REAL TRAUM(リアル・トラウム)、1周年の浜離宮完売コンサートレポ&25年2月にオーチャードホール公演発表

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IL DIVOに始まり、日本でもLE VELVETSやTHE LEGENDなど多くのフォロワーを生んできたクラシカル・クロスオーヴァーの男性ヴォーカル・ユニット。メルビッシュ湖上音楽祭に参加するなど国際的なキャリアを歩むテノールの高島健一郎をリーダーとして、東京芸術大学を卒業した同門の声楽家たち4人が集まって、REAL TRAUM(リアル・トラウム)が23年6月3日に浜離宮朝日ホールでファースト・コンサートを開催して、ほぼ1年あまりとなった。ドイツ語で「正夢・夢を実現する」といった意味のグループ名通りに着実にグループの実績を積み、7月20日の浜離宮公演は早々に完売し、初の東京・大阪コンサートツアーを大成功のうちに終えた。しかも20日の公演終了間際には、舞台上で次なる夢の舞台として、なんと! Bunkamuraオーチャードホールでの公演を発表した。この記事では、詳細な浜離宮公演のレポートをお伝えすると同時に、来年2月16日の『ORCHARD CALA 1st』の速報もお伝えする。

暗闇の中、スポット照明の中に、5人目のメンバーと言っても過言ではない、ピアニストの藤川有樹が登場。華やかなパッセージを弾き始める。ヴェルディのオペラ『椿姫』の「乾杯の歌」のイントロだ。ピアノと拍手の中で、足取りも軽やかにメンバー4人が登場し、有名な旋律を歌い継ぐ。「夢(トラウム)」の世界へと、観客は惹きこまれる。結成以来ずっと歌い続け、YouTubeでも大変な再生回数を叩き出した、イタリアのカンツォーネ「オ・ソレ・ミオ」を、少しゆったりとしたジャジーな雰囲気を漂わせたピアノに支えられながら、リラックスした空気で歌う。結成1年とは思いないほどの風格と息の合ったコーラスでさらに会場のボルテージは上がる。すっかり会場の空気が和んだどころで、一転して没後100年になるプッチーニのオペラ『トスカ』のメドレーへ! 緊張感溢れる悲劇のドラマを10分ほどのメドレーで見事に伝えてくれる。選曲とアレンジの妙である。

「カンツォーネ、たくさんいい曲があって、どれを歌うのか迷ってしまうんです」というMCで、ここからはイタリアのカンツォーネをメドレーでソロを交えながら歌った。まずは「フニクリ・フニクラ」で客席と一体となって手拍子をし、さらにコンサートのテンションを上げる。そしてメンバー各人のソロで紡ぐ、カンツォーネのロマンティックな空気の演出はさすがである。メドレーの締めは、イタリアのオペレッタ王ロッシーニによる「ラ・ダンツァ(踊り)」である。軽妙なピアノとメンバー4人の自由自在な早口歌唱が楽しい。そして、前半最後の曲として紹介されたのは、レオンカヴァルロの名アリア「衣装をつけろ」(オペラ『道化師』より)である。鳥尾匠海がとぼけた味わいのMCで、「泣きたいのにピエロだから笑ってなきゃいけない」という歌なのですよと説明したあとは、4人のソロとコーラスで悲劇的なシチュエーションを見事に歌い切った。

後半は、暗闇の中にピアノの藤川とテノールの杉浦奎介の2人が照明に浮かび上がるところから、スタート。杉浦が手に持った大きな本をひろげると、ピアノの連打が始まる。シューベルトの歌曲「魔王」である。杉浦を語り部に設定した演出である。続いて、熱にうなされた少年と父に扮した、鳥尾と堺が登場する。そして最後に漆黒のマントをまとって、魔王となりきった高島が現れる。一人のテノールが4つの役を歌い分けるこの歌曲の設定を逆手に取り、4つの役をメンバーに振り分けた、意表をついた演出はもちろんメンバー自ら編み出したもの。語り部の杉浦が本を掲げて、大仰にパタンと閉じると暗転。「魔王」のドラマティックな展開を実にわかりやすく、ユニークに伝えてくれた。筆者は寡聞にして「魔王」の演出としてこれまで体験したことのないものだったが、斬新さと感動があった。前半ラストを上回る盛大な拍手を全身に浴びながら、「ここまでクラシックを軸にお届けしたので、後半はクロスオーヴァ―なレパートリーももっているリアル・トラウムらしい曲をお届けします」と「ムーン・リヴァー」と「ザ・プレイヤー」の2曲をコール。初挑戦となる「ザ・プレイヤー」は、アンドレア・ボッチェリとセリーヌ・ディオンのデュエットで知られるナンバーだが、4人のために作られた歌ではないかと思うほどのクオリティに仕上がっていた。最後の一音で、4人のハーモニーがピアニッシモで消え入る瞬間、客席からはその美しさにため息が漏れた。ポップスを歌う時にマイクを使用するグループが多い中、今回のリアル・トラウムは完全な生音によるアコースティック・ライブであった。浜離宮朝日ホールの響きの美しさを実に見事に活かしたパフォーマンスと言えよう。日本語の歌も積極的に歌ってきたリアル・トラウムらしく、次は井上陽水の「少年時代」。

ここで、各々ソロの歌手としても活動をしていることに触れながら、ドイツ44都市のオペレッタ・ツアーに参加するため11月からウィーンに帰る高島が「今自分の心境に一番近いこの歌を4人で歌ったことがなかったので」と言いながら、「故郷」を全員で歌った。「1年前この浜離宮朝日ホールで最初に歌った曲で締めたいと思います」と、十八番レハールの「君は我が心のすべて」を力の限り歌い上げた。割れんばかりの拍手の中、アンコールは「千の風になって」。ここで、大阪でも予告をしていた重大発表に触れた。
「ウィーンに帰るって発表した時に、ファンの方からリーダーとして無責任だとお怒りの声を頂戴したのですが、2月上旬にオペレッタ・ツアーが終わったら、一週間後にコンサートを開催することにしました、しかもその会場はBunkamuraオーチャードホール!」とビッグ・ニュースを力強く告げた。会場は歓喜の溜息と万雷の拍手に包まれる中、「誰も寝てはならぬ」へ。「ヴィンチェーロ(勝利)」の最後の歌詞が、2025年のリアル・トラウムのさらなる活躍を約束するかのように響き渡った。

筆者は、一年前のリアル・トラウムの結成コンサートも見る機会があったのだが、あの日とは完全に別のグループのようであった。その人気を背に自信に満ち溢れ、そのパフォーマンスはすでに風格すら漂うほどであり、間違いなく世界のクロスオーヴァー・ヴォーカル・ユニットのトップグループのひとつであると感じられた。事前に関係者から「実は来年早々にオーチャードホールでやるんです」と聞いたとき、少し心配になったのだが、20日のコンサートを見たときにそれは杞憂であると確信した。2025年2月16日には満席のオーチャードホールで歌うリアル・トラウムを目撃することになるだろう!

取材・文=神山薫