なすのヘタは「切り落とさず食べる」が正解だった
なすは「まずヘタを切り落としてから……」ー。その考えは、間違っているかもしれません(写真:ニングル / PIXTA)
なすを料理するとき、当たり前のようにヘタを切り落としていませんか? しかし「なすはヘタごと調理するのがおすすめ」。その理由について東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部監修による『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』から一部を抜粋、再編集してお届けします。
ヘタには「天然の抗がん剤」が!
栄養価が少ないと考えられていた「なす」ですが、近年はさまざまな栄養効果が発見されています。
たとえばヘタはイボを取る効果があるとして民間療法などで活用されていましたが、なんとヘタやガクに含まれる天然化合物が、子宮頸がんのがん細胞を死滅させることが、マウスを使った実験で発見されたのです。
ガクは口に残るのでそのまま食べるのは難しいですが、ヘタは切り落とさずにスープに入れたり、炒めたりして食べることが可能です。ガクごと干して、きんぴらなどで食べる方法もあります。
(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
ガクのお得な切り落とし方は、まずヘタと果肉がつながっているところに、包丁でぐるっと切り込みを入れます。
(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
次に、切り込みを入れた部分から下のガクを取り除き、残ったヘタごと調理をします。
「種」は多ければ多いほど抗酸化力アップ
なすの皮にはアントシアニンの一種であるナスニンなどのポリフェノールが豊富に含まれているため、抗酸化力は果肉の2〜3倍ほども高いと考えられます。なすの皮をむくと、抗酸化成分をほぼ捨てることになります。
なすの主な栄養成分(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
一方、スポンジ状の果肉は90%以上が水分です。栄養成分は少なめですが、カリウムや食物繊維、ビタミンB群などがバランスよく含まれています。睡眠の質を高めるGABAは下部(果頂部)により豊富に含まれています。
果肉の黒い点々は「食べても大丈夫?」と思うかもしれませんが、これは種子。クロロゲン酸が最も多く含まれている部位なので、多ければ多いほど抗酸化力は高くなります。茶色く変色している場合も問題はありません。
「なすが体を冷やす」のは本当?
なすは水分が多く、確かに体の熱を下げる食材ではありますが、余分な水分や塩分を排出する「巡りを良くする」というのが正しいかもしれません。
体を冷やしたい夏は、トマトやきゅうりなどの夏野菜と、体を冷やしたくない季節には、しょうがなどの体を温める食材と合わせるようにしましょう。
保存で栄養丸ごと!なすは常温が鉄則!
暖かい国が原産のなすは、5℃以下の寒いところが苦手。室温が15℃程度までであれば常温保存がおすすめです。
水分が蒸発するとしなびてしまうので、ひとつずつラップに包んでおきます。冷蔵庫に入れる場合には、温度が高めの野菜室へ。
アク抜きで抗酸化効果大ゾン!
なすのアクの正体は、ポリフェノールのクロロゲン酸です。これは抗酸化作用のほか、糖分の吸収を抑えて脂肪の蓄積を防ぐとして、糖尿病をはじめとした生活習慣病の予防効果も期待できる成分。
アク抜きはしない方がいい(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
そのためアク抜きをしてしまうと、せっかくの栄養が抜けてしまうのです。
なすで血圧改善&リラックス?
2016年に発見された「コリンエステル」は、ほかの食品の1000倍以上の量がなすに含まれている機能性成分で、血圧が高い場合には降下させ、交感神経の働きを抑えてリラックスさせてくれます。
なすに含まれるコリンエステルの血圧改善効果(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
コリンエステルは加熱に強いので、調理して摂取することも可能ですが、アク抜きすると流出するので注意を。
なすの抗酸化力は加熱で引き出す
なすのナスニンやクロロゲン酸などのポリフェノールが持つ抗酸化性能は加熱することで引き出されます。しかし成分自体は加熱しすぎると減少するので、高温・長時間ではなく低温加熱、または短時間加熱で。
たとえば、なすの果肉に含まれているGABAは、60℃の低温加熱をすると約40%増加するため、リラックスしたり、睡眠の質を高めたりするGABAの効果を最大にするのであれば、おすすめは「低温蒸し」。
蒸し器になすを入れたら火を止め、ふたをずらしてしばらく置くことで、60℃程度の温度をキープできます。またアミノ酸の一種であるGABAは、グルタミン酸などの旨み成分を加えることでも増加します。
「低温蒸し+味噌やチーズを加える」の合わせ技なら、GABAは約2倍に!
ナスの調理法による違い(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
揚げる「アク抜きで栄養流出」
野菜のポリフェノールは切断や加熱で増加する場合がありますが、なすのナスニンも揚げ調理ならわずかに増加します。クロロゲン酸も、揚げ調理ならほぼキープ。
蒸す「蒸しで機能性アップ!」
なすに含まれるポリフェノールの抗酸化力は、加熱すると増加します。ただし茹でると流出するため、おすすめは水を使わない蒸し調理。GABAの効果もアップできてお得です。
炒める「油でコーティング!」
なすの栄養を丸ごと摂るなら、油でコーティングするのもおすすめです。ナスニンやカリウムなど、水溶性の成分が溶け出しにくくなるので、栄養ロスが少なくてすみます。
レンチン「なすの水分を守る」
なすの中の水分を逃さないため、電子レンジも栄養ロスが少ない調理法です。丸ごとレンチンする場合には、なすが爆発しないよう切り込みを入れるのを忘れずに。
油を摂りすぎない調理のコツ
なすの果肉はスポンジ状になっているため、普通に切って炒めると驚くほど油を多く吸い、仕上がりが油っぽくなってしまうことも。
油を少なめにさっぱりと仕上げるなら、最初に油を絡めておくと◎。
最初に油を絡める(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
切ったなすに小さじ1の油を絡めてしばらく置いて、しんなりしてきたら調理スタート。
しんなりしてきたら調理スタート(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
レンチン調理の場合も、最初に油を絡めておくとジューシーに仕上がります。
なんと「牛乳」でジューシーに!
フリットやソテーなど、なすをジューシーに仕上げたい場合に効果的なのが「牛乳に漬け込む」こと。なすの果肉に牛乳が入り込むと同時に、油を吸いすぎないためべちゃっとしません。
なすを牛乳にひたして調理(出所:『完全版 その調理、9割の栄養捨ててます! 調理科学×栄養がとれる食べ方のコツ』)
切ったなすを30分ほど牛乳に漬け込み、オリーブオイルなどで両面を焼きます。チーズで旨みを足せば、GABAの効果も期待できる一品に。
【画像】ナスの栄養をたっぷり摂る料理のヒントなど(写真10枚)
(東京慈恵会医科大学附属病院 栄養部)