ていたと明かす。

「小学生の頃は樫山文枝さんの『おはなはん』(67)を見てから走って学校へ行っていました。日色ともゑさんの『旅路』(68)も見ていました。今みたいに情報がない時代で、自分が大きくなって俳優座や劇団民藝などの劇団に入れば、いつか朝ドラの主役に抜擢されると勝手に思い込んでいました。小学生の頃は、役者になりたいと思えば誰でもなれるものだと思っていましたが、実際にいろんな劇団を受けて全部落ちました。18歳になったら、自分も連続テレビ小説の主役に抜擢されるんだと普通に思っていましたが、そう思っているうちに70歳です(笑)。だから今回出られただけでとてもうれしかったです」

日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした主人公・寅子を伊藤沙莉が演じている本作。今週は配属先の新潟本庁で寅子と星航一(岡田将生)が再会。さらに航一に紹介された喫茶ライトハウスで、涼子(桜井ユキ)と玉(羽瀬川なぎ)との14年ぶりの再会も叶った。寅子は本庁で初めて受け持つ刑事事件の裁判を担当することになったが、娘の優未(竹澤咲子)との2人きりの生活に苦戦する中、花江(森田望智)から届いた援軍が新潟在住の稲だった。

年月を経て久々に再登場した稲のバックグラウンドについて、田中は「稲さんの台詞に『甥や姪に頼るわけにもいかず』とあるので、夫はいたけど、子供はいなかったんだろうなと。だからトラちゃんや花江ちゃん、特に花江ちゃんは小さい頃からずっと面倒を見てきたので、自分が育てたぐらいの気持ちがあったと思います。優未のことも本当の孫のように感じ、頼られたり必要とされたりすることがうれしかったのではないかと」と捉えた。

稲はもともと花江の実家で女中をしていたが、いとまをもらい故郷の新潟へ帰っていた。稲といえば、寅子が弁護士になりたての頃、寅子に「全ては手に入らないものですよ。今、お抱えになっているものが、女の幸せより大事なものかどうか、ここいらで一度、振り返ってみてはいかがでしょうか?」と助言をしたことがSNSで大いに反響を呼んだ。田中はその回を振り返り「友達から電話やLINEが来て『真弓が絶対に言わない台詞を吐いていた』『お前は絶対に逆側だよな』と言われましたが、自分でもそう思いました」と、稲とは違う価値観を持っていると述懐。

とはいえ、「やっぱり女は生きていく上で、自分が今までやってきたことを、結婚と同時にやめなきゃいけない、子供が生まれたらやめなきゃいけないのかと。今は全然そうじゃないと言っていても、子供が5歳になるまでは母親が見るべきだと言う人もいるでしょう。まだまだまだそういう意味では、今も男性優位だとは思っています」と続け、「トラちゃんの時代はもっと大変だっただろうし、彼女は立ち上げのところですごく頑張ってくれた人たちですから。それを引き継いで、これからみんなで頑張っていこうと感じました」と語る。

●不慣れな映像の仕事に苦戦も「もっとやっていきたい」



声優業以外では、舞台女優としてステージ立つことが多い田中。不慣れな映像の仕事で感じた苦労も吐露する。

「演劇は約1カ月間稽古をするのでその間にいろいろと試せますが、今回の現場は2回くらい稽古をしたらすぐ本番に。もし自分が突拍子もないことをやってしまったら、相手役の方に迷惑をかけてしまいますから。例えば、花江さんと久しぶりに会ったシーンで『泣く』と台本にありまして、見ている人を笑わせたいと思って大げさに泣こうかなとも思いましたが、それでNGを出す勇気はなかったので試せませんでした(笑)」

17週からの再登板で、改めて稲のコミカルなキャラクターがわかってきたという田中は「稲さんはすごく陽気な人なんだなと。でも、最初の方ではあまり感じてなかったので、もう少し、序盤でもそういうコメディエンヌ的な片鱗を出しておけば良かったなとは思いました」と後悔も口にする。

「私の中では、17週からの稲さんは以前とちょっと印象が変わりましたが、きっと後半の稲さんの方が正解だったのかなと。最初は真面目で昔気質の人であり、女の幸せというものをちゃんと考えている人だと思いました。本当はすごく頭のいい人で、トラちゃんの思いもわかっているけど、この時代だからと諦めている。もしかしたら法律の勉強もしたかったかもしれないと感じました。でも、新潟へ行ってからは逆に、稲は愉快な人だなと感じ、役作りが変わりました」

さらに「舞台はずっとやり続けているので、ある程度の自信はありますが、映像の演技は慣れてないので、久しぶりに映像の現場に入ると、順番通りに撮らないので戸惑ってしまう。そういう意味では、舞台が一番“役者のもの”かなという気はします。演出側は本番になると、自分がどんなに嫌だと思っても役者を止められないけど、映像は撮り直せますから。でも今後も、もっと映像の仕事をやっていきたいです。まだ、新人です! みたいな感じなので」と笑う。

他にも声優の仕事と比べて、相手役とのテンポ感の取り方に苦労したと明かす。

「声優の仕事はブレスの位置が決まっています。自分が自然にしゃべるよりも合わせていく仕事だから、それが癖になっているのもマズいなと感じました。アニメや洋画の吹き替えにしても、自分ではない人のしゃべる“間”に合わせて入れていくので、自分の“間”を知らないのが声優の仕事です。だから稲役で、“間”がわからないまま台詞を入れてしまい、『しまった!』と思ったことが2、3回ありました」

●現場で「ルフィをやっていて良かった!」と思った瞬間も



主演の伊藤沙莉の座長ぶりも称える。

「人気のある人、ちゃんと仕事ができる人はすごいなと思いました。私は映像の現場に慣れていないので、同じシーンを何回も違う角度から撮るということがよくわかっていなくて。そういう時、沙莉ちゃんはそれを自分が“教える”という風ではなく『自分もわからないんですけど』という感じで、私が負担に思わないような形で教えてくれるんです。本当に気の遣い方がすごくて、とにかく明るい方です。主演だから一番疲れているはずなのに、一番の笑い声で笑ってくれるから、こっちが救われます」

その一方で、声優をやっていて良かったと改めて思った瞬間もあったそうだ。

「岡田(将生)くんは、最初の時は全然お首にも出さなかったのですが、次にメイクルームでお会いした時、すごくルフィが好きだということがわかって。それで『お前は俺の仲間だ!』と(ルフィの声で)言ったら、すごく喜んでくれたんです。その時は、ルフィをやっていて良かった! と思いました」

舞台は年間7本、少なくても5本ほど出演し続けているという田中。舞台の仕事について「若い頃はいっぱい出たい、たくさん出ている役をやりたいと思っていましたが、今は作品がすごく面白くて、出番が少なくても作品にとって必要な役であれば、生かされているなと思います。だから、演劇に関しては、そんなに主役をやりたいとはもう思ってはないです」と、年を重ねて考え方も変化したと明かす。

そして、「今後は、もっと映像の仕事もやっていきたいです」と抱負を述べ、「まだ新人なので(笑)。この年になって、新しいことができるっていうのはすごくうれしいことです」と語っていた。





■田中真弓

1955年1月15日生まれ、東京都出身。テレビアニメ『激走!ルーベンカイザー』(78)で声優デビュー。『うる星やつら』(83〜86)の藤波竜之介役で注目される。主な声優の役柄に『天空の城ラピュタ』(86)のパズー役、『ドラゴンボール』シリーズ(86〜)のクリリン役、『忍たま乱太郎』(93〜)摂津のきり丸役、『ONE PIECE』(99〜)のモンキー・D・ルフィ役など。声優のほか、女優やナレーターなど幅広く活躍している。

(C)NHK