自分が無意識に持っている思考パターンを探ってみましょう(画像:FabrikaSimf/PIXTA)

同じ物事でも、ポジティブに捉える人もいればネガティブに捉える人もいます。問題解決コンサルタントの岡佐紀子氏は、「私たちは無意識に思考パターンを持っています。自分がどの思考パターンを持っているかを知ることで、他人に対してストレスを感じることが減り、物事を客観的に見ることができます」と言います。岡氏の著書『正しい答えを導くための疑う思考』から一部抜粋・再構成のうえ、誰もが持つ「7つの思考パターン」について紹介します。

誰もが心に「7匹の犬」のどれかを飼っている

私たちは、完全に客観的になることはできません。性格や生まれ育った環境などの影響で、さまざまな思考パターンを持っているのが普通です。ですから、上司に厳しく注意されたとき、「嫌がらせをされているんじゃないか」と思う人もいれば、「私は悪くない!」と反発する人もいます。また、同じ状況を成長のチャンスと捉える人もいます。

このように、同じ体験をしても、人によって捉え方や生じる感情は違います。

私たちが無意識に持っている思考パターンは、ざっくりと7つに分けることができます。本稿では、7匹の犬にたとえてみました。

犬を飼うときには、犬が社会生活に適応できるようにトレーニングをしますよね。犬を飼われている方はわかると思いますが、犬種によって性質は全然違います。

また、個体によって性格も違いますから、その子に合わせたトレーニングが必要になってきます。

自分が心の中にどの犬を飼っているかを知ることで、自分の中にいる犬のトレーニング方法が見えてきます。そして上手にトレーニングすることができれば、他人に対してストレスを感じることが減っていくのです。
それでは、それぞれの犬の特徴を見ていきましょう。


『正しい答えを導くための疑う思考』P.189より

論理の穴やミスなどに気づくことができる「批判犬」

●「すべての事象には問題がある」:批判犬

疑う思考を最も強く備えているタイプ。

物事に対してさまざまな角度から見るクセがあるので、ときに面倒がられることもあります。

私の夫がこのタイプです。先日も、ある雑誌を見ながら「この文字サイズだと、高齢の方は読みにくいかも」「情報が多すぎて最後まで読み終えるのが大変だね」など、次から次に批判が飛び出しました。

批判犬は、良くも悪くもすべてを疑っていく思考パターンです。そのため、正しいことであっても疑います。よく、疑い深い、猜疑心が強いと言われる人がいますが、こういう方は批判犬と、後述する心配犬の両方を飼っている人です。

批判犬の強みは、なんと言っても「疑う思考」に長けていること。物事を多角的な視点で見ることに慣れているため、人が気づかないような論理の穴やミスなどにも気づくことができます。

●「私が常に正しい」:正義犬

常識やルール、倫理観に囚われやすいタイプ。「新人はこうあるべき」「経営者はこうあるべき」など、「べき思考」にもつながりやすいのが正義犬です。

物事を白か黒かで判断したがる特徴も持ち合わせており、「これが正しい」という軸が人よりも強いため、それ以外の考えを受けつけないというきらいがあります。

さらに、自信を持っているように見えます。

正義犬が大きい人の場合は、あえて自分の中に批判犬を連れてくるという対処法があります。「それって本当?」と自問自答していくのです。他の角度から見てみたらどうだろう、時代の流れから見てみるとどうだろうというように、あえて多角的な視点を持つように意識することが大切です。

他人と比べて自分を否定しがちな「負け犬」

●「私なんか全然ダメです」:負け犬

他人と比べて自分を否定しがちなタイプ。しかも自分より遙かにすごい人と比べる傾向があるため、ますます自分の良いところを見ることができません。

「スケート意外にうまいね」と言われて、「いやいや、浅田真央ちゃんと比べたら全然です」なんてことを平然と言ったりします。

「自分はまだまだです」というのは、一見謙虚で姿勢としては間違っていないようにも見えますが、過度になりすぎると卑屈にもなってしまいますし、自分自身に対して常に「ダメだ」と言い続けてしまいます。

その結果、積極的に新しいことにチャレンジしにくくなってしまったり、自分の殻を破ることができなくなったりします。チームを組んだときに自分だけでなくチーム全体についても「ダメだ」という思考パターンになってしまうことがあり、チームのやる気を削いでしまうことも。

ただ、負け犬は努力家タイプでもあります。「自分はダメだ」と思っているからこそ、ダメじゃないように持っていこうとするのです。

大きな負け犬を飼ってしまっている人は、比較する対象を変えることで思考パターンを変えることができます。世界的に活躍している人と比較するのではなく、3年前の自分と比較してみる。昨日の自分と比較してみる。その上で、「自分は本当にダメなの?」「できているところはない?」と、自分にプラスになることを探していくようにしましょう。

●「太陽が東から昇るのも私のせいです」:謝り犬

すべての事象について、常に自分に責任があると思い込んでしまうタイプ。「すみません」が口癖です。

仕事であれプライベートなことであれ、人と人が揉めたときには100%どちらかが悪いというのは、かなりまれなことです。しかし、謝り犬を自分の中に飼っている人は、ほとんどのケースで100%自分が悪いと考えてしまいます。

先日、ある報道で、過労による鬱うつや精神疾患、自殺が増えているというニュースがありました。「自分さえ我慢すればいい」という考えは美徳と言われますが、行きすぎると心身が壊れてしまいます。

自責思考はトラブルが起きたとき、自分のせいにして終えてしまいます。それでは問題は解決しません。自分のせいにして思考停止をするパターンに陥らないことが大切です。

大きな謝り犬を飼っている人は、何かトラブルが起きたときに反射的に「自分のせいだ」と思ってしまいがちです。ですから、「本当に私のせいなのかな?」と疑ってみましょう。

もしかすると、仕組みを変えればミスが起こりにくくなるかもしれません。仕組みに着目する視点を持つと、より生産的に問題に向き合うことができるようになります。

心配性だからこそ準備力の高さがある「心配犬」

●「明日急に嵐が来て、電車が全部止まるかもしれない」:心配犬

過度に心配性で、未来予測が常にネガティブになってしまうのがこのタイプです。

関係が良好で、何十年単位のおつき合いができている取引先に対しても、「もしかしたら次回の契約は更新されないかもしれない」と心配します。

心配犬の強みは、準備力の高さです。最悪の事態を想定するのに慣れているため、未来を予測して計画を立てたり、備えたりすることができるのです。

楽観思考が強いと、「明日のプレゼンも何とかなるでしょ」「今までも契約を更新してくれているし、来期も更新してくれるでしょ」と考えるため、準備が不十分のまま本番を迎える可能性が高まります。しかし、心配犬は「明日のプレゼンで失敗したらどうしよう」「来期の契約が更新されなかったらどうしよう」と具体的に心配できるので、そのような事態を避けるために万全の準備をしようとします。

●「絶対にうまくいかない」:諦め犬

物事を常に破壊的に考えるタイプ。新しい企画を思いついても、「どうせうまくいかない」「どうせ上司の決裁は得られない」と、チャレンジする前からネガティブになってしまいます。諦め犬の思考パターンが強いと、否定する力が強まってしまいます。

私たちは、1日8万回以上思考していると言われています。そして、一度脳に問いかけると、脳はずっとその答えを探し続けているそうです。その場では思い出せなかったのに、あとになって急に答えを思い出したという経験をほぼ全員が持っているはずです。

「なぜ自分はダメなのだろう」と8万回考え、延々と答えを探す……。考えただけで落ち込んでしまいます。せっかく自動で答えを探してくれるシステムが脳にあるのです。「どうせダメだ」ではなく「どうすればできる?」と視点を変えてみることが、対策のコツです。

何事も他人事としてスルーしてしまう「無関心犬」

●「私には関係ないのでわかりません」:無関心犬

自分に関係することであっても、他人事としてスルーしてしまうのがこのタイプ。何事もめんどくさいと思いスルーしています。自分が乗っている船が沈もうとしているのに、逃げようともせずに眺めているようなイメージです。

生まれたときから無関心犬を飼っている人は、1人もいません。

子どもは少し大きくなると、自分で服を着替えたりするようになります。最初のうちはボタンがうまく留められなかったり、転んでしまったりして癇癪を起こすことがありますね。でも、「着替えができなくても別にいいし」なんて言っているのを、私たちは聞いたことがないはずです。最初は無関心犬を飼っていないのに、何かのきっかけで無関心犬を飼い始めてしまうのです。

無関心犬は、自分の心を守るための防御反応なのです。これを、「学習性無力感」と呼びます。

「無関心」を打破する方法

カマスは肉食の魚です。水槽にカマスを入れて、真ん中に透明なアクリル板を入れて仕切り、仕切りの向こうにカマスの餌である小魚を入れて泳がせます。するとカマスは餌が来たと思って小魚を食べようとしますが、アクリル板が邪魔をして小魚がいる向こう側には行くことができません。やがて食べることをあきらめてしまいます。

しばらくしてからアクリル板を外しても、カマスは一向に小魚を食べようとしないのです。これを私は「カマス理論」と呼んでいますが、これが、学習性無力感です。


実はこの状態を打破する方法があります。それは、無関心を学習していない個体を交ぜることです。何も知らないカマスを同じ水槽に入れておくと、前までアクリル板があったことを知らないので、どんどん泳いで小魚を食べていきます。その様子を見て、他のカマスもアクリル板がないことに気づくのです。

人も同じです。大きな無関心犬を飼っている人は、無関心犬を飼っていない人と意識して交ざってみることで、自分の中にいる無関心犬が変化していきます。

いかがでしょう。みなさんは何タイプに当てはまりましたか?

思考のクセを知り、自分に思考の偏りがあることを意識することで、客観的に判断する力を身につけましょう。

(岡 佐紀子 : 問題解決コンサルタント、デール・カーネギー・トレーナー )