大規模なリニューアルを行った、横浜ワールドポーターズのフードコート。世界の味を楽しめる、魅力満点の空間をご紹介します(筆者撮影)

時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。

本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。

今回は、神奈川県横浜市中区にある商業施設「横浜ワールドポーターズ」のフードコート「ワールドフードホール」を訪問する。

横浜ワールドポーターズは直近で2期にわたって大規模なリニューアルを行っており、7月のグランドリニューアルオープンにおける核が、このワールドフードホールだ。「超エンタメモール」をコンセプトに進めたリニューアルの結果、どのようなフードコートが生まれたのか。

世界に開けた港湾都市・横浜 歴史と情緒が残る街

ワールドポーターズがあるのは、横浜市内の中心部、みなとみらいエリアだ。

私も含め、多くの人が横浜に対して持っているであろう「おしゃれな街」「港町」というイメージは、広い横浜市のうち一部エリア、具体的には中区と西区辺りが担っている。

【画像26枚】横浜みなとみらい「ワールドポーターズ」にあるフードコート「ワールドフードホール」。その名に偽りなし!「世界の味」を楽しめるその様子

横浜市の公式Webサイトによると、港湾都市としての歴史のルーツは1853年までさかのぼる。同年はかの有名なペリー提督が浦賀に来航し、これまでの鎖国政策から転換して港を開くように要求した。

翌年に江戸幕府は日米和親条約を結び、さらに1858年に日米修好通商条約などの条約も各国と締結。1859年に、神奈川・長崎・箱館(函館)を開港して、幕府は自由貿易を許可した。


石川町辺りで、異国情緒をちょっと感じる(筆者撮影)

開港に当たって、アメリカ側は現在の神奈川区東神奈川辺りの神奈川宿を想定していた一方、幕府は過度に日本人と外国人が交わることを避け、宿場ではない現在の辺りを一方的に開港したという。

もしアメリカがもっと交渉を求めていれば、現在の街にどのような影響を与えていたのかなどを考えると面白い。

風情を感じさせる、山手公園エリア

そこから外国人が流入し、外国人居留地として発展した山手のほうへ足を延ばすと、今でも風情が感じられる。例えば1870年に、居留外国人によってつくられた山手公園はその一つだ。

日本初の西洋式公園として、また日本における近代テニス発祥の地としても知られる。海外から貿易品だけでなく文化も入り込み、新しい発展を遂げた横浜らしさが詰まった公園といえるだろう。


(出所:山手公園公式Webサイト)

横浜らしさといえば、横浜赤レンガ倉庫も代表的な施設だ。明治末期から大正期にかけて「模範倉庫」として建設され、2002年に展示スペースなどの文化施設、商業施設にリニューアルするとともに、付近一帯は広場と公園からなる「赤レンガパーク」として親しまれている。


もともと国の模範倉庫だった横浜赤レンガ倉庫(筆者撮影)

埠頭からは大桟橋や超大型のクルーズ船などの景色も楽しめ、まさに港町としての横浜がこの一帯に詰まっているといえる。

再開発で再生、圧倒的魅力で年間8000万人近くが訪れる

もともと、港湾都市や外国人の居留地として知られていた横浜が、現在のような観光地として多くの人を集めるようになったきっかけは、この横浜赤レンガ倉庫のある一帯も含めた、みなとみらいエリアの再開発の影響も大きいだろう。

再開発の歴史をたどると、1965年に当時の横浜市長が提案した「横浜市六大事業」にルーツがあるとされる。太平洋戦争で荒廃した市内中心部の再生と活性化を目的に、ニュータウン構想や市営地下鉄の建設とともに、旧中心部である関内/関外エリアと、新たに発展する横浜駅付近をつなぐ地区としてみなとみらいエリアの構想が立ち上がった。

その後しばらく間をおいて、1979年に基本構想が明らかになると、1983年に「みなとみらい21事業」として着工へと至った。「みなとみらい21」という名前は、港町のイメージや、21世紀の新しい横浜というイメージを基に、公募した案から選出した。それ以外には「赤い靴シティ」「アクアコスモ」といった案があったという。そのうち赤い靴シティと決選投票のうえ、みなとみらい21が勝ち残った。

横浜市によると、2023年の来街者数推計は7730万人。コロナ禍で落ち込みを見せたが、2019年までは8000万人を超えていたことから、近いうちに再び8000万人の大台に乗せることは間違いない。


大きな観覧車「コスモクロック21」は同エリアのアイコンでもある(筆者撮影)

前述した横浜赤レンガ倉庫に加え、1989年に開催した横浜博覧会のパビリオンだった大観覧車の「コスモクロック21」がアイコンである都市型遊園地の「よこはまコスモワールド」、2011年にオープンした「安藤百福発明記念館 横浜」(いわゆるカップヌードルミュージアム)、そして今回のフードコートがある横浜ワールドポーターズと、さまざまなエンタメ施設がそろっている。

都内からそう遠くない距離にあり、県内だけでなく関東から、ちょっとしたお出かけ先として親しまれていることにも納得のコンテンツ力だ。

横浜の歴史を学んだところで、フードコートへと向かおう。ワールドフードホールがある横浜ワールドポーターズは、1999年に開業。世界に開いた港湾都市である横浜らしく「いろんな世界がここにある」をコンセプトとする。

2024年、「超エンタメモールへ」を標榜して全体の4割以上に相当する店舗を刷新する大規模なリニューアルを行い、7月の第2期リニューアルオープンで誕生したのが、今回のメインテーマであるワールドフードホールだ。

そのコンセプトに違わず、世界とエンタメの双方を感じられるフードコートになっている。例えば、フードコート内で営業している店舗はシンガポールの国民食「シンガポールチキンライス」やラクサなどを楽しめる「新嘉坡鶏飯」、ベトナム料理の「越南路」、韓国料理の「韓美膳」といったラインナップである。


シンガポールの味を楽しめる「新嘉坡鶏飯」(筆者撮影)


ベトナム料理は結構珍しいのではないか(筆者撮影)

その他、フードコートでの飲食とともにテークアウトなどでも楽しめるおにぎりやカレーパン、スイーツの店舗がぎっしりと営業しており、リニューアルから間もないこともあってか、全500席ほどのキャパシティでは到底さばき切れない人数がおり、席を求めてうろうろしている。当然私もその1人である。昼時をやや外れて午後2時ごろで、この集客力は恐れ入る。

席取りで彷徨う人々、溢れる熱気

それにしてもフードコートの席取りというのは難しい。理で考えれば、いつかは食事を終えて立ち上がるのだから「ここ」と決めて近くで立って待っていれば、必ず席にありつける。そんなことはわかっている。それでも「もっと早く座れないか」「もっといい位置がないか」と色気を出して歩き始めてしまうのが、理から外れた人情というものだろう。

それにしてもこの日は混雑が激しく、私だけでなく数十もの人がさまよっている。席と席の間隔が狭いし、店舗調理の熱か、人々の熱気か、冷房の不調か、とにかくジメジメモワモワと暑苦しい。さながらジャングルをかき分けて獲物を探すハンターのような気分である。

15〜20分くらいは歩いたろうか。木を見て森を見ず、というか、実はフードコートエリアの中央だけでなく、ちょっと離れた場所にも席があり、意外とこの辺りは座席ハンターが少ないことに気づいた。

もう席を立ちそうな人がいたので、“禁じ手”というほどではないが、声を掛けると席を譲ってもらえた。落ち着いて辺りを見ると、8人連れでまとまった席を確保している猛者もいる。どんな手を使ったのだろうか。

席を確保できたので、今日のご飯を見繕いに行こう。前述した通り、異国情緒を感じられる店が多いながら、フードコートにおける定番中の定番、うどんもある。

フードコートのうどん店といえば丸亀製麵やはなまるうどんが多い中、ここワールドフードホールのうどんを担うのが「山下本気うどん」なのはエンタメモールらしいといえば、らしい。

とはいえフードコートでうどんが人気なのはおそらくその「コスパ」にある。その点、異様な熱気漂うこのフードコートでは、日常性の極致であるコスパは多くの人にとって度外視されているのか、そこまでにぎわってはいなかった。


「ド定番」のうどんだが、そこまで混雑していない(筆者撮影)

意外なところでは磯丸水産も出店している。しかし港湾都市といえども横浜に海産物のイメージはあまりない。海外メニューの店が多い中で苦境を強いられているように見受けられた。

反対に盛況なのが「ハンバーグ&ステーキ いしがま工房」。石窯で焼いているらしく、確かにおいしそうな匂いもぷんぷんする。特別感もあることからか、ここは行列が目立った。国民食になっているハンバーグだが、ハイソなイメージの横浜に来ると、注文したくなるのだろうか。気持ちはわかる。


行列が目立ったハンバーグ店。熱気の原因はここか?(筆者撮影)

そんな中で私が選んだのは、やはり「世界の味」である。先述した新嘉坡鶏飯で、シンガポールチキンライスとココナッツカレーのセットを注文した。

ここでハタと考える。シンガポールってアジアだ。どちらかというと日本海側だ。ここ横浜は、太平洋に面している。――ということで、太平洋を隔てて向こう、メキシコに関係するタコライスを「サラダボウル バイゴクゴク」で注文。まあ、タコライスはおそらく厳密には沖縄料理なのだが、その辺りは目をつぶろう。今日大事なのは、国際色を感じることだ。

フードコートから、世界を旅する

10分ほど待ち、双方到着。このうえなく彩りが豊かだ。シンガポールチキンライスには食べ方を記した紙もついてきた。その流儀にのっとり、食べ進めよう。


世界の味、ここに集う(筆者撮影)

血糖値の過度な上昇を抑えるために、まずはタコライスのサラダ部分からいただく。ちなみにこのタコライス、肉が大豆ミートである。沖縄やメキシコ、アメリカといえば肉食のイメージがあるが、こうした地域、国でも昨今は少しずつ大豆ミートが広がっているのだろうか。


大豆ミートのタコライス(筆者撮影)

お次はシンガポールチキンライス。じっと見て、タイへ旅行に行った際、カオマンガイを飽きることなくひたすら食べ続けた思い出がよみがえる。両者、どう違うのだろうか。調べるとソースの違いらしい。


横浜のフードコートにて、タイのカオマンガイを思い出す(筆者撮影)

確かに、シンガポールチキンライスについてきた黒いソースは、日本の醤油を濃く、ほんの少し甘くしたような感じ。おぼろげな記憶をたどると、カオマンガイにも黒いソースはあったが、そちらはもっと甘く粘度が高いものだっだような。

しっとりとした鶏肉に味変用の3種のソース、そしてココナッツカレーも付いてきてはコメが一瞬でなくなってしまう。ほどほどに大事なコメを食べながら、おかずを多めに食べていく。ココナッツカレーはじゃがいもと鶏肉が大きなポーションで入っており、非常に満足感が高い。色の割に辛さはそこまで強くない。


具が大きくて大満足のココナッツカレー(筆者撮影)

無事、コメを尽かすことなく世界の味を完食。行ったことのない地域や国に思いを馳せたり、反対に行ったことがある国を思い出したりできるのは、さすが、世界に開けた港湾都市、横浜のフードコートといったところだろうか。

同フロアには「ハワイ全振り」エリアも

ちなみにワールドフードホールとは別に、同フロアには「Hawaiian Town」というハワイ要素に全振りのエリアがあり、こちらにも100席ほどのフードコート区画が存在する。


ひと歩きすればそこはハワイ(筆者撮影)

シンガポールやベトナム、韓国とアジアを楽しんだ後にハワイへひとっとび、ならぬひと歩きすれば、フードコートだけでちょっとした旅行気分を満喫できるのだ。まさに「いろんな世界がここにある」、である。

【画像26枚】横浜みなとみらい「ワールドポーターズ」にあるフードコート。港町にふさわしい「世界の味」を楽しめる、その実態とは?

(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)