内向的な性格だから人と関わる仕事は向いていない、は本当でしょうか?(写真:mits / PIXTA)

人前で発表するのが苦手、ひとり遊びが好き、など、内向的な性格の子どもは将来、どのような仕事に就けば活躍が期待できるでしょうか。臨床心理士で公認心理師の吉田美智子さんの著書『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力』から一部を抜粋、再編集し、内向的な子どもの将来について考えていきます(内向型とHSC型の説明は1回目の記事をご確認ください)。

内向型・HSC型の子どもの将来の職業を考えるときに気をつけたいことは、コミュニケーションを必要とする仕事を除外しないことです。

外向的な子に比べるとコミュニケーションが得意ではないかもしれませんが、それぞれのコミュニケーションスタイルを持っていて、仕事にできないほど苦手なわけではありません。

内向・HSP(Highly Sensitive Person)型に向く仕事としてITプログラマーやドライバー、ライターや翻訳家などが挙げられることがありますが、対人接触が少ないからという理由でこれらの仕事を選ぶのは望ましくありません。

これらの仕事は、日常業務の中でコミュニケーションに割く時間は少ないかもしれませんが、そのぶん密度の高いコミュニケーションが求められます。

たとえば、事前に仕事の仕上がりについて話し合ったり、進捗状況を擦り合わせたり、問題が起きたときに解決策を話し合うなど、チーム内の意思疎通を図り、役割の違う人に説明・説得したりする必要があるでしょう。

コミュニケーション量が少ないと思って選んでいたら、とても務まらなくなります。

また、対人接触の少ない仕事から選ぼうとすると仕事の選択肢を狭めてしまいます。コミュニケーションを避けるのではなく、自分なりのスタイルを模索していけるといいでしょう。

一般的に向かないと言われがちな仕事でも、それぞれの持ち味を生かした働き方があります。本記事では、内向・HSP型に向いていないとされる営業職、販売職、リーダーという役割を例に挙げてお話しします。

営業職や接客業は務まるか

営業職は、初対面の人にも物怖じせずに話しかけ、自社製品やサービスを売る仕事なので、対人コミュニケーションが得意で喜びを感じる外向型の人に向いているといわれます。

でも、営業職のエッセンスは、自社の製品やサービスで顧客のニーズを解決することです。顧客自身も気づいていない潜在的なニーズに気づいて解決しようとするのはHSP型が得意とすることです。

さらに、市場や競合製品を分析して顧客ニーズとマッチングさせることは内向型が喜びを感じることです。

社交性を発揮して売り込むことはできなくても、顧客に喜ばれるセールスで実績を上げている内向型やHSP型はたくさんいます。内向型なら自分がファンになれる製品やサービスは何か、HSP型なら顧客にどう喜んでほしいのかを切り口に、業種や企業研究をするのがおすすめです。

顧客に直接製品やサービスを販売する営業経験を持つのは、その後の職業人生にもいい影響をもたらしますから、ぜひチャレンジしてみてほしいものです。

一方、常にお客さまと接する接客業の仕事も、外向的な人に向いていると考えられています。たしかに、テーマパークのキャストなど明るくふるまい続けることが要請される接客は、内向型は苦手ですし、HSP型には負担が大きすぎるでしょう。

でも業種や仕事内容によっては、向いている仕事もあります。

内向型の場合は、ホテルや高価格帯の製品やサービスの販売など、顧客に対して付加価値や専門知識を提供する、自分軸を大事にした接客が向いています。

HSP型は相手の不便や苦痛を解消する仕事や、細やかな接客でリピーターをつくる仕事などで強みを発揮できます。同じ接客業だとしても、どんな内容なのかに注目して仕事を選択してみるといいでしょう。

内向的な性格でもリーダーになれる

リーダーとは、知能や創造力、協調性、社交性などで優れた資質を持つ人がなるものだと考えられていました。能力の要素としては内向型・外向型のどちらにも当てはまりますが、とくに外向的な人に向いていると考えられがちです。

しかし外向的だから、あるいは優れた資質があっても優れたリーダーになるとは限らないことがわかってきました。また、変化の激しい時代を迎えて、トップダウンのリーダーシップから、誰でも必要なときにリーダー役が果たせることが求められています。

その結果、人の話をよく聞けるリーダー、部下を育てられるリーダーなどが求められるようになってきています。そこで、内向・HSP型の人も、自分の持ち味を生かしたリーダー役を担うことが期待されています。

わたしが30年あまり企業や学校で働いてきた中で、「また一緒に働けたらいいな」と感じているリーダーが2人います。思い返してみると、2人とも内向型で小さなことにも気づけるタイプの人でした。

ひとり目は、わたしが外資系飲料メーカーに勤めていたときの上司のMさん(男性)です。

わたしは入社早々、こう着状態に陥っているプロジェクトにリーダーとして加わることになりました。新しいタイプの自動販売機を日本で開発するプロジェクトでしたが、本社スタッフ、日本のスタッフ、共同開発をするメーカーとで意見が割れていました。

会議は、不協和音が鳴り響いているオーケストラの練習場みたいな様子でした。わたしは、業界のことも技術のことも社内のこともまったく知らない一番のど素人。

なぜそんなわたしが、リーダーになったかと言うと、「マーケティングがリーダー役を果たすべきだ」という考えがあってのことでした。

物静かであまり目立たない人が発揮した能力

初日から途方に暮れていたわたしは、Mさんに一緒に会議に参加してもらうことにしました。

Mさんは、物静かであまり目立たないタイプです。紛糾する会議中も、とくに意見は言わずに黙ってみんなの話を聞いていて、みんなが意見を言い終わると、それぞれの言い分や問題点などを整理してホワイトボードに書き始めました。

誰の肩を持つでもなく、中立的な態度で整理すると、メンバーも冷静さを取り戻すことができました。プロジェクトを成功させるというゴールは同じですから、Mさんのような冷静な聞き手がいることで、建設的な議論が戻ってきたのです。

わたしは、Mさんのような上司に会ったのは初めてのことで、今までと違うリーダーシップに驚きましたが、次からはMさんの方法を真似することにしました。そうして、少しずつ、リーダーの役割を果たせるようになっていったのです。

もちろん、それは「新入りの若輩者がリーダーなんてけしからん」などとは言わずに協力してくれたプロジェクトメンバーたちのおかげです。

ちなみに、外向的なスタッフには内向的な人、内向的なスタッフには外向的な人がリーダーを果たすと、よりよいパフォーマンスを引きだせるという研究結果があります。

つまり、タイプの異なる人が協力し合うことでよりよい成果をだせるのです。Mさんが静かなリーダーシップでチームをまとめていったこと、それから新入りにベテラン社員たちが協力してくれたのも、タイプの異なる組み合わせの成功例かもしれません。

心理的安全性をもたらす人になれる

また一緒に働きたい上司の2人目は中学校の校長先生(女性)です。T先生は、小柄で穏やかな笑顔が印象的で、校長先生だけれど怖いところがありません。


もちろん、校長として、強い姿勢をとるときもありますが、静かに筋道を立てて話し、しかし決して迎合しません。普段から、生徒や保護者、先生の何気ない様子をよく見ていて、気になることがあると相談に乗ってくれます。

何か悩んでいるときでも、T先生から声をかけてくれるので相談しやすく、進捗報告もしやすくなります。T先生が着任してから職員室内のコミュニケーションが密になり、何か問題が起きても協力して対応したり、未然防止ができるようになったのです。

T先生は、組織に心理的安全性をもたらしてくれたリーダーでした。心理的安全性とは、「率直な意見を言ったり質問したりしても、あるいは助けを求めたりミスを認めたりしても、公式非公式を問わず馬鹿にされたり制裁を受けたりしないと信じられること」(ハーバード大学教授エイミー・エドモンドソン)です。

心理的安全性のある組織では、誰もが保身する必要がなく、よい結果を生むために協力できるので、組織にとっても働く人にとっても、よい成果を生みだすことができます。

このように、今は、さまざまなリーダーシップスタイルがありますから、内向型やHSP型にリーダーは荷が重いと決めつけないで、持ち味を生かしたリーダーシップを身につけていってほしいと願っています。

(吉田 美智子 : 臨床心理士・公認心理師)