やなせたかし先生 書き下ろしラジオドラマ台本を初公開!文化放送とやなせ先生の歴史【アーカイブの森 探訪記#1】
古い資料を確認していると、ある名前がひときわ目に留まった。あの「アンパンマン」の作者として知られる、「やなせたかし先生」だ。
「アンパンマン」で育ったといっても過言ではないほど幼少期から大好きな作品の作者の名前を、まさかこの資料の山の中から発見できるとは思いもしなかった。
実は、文化放送とやなせ先生は深いご縁で結ばれている。
昭和35年頃から数年間、さまざまな仕事を手掛けていたやなせ先生はラジオドラマの脚本も制作し、文化放送でも複数のラジオドラマを作成していた。その後の代表作となる「やさしいライオン」も文化放送のラジオドラマの依頼ではじめて制作されたものだ。
その他の作品も含めて、これまで一部の音源の保存は確認されていたが、それらの台本は発見することができなかった。
ところが今回、ある作品の台本が見つかったのだ。
当時「現代劇場」という国策パルプ提供の番組があり、オムニバス形式で様々なラジオドラマを放送していた。この中に収録されていたのが、ミュージカル・ファンタジー「チーラッタ号最後の航海」である。
音楽を担当するのは、童謡「歌えバンバン」や「男はつらいよ」シリーズの作曲でも知られる山本直純さんという、なんとも豪華な布陣。
生死の境を彷徨う人の乗る奇妙で悲しい船の物語で、少女役を石川絢子さん、ボーイ役を宮城まり子さん、船長役を三島雅夫さんが務めている。随所に特徴的な音楽・歌が挿入されていて、台本の修正の痕跡からもそのこだわりがうかがい知れる。
劇中に海賊キッド役の子供たちが登場するのだが、その中の一人として、幼少期の中尾隆聖さんが出演していた。中尾さんといえば、ばいきんまん役も務める名声優。やなせ先生とのご縁はこの頃から始まっていたのかもしれない。
やなせ先生はラジオドラマ制作を離れてからも、昭和56年2月には文化放送番組審議委員に着任、平成4年からは約6年半もの間番組審議会委員長を務めるなど、長きにわたり文化放送にご尽力いただいていた。
時を越えて憧れの先生とお会いできたことを、心より嬉しく思う。