大河原克行のNewsInsight 第307回 シャープ再建を託された沖津雅浩社長、「必達を誓う」黒字化と成長の方策
シャープの沖津雅浩社長兼CEOは、7月16日、大阪府堺市のシャープ本社において、6月27日に社長に就任して以来初となる記者会見を行った。沖津社長兼CEOは、「社長として、最も成し遂げたいことは、『シャープらしさ』を取り戻すことである。これが私に課せられた一番のミッションである。シャープは、他社に真似される商品をつくることで、お客様からの評価を得てきた。コロナ以降、以前に比べて新しい商品が出ていないことは反省しなくてはならない。中期経営方針のなかで、『シャープらしさ』を取り戻していく。現状に満足せずに、スピード感を持って取り組んでいく」と宣言した。
シャープ 代表取締役 社長執行役員兼CEOの沖津雅浩氏
ここ数年、「シャープらしさ」が失われていたことの最大の要因を「業績悪化にある」とし、「責任は経営の問題であり、事業をやっているメンバーもよくない状況にあった。まずは黒字化しないと『シャープらしさ』は取り戻せない。黒字化しなければ、『シャープらしさ』が戻ったといっても、誰も同意してくれない。ただ、『シャープらしさ』は、1年程度で、簡単に戻るものではない。ブランドと一緒で、落ちるときはすぐに落ちるが、戻すには時間がかかる。私の後任や、その先の後任によって、『シャープらしさ』をきちっと戻すことにつなげたい」と述べた。
さらに、「従来は、商品と部品のスパイラル構造がシャープらしい戦略だといっていたが、時代が変化して、いまはスパイラル構造ではない企業のほうが成功している。アップルは工場を持たずに成功し、ソニーやパナソニックもパネルを作らずにテレビ事業をやっている。『シャープらしさ』を守るには、時代の変化に応じて早く決断し、方向転換することが大切である。しがみついていると出遅れて業績が悪化する。流れを先読みして、変化に早く対応する。ただし、昔のシャープに戻るのが『シャープらしさ』ではない。いまの環境に応じた『シャープらしさ』があると考えている」とした。
一方、「重要なことは、私がブレないことである。計画を立てたら、突発的なことがない限り、ブレないことが重要である。発言したことや、決めたことは、経営陣だけでなく、社員全員が責任を持ち、ブレないことを期待している。言ったことをすぐに変えることは駄目である。私は、副社長になるまで、1回言ったことは曲げなかった。また、人を公平に扱い、人に信頼されることが必要である」とし、「2024年度の最終利益50億円の黒字化は、必ず達成することを誓う。全員で2024年度の正念場を乗り越えたい」と述べた。
2024年度の正念場を黒字化で乗り越え、2027年度にはブランド事業の営業利益率7%を実現するという中期経営方針
さらに、新たな体制についても説明。「執行役員および執行部門のトップは、全員が日本人になり、責任分担が明確になった。鴻海傘下になってから、ブランド事業では多くの失敗をしてきた。そこで、既存事業についてはシャープに任せるということになった。これが鴻海とシャープにとって最もいい形だと判断した。そして、ブランド事業を伸ばすのであれば、日本人の私がいいということで、社長の要請を受けたと理解している。2024年度の構造改革をしっかりとやり切り、2025年度には、ブランド事業を本格的に立ちあげる」と述べ、「既存事業の強化および新たな事業の開拓を進め、2027年度にはブランド事業の営業利益率7%を実現する」との中期経営方針を示した。
新たな経営陣は、沖津雅浩社長を含め、全員が日本人になり、責任分担が明確になったという
また、「EVやAIは鴻海が先行しており、これらの技術を活用しながら、新規事業を育てていく。その橋渡しと、デバイス事業のアセットライト化を呉柏勲(ロバート・ウー)副会長が行うことになる」と、呉副会長の役割についても説明した。。
シャープでは、2024年5月から「イノベーションアクセラレートプロジェクト(通称はI-Pro=アイプロ)を開始。CEO主管により、生成AI関連と、EVエコシステム関連の2つのプロジェクトを推進しているところだ。
「新規事業は2026年度から2027年度に事業化し、売上げが計上できるようにしたい。事業部になるには年間売上高100億円という昇格目安がある。やるからには最低でも事業部にしたい」と語った。その上で、「すごい技術があれば売れる時代は終わり、お客様が欲しがっている商品や、お客様の困りごとを解決できる商品が必要である。そうした姿勢でなければヒット商品は作れない。技術は方法でしかない。ただし、技術は武器であり、武器がたくさんあれば、勝負に勝てる方法が増える。お客様がなにを望んでいるのかを捉えるには、現場に出ることが大切である。課題をいかに早く吸い上げて、いかに早く解決するかが重要である」と述べた。
セグメント別の取り組みでは、白物家電およびエネルギー事業を担当するスマートライフ&エナジーでは、「アジアでは、家電の普及率が低い国があり、それらの市場でシェアを取り、成長をさせていく。日本をはじめとした家電普及率が高い国では、高付加価値商品に投資を行い、新たな商品を生み出していく。B2Cで培った技術をB2Bにも展開し、B2Bルートで販売していくことも考えている」と述べた。
また、「中期的には生成AIを活用し、お客様に寄り添った商品を作っていく。カーボンニュートラルに関する補助金制度の実施にあわせて最適な商品を出し、売り上げ拡大のチャンスにつなげたい。電池、ソーラーでもトータルでナンバーワンになれるようにしたい。省エネに貢献できる商品およびソリューションづくりを徹底したい」との方針を示した。
さらに、白物家電事業の考え方について沖津社長は、「ボッシュやミーレ、エレクトロラックスといった欧州の大手家電メーカーのようになりたい」とコメント。「付加価値のある商品を創出し、自分たちが勝てる領域において、お客様にブランド価値が浸透している。韓国メーカーや中国メーカーとは異なる戦略である。シャープも欧州家電メーカーと同じ方向を向いて事業をしていくべきだと考えている。白物家電といえば、日本のメーカーがトップ3に残るという状況にしたい」と述べた。
白物家電事業では、中韓メーカーとは異なる戦略をとり、欧州家電メーカーのような方向を向く
MFPなどに取り組んでいるスマートオフィスでは、欧米市場において、ITに強い会社をM&Aによって獲得し、MFP市場全体の落ち込みをカバーしながら事業を拡大する姿勢を明らかにした。また、生成AIの活用により、サービス型ソリューションを強化。鴻海が生産しているAIサーバーの販売やメンテナンス、サービスを事業化する方向での検討も開始したという。物流分野におけるロボティクス事業も拡大させる考えだ。
「これまでにも買収したい企業があったが、デバイス事業に投資をしていたために買収ができなかった。デバイス事業のアセットライト化によって、諦めていた買収も進めることができるようになる」とした。
テレビやスマホなどのユニバーサルネットワークでは、「テレビやスマホは、市場が縮小傾向にある。とくに、スマホは95%を国内事業が占めており、円安の逆風もある。効率的な開発を行い、横ばいか若干の成長でも赤字を避け、生まれた人材リソースを新たな事業に振り分けていく。新規事業での成長を期待しており、衛星用アンテナ、ARやVRなどに技術者をシフトして、開発をはじめているところである」という。
また、沖津社長は、「ブランド事業では1億円の投資は大規模だが、デバイス事業は工場を少し直しただけで1億円かかってしまう。デバイスの構造改革を行い、投資を抑えれば、ブランド事業への投資が拡大できる。今後は、ブランド事業に投資を振り分けることができる」とし、「鴻海傘下になってから、節流という考え方が浸透し、新規開発には投資をしてこなかった。この戦略を変更し、研究開発部門は、目先のことではなく、先のことを考えて開発するという従来のシャープの仕組みに戻した。シャープらしい開発体制になっている」と述べた。
すでに発表しているSDP(堺ディスプレイプロダクツ)の液晶パネルの生産停止については、7月20日過ぎに、最終製品の投入を開始し、約1カ月後にパネルが完成することから、その時点で工場の操業が停止することを明確に示し、その後はAIデータセンターに移管するほか、液晶パネルの生産設備を利用してもらうために外部の企業に働きかけを行っていくことになる。
堺市堺区へ移転したシャープ本社。SDPも同じ敷地内にある
AIデータセンターについては、ソフトバンクやKDDIなどと話し合いを進めていることに触れながら、「新たな協業が増えることはない。建屋を貸与するか、売却するかは決まっていない」と説明した。
次世代液晶やnanoLEDパネルの開発は続けていく考えであり、「開発した技術を使ってもらえるような企業になりたい。インドで生産する企業に対する支援なども行っていく。ファブレスの液晶パネル技術開発企業を目指す」との姿勢を強調した。
シャープでは、鴻海出身のCEOが続いていたが、その間の経営については、「業績が悪化したシャープを、鴻海が助けてくれた。戴正呉氏は、工場、事業本部、販売会社までを、本部長が責任を持って見る仕組みへと変更し、それによって意識が変わり、非効率性がなくなった。また、呉氏は若い社長であり、若い社員にとっていい反響があった。鴻海の経営層からは、シャープにないのはスピードであると指摘され、その通りだと思った」などとした。
「シャープらしさ」を取り戻すと宣言し、社内へは「私たちのシャープを世界に誇れる会社に成長させよう」と発信
沖津社長兼CEOは、7月1日付で、社員向けにCEOメッセージを発信している。
「経営幹部、ビジネスグループ長、ビジネスユニット長、さらには社員全員がいま一度ベクトルをあわせ、One SHARPで一致団結し、今後も業務改善に取り組んでいく。この正念場を乗り越え、私たちのシャープを世界に誇れる会社に成長させよう」と発信。「グローバルで4万人強の社員がいる。それぞれの組織がうまく機能することで強い会社になれる。トップから一般社員まで、風通しがいいコミュニケーションが必要であるが、これまでの社内伝達の仕組みには課題があったと感じている。もっとわかりやすい言葉で伝える必要もある。CEOメッセージにも難しい言葉は使わないようにしている。中間管理職が社員にしっかりと伝達することも大切である。発信したあとにフィードバックを得ることで、一方通行だったコミュニケーションを見直していく」と述べた。
また、人材育成への投資を積極化するほか、働きやすい環境への改善を進めることで、「人が来てくれるような人気がある会社にしたい」という目標を掲げたほか、本社移転については、「本社に勤務している社員の不満は、遠いという点である。それによって、社員の獲得にも影響がある。私自身も、本社を大阪市内に戻したいとは考えている。西田辺の旧本社前の場所も案のひとつであるが、決まったものはない。まずはきちんと利益を出して、移転できる資金を作らなくてはならない」などと語った。
説明の冒頭に、沖津社長は、44年間に渡るシャープ一筋の自らの経歴について振り返った。
沖津社長は、1980年3月に、京都工芸繊維大学工芸学部電気工学科卒業後、同年4月にシャープに入社。八尾事業所にあるエアコン技術部に配属され、電気分野の技術者としてキャリアをスタートした。当時は開発が始まったばかりのインバータエアコンに関っていたという。2000年にタイのシャープアプライアンス(タイランド)に出向。空調商品を統括し、タイの技術者と様々な議論を交わし、熟練技術者の経験にも触れたという。帰国後、1年間、プラズマクラスターイオン(PCI)の技術部長として、空気清浄機へのPCI搭載を促進。PCI搭載空気清浄機は、当初は33万台の販売目標だったが、50万台の出荷実績を達成し、PCIの普及に弾みをつけた。
2003年には電化システム事業本部システム事業部中国設計センター所長、2005年には上海夏普電器有限公司総経理として、中国での白物家電ビジネスの立ち上げを担当。当時は、合弁会社の副総経理は沖津氏よりも10歳年上という関係でビジネスを進めたという。
2009年には健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部長、2010年に空調システム事業部長などを経て、2013年には執行役員 健康・環境システム事業部長に就いた。2016年には取締役兼常務、2017年に常務執行役員、2019年に専務執行役員 スマートアプライアンス事業本部長、2020年にスマートライフグループ長兼SAS事業本部長、2022年にはスマートライフグループ長兼デジタルヘルス事業推進室長に就任した。
2022年6月に代表取締役副社長執行役員となり、2024年6月に代表取締役 社長執行役員兼CEOに就任した。
なお、6月27日の社長就任前日に、社長就任が急に発表された背景についても触れ、「私が社長就任の話をもらったのが、株主総会(6月27日)の10日前だった。指名委員会を開催したのが株主総会の前日であり、そこで内定したため、26日午後3時に発表した。27日に株主総会で決議され、その後の指名委員会で正式に決定した。執行役員の人事についても、10日前に社長就任の話を聞いてから人選をはじめ、約1週間で決定した」と説明。「鴻海の本社がある台湾では2カ月前に社長人事を内定する文化がなかったようだ。決して、隠していたわけではなく、鴻海のやり方で、時間がないなかで決定をした」と説明した。
ここ数年、「シャープらしさ」が失われていたことの最大の要因を「業績悪化にある」とし、「責任は経営の問題であり、事業をやっているメンバーもよくない状況にあった。まずは黒字化しないと『シャープらしさ』は取り戻せない。黒字化しなければ、『シャープらしさ』が戻ったといっても、誰も同意してくれない。ただ、『シャープらしさ』は、1年程度で、簡単に戻るものではない。ブランドと一緒で、落ちるときはすぐに落ちるが、戻すには時間がかかる。私の後任や、その先の後任によって、『シャープらしさ』をきちっと戻すことにつなげたい」と述べた。
さらに、「従来は、商品と部品のスパイラル構造がシャープらしい戦略だといっていたが、時代が変化して、いまはスパイラル構造ではない企業のほうが成功している。アップルは工場を持たずに成功し、ソニーやパナソニックもパネルを作らずにテレビ事業をやっている。『シャープらしさ』を守るには、時代の変化に応じて早く決断し、方向転換することが大切である。しがみついていると出遅れて業績が悪化する。流れを先読みして、変化に早く対応する。ただし、昔のシャープに戻るのが『シャープらしさ』ではない。いまの環境に応じた『シャープらしさ』があると考えている」とした。
一方、「重要なことは、私がブレないことである。計画を立てたら、突発的なことがない限り、ブレないことが重要である。発言したことや、決めたことは、経営陣だけでなく、社員全員が責任を持ち、ブレないことを期待している。言ったことをすぐに変えることは駄目である。私は、副社長になるまで、1回言ったことは曲げなかった。また、人を公平に扱い、人に信頼されることが必要である」とし、「2024年度の最終利益50億円の黒字化は、必ず達成することを誓う。全員で2024年度の正念場を乗り越えたい」と述べた。
2024年度の正念場を黒字化で乗り越え、2027年度にはブランド事業の営業利益率7%を実現するという中期経営方針
さらに、新たな体制についても説明。「執行役員および執行部門のトップは、全員が日本人になり、責任分担が明確になった。鴻海傘下になってから、ブランド事業では多くの失敗をしてきた。そこで、既存事業についてはシャープに任せるということになった。これが鴻海とシャープにとって最もいい形だと判断した。そして、ブランド事業を伸ばすのであれば、日本人の私がいいということで、社長の要請を受けたと理解している。2024年度の構造改革をしっかりとやり切り、2025年度には、ブランド事業を本格的に立ちあげる」と述べ、「既存事業の強化および新たな事業の開拓を進め、2027年度にはブランド事業の営業利益率7%を実現する」との中期経営方針を示した。
新たな経営陣は、沖津雅浩社長を含め、全員が日本人になり、責任分担が明確になったという
また、「EVやAIは鴻海が先行しており、これらの技術を活用しながら、新規事業を育てていく。その橋渡しと、デバイス事業のアセットライト化を呉柏勲(ロバート・ウー)副会長が行うことになる」と、呉副会長の役割についても説明した。。
シャープでは、2024年5月から「イノベーションアクセラレートプロジェクト(通称はI-Pro=アイプロ)を開始。CEO主管により、生成AI関連と、EVエコシステム関連の2つのプロジェクトを推進しているところだ。
「新規事業は2026年度から2027年度に事業化し、売上げが計上できるようにしたい。事業部になるには年間売上高100億円という昇格目安がある。やるからには最低でも事業部にしたい」と語った。その上で、「すごい技術があれば売れる時代は終わり、お客様が欲しがっている商品や、お客様の困りごとを解決できる商品が必要である。そうした姿勢でなければヒット商品は作れない。技術は方法でしかない。ただし、技術は武器であり、武器がたくさんあれば、勝負に勝てる方法が増える。お客様がなにを望んでいるのかを捉えるには、現場に出ることが大切である。課題をいかに早く吸い上げて、いかに早く解決するかが重要である」と述べた。
セグメント別の取り組みでは、白物家電およびエネルギー事業を担当するスマートライフ&エナジーでは、「アジアでは、家電の普及率が低い国があり、それらの市場でシェアを取り、成長をさせていく。日本をはじめとした家電普及率が高い国では、高付加価値商品に投資を行い、新たな商品を生み出していく。B2Cで培った技術をB2Bにも展開し、B2Bルートで販売していくことも考えている」と述べた。
また、「中期的には生成AIを活用し、お客様に寄り添った商品を作っていく。カーボンニュートラルに関する補助金制度の実施にあわせて最適な商品を出し、売り上げ拡大のチャンスにつなげたい。電池、ソーラーでもトータルでナンバーワンになれるようにしたい。省エネに貢献できる商品およびソリューションづくりを徹底したい」との方針を示した。
さらに、白物家電事業の考え方について沖津社長は、「ボッシュやミーレ、エレクトロラックスといった欧州の大手家電メーカーのようになりたい」とコメント。「付加価値のある商品を創出し、自分たちが勝てる領域において、お客様にブランド価値が浸透している。韓国メーカーや中国メーカーとは異なる戦略である。シャープも欧州家電メーカーと同じ方向を向いて事業をしていくべきだと考えている。白物家電といえば、日本のメーカーがトップ3に残るという状況にしたい」と述べた。
白物家電事業では、中韓メーカーとは異なる戦略をとり、欧州家電メーカーのような方向を向く
MFPなどに取り組んでいるスマートオフィスでは、欧米市場において、ITに強い会社をM&Aによって獲得し、MFP市場全体の落ち込みをカバーしながら事業を拡大する姿勢を明らかにした。また、生成AIの活用により、サービス型ソリューションを強化。鴻海が生産しているAIサーバーの販売やメンテナンス、サービスを事業化する方向での検討も開始したという。物流分野におけるロボティクス事業も拡大させる考えだ。
「これまでにも買収したい企業があったが、デバイス事業に投資をしていたために買収ができなかった。デバイス事業のアセットライト化によって、諦めていた買収も進めることができるようになる」とした。
テレビやスマホなどのユニバーサルネットワークでは、「テレビやスマホは、市場が縮小傾向にある。とくに、スマホは95%を国内事業が占めており、円安の逆風もある。効率的な開発を行い、横ばいか若干の成長でも赤字を避け、生まれた人材リソースを新たな事業に振り分けていく。新規事業での成長を期待しており、衛星用アンテナ、ARやVRなどに技術者をシフトして、開発をはじめているところである」という。
また、沖津社長は、「ブランド事業では1億円の投資は大規模だが、デバイス事業は工場を少し直しただけで1億円かかってしまう。デバイスの構造改革を行い、投資を抑えれば、ブランド事業への投資が拡大できる。今後は、ブランド事業に投資を振り分けることができる」とし、「鴻海傘下になってから、節流という考え方が浸透し、新規開発には投資をしてこなかった。この戦略を変更し、研究開発部門は、目先のことではなく、先のことを考えて開発するという従来のシャープの仕組みに戻した。シャープらしい開発体制になっている」と述べた。
すでに発表しているSDP(堺ディスプレイプロダクツ)の液晶パネルの生産停止については、7月20日過ぎに、最終製品の投入を開始し、約1カ月後にパネルが完成することから、その時点で工場の操業が停止することを明確に示し、その後はAIデータセンターに移管するほか、液晶パネルの生産設備を利用してもらうために外部の企業に働きかけを行っていくことになる。
堺市堺区へ移転したシャープ本社。SDPも同じ敷地内にある
AIデータセンターについては、ソフトバンクやKDDIなどと話し合いを進めていることに触れながら、「新たな協業が増えることはない。建屋を貸与するか、売却するかは決まっていない」と説明した。
次世代液晶やnanoLEDパネルの開発は続けていく考えであり、「開発した技術を使ってもらえるような企業になりたい。インドで生産する企業に対する支援なども行っていく。ファブレスの液晶パネル技術開発企業を目指す」との姿勢を強調した。
シャープでは、鴻海出身のCEOが続いていたが、その間の経営については、「業績が悪化したシャープを、鴻海が助けてくれた。戴正呉氏は、工場、事業本部、販売会社までを、本部長が責任を持って見る仕組みへと変更し、それによって意識が変わり、非効率性がなくなった。また、呉氏は若い社長であり、若い社員にとっていい反響があった。鴻海の経営層からは、シャープにないのはスピードであると指摘され、その通りだと思った」などとした。
「シャープらしさ」を取り戻すと宣言し、社内へは「私たちのシャープを世界に誇れる会社に成長させよう」と発信
沖津社長兼CEOは、7月1日付で、社員向けにCEOメッセージを発信している。
「経営幹部、ビジネスグループ長、ビジネスユニット長、さらには社員全員がいま一度ベクトルをあわせ、One SHARPで一致団結し、今後も業務改善に取り組んでいく。この正念場を乗り越え、私たちのシャープを世界に誇れる会社に成長させよう」と発信。「グローバルで4万人強の社員がいる。それぞれの組織がうまく機能することで強い会社になれる。トップから一般社員まで、風通しがいいコミュニケーションが必要であるが、これまでの社内伝達の仕組みには課題があったと感じている。もっとわかりやすい言葉で伝える必要もある。CEOメッセージにも難しい言葉は使わないようにしている。中間管理職が社員にしっかりと伝達することも大切である。発信したあとにフィードバックを得ることで、一方通行だったコミュニケーションを見直していく」と述べた。
また、人材育成への投資を積極化するほか、働きやすい環境への改善を進めることで、「人が来てくれるような人気がある会社にしたい」という目標を掲げたほか、本社移転については、「本社に勤務している社員の不満は、遠いという点である。それによって、社員の獲得にも影響がある。私自身も、本社を大阪市内に戻したいとは考えている。西田辺の旧本社前の場所も案のひとつであるが、決まったものはない。まずはきちんと利益を出して、移転できる資金を作らなくてはならない」などと語った。
説明の冒頭に、沖津社長は、44年間に渡るシャープ一筋の自らの経歴について振り返った。
沖津社長は、1980年3月に、京都工芸繊維大学工芸学部電気工学科卒業後、同年4月にシャープに入社。八尾事業所にあるエアコン技術部に配属され、電気分野の技術者としてキャリアをスタートした。当時は開発が始まったばかりのインバータエアコンに関っていたという。2000年にタイのシャープアプライアンス(タイランド)に出向。空調商品を統括し、タイの技術者と様々な議論を交わし、熟練技術者の経験にも触れたという。帰国後、1年間、プラズマクラスターイオン(PCI)の技術部長として、空気清浄機へのPCI搭載を促進。PCI搭載空気清浄機は、当初は33万台の販売目標だったが、50万台の出荷実績を達成し、PCIの普及に弾みをつけた。
2003年には電化システム事業本部システム事業部中国設計センター所長、2005年には上海夏普電器有限公司総経理として、中国での白物家電ビジネスの立ち上げを担当。当時は、合弁会社の副総経理は沖津氏よりも10歳年上という関係でビジネスを進めたという。
2009年には健康・環境システム事業本部ランドリーシステム事業部長、2010年に空調システム事業部長などを経て、2013年には執行役員 健康・環境システム事業部長に就いた。2016年には取締役兼常務、2017年に常務執行役員、2019年に専務執行役員 スマートアプライアンス事業本部長、2020年にスマートライフグループ長兼SAS事業本部長、2022年にはスマートライフグループ長兼デジタルヘルス事業推進室長に就任した。
2022年6月に代表取締役副社長執行役員となり、2024年6月に代表取締役 社長執行役員兼CEOに就任した。
なお、6月27日の社長就任前日に、社長就任が急に発表された背景についても触れ、「私が社長就任の話をもらったのが、株主総会(6月27日)の10日前だった。指名委員会を開催したのが株主総会の前日であり、そこで内定したため、26日午後3時に発表した。27日に株主総会で決議され、その後の指名委員会で正式に決定した。執行役員の人事についても、10日前に社長就任の話を聞いてから人選をはじめ、約1週間で決定した」と説明。「鴻海の本社がある台湾では2カ月前に社長人事を内定する文化がなかったようだ。決して、隠していたわけではなく、鴻海のやり方で、時間がないなかで決定をした」と説明した。