「一言で言えない人」に足りないものとは?(写真:ふじよ/PIXTA)

「数字に弱く、論理的に考えられない」

「何が言いたいのかわからないと言われてしまう」

「魅力的なプレゼンができない」

これらすべての悩みを解決し、2万人の「どんな時でも成果を出せるビジネスパーソン」を育てた実績を持つビジネス数学の第一人者、深沢真太郎氏が、生産性・評価・信頼のすべてを最短距離で爆増させる技術を徹底的に解説した、深沢氏の集大成とも言える書籍、『「数学的」な仕事術大全』を上梓した。

今回は「一言で言うと?」という多くのビジネスパーソンが固まる質問を取り上げ、思考力の鍛え方を紹介する。

「一言で言うと?」に答えられない

今回の内容は一言で言うと、「抽象化する思考力」です。

さっそくですが、今から3つほどあなたに問いを預けます。ぜひその答えを考えてみてください。

Q あなたの仕事は一言で言うと何でしょうか? 

Q あなたの仕事がうまくいくためのポイントは一言で言うと何でしょうか? 

Q あなたにとって成功とは一言で言うとどのような状態のことでしょうか?

お気づきのように、この3つの問いにはある共通点があります。一言で言うと何かを求めているということです。


もしこのような問いに対して「考えるのが(答えるのが)面倒だな」と少しでも感じる方は要注意です。なぜなら、ビジネスパーソンとして必要なある思考法が備わっていないことを意味するからです。

私の提唱するビジネス数学とは、数学的に仕事ができるビジネスパーソンを育成することを指します。もちろんその守備範囲の中には、考える力を養うことも入ってきます。

私は企業研修などの場において、話題になったテーマについて、「一言で言うと何でしょうか?」と参加者のみなさまに尋ねるようにしています。すると、この問いに対して困惑した表情を浮かべたり、言葉が出てこないケースが散見されます。

ある研修で、ひとりの参加者と質疑応答をしていたときのことです。この方の説明が要領を得ず、話が冗長になってしまっていました。申し訳ないと思いつつ区切りのいいところで話を止め、私は「申し訳ありません。ここまでの内容を一言で言うと何でしょうか?」とお尋ねしました。

するとこの方はハッとした表情を浮かべ、あらためて説明をし始めます。しかし「一言」を求めているにもかかわらず、その説明はまたも要領を得ない話になってしまいました

私はこれまでこのような場面をたくさん経験してきました。多くのビジネスパーソンにとって「一言で言う」ということはとてつもなく難しいことのようです。

私のこの主張に対する、よくあるビジネスパーソンの反論は次のとおりです。

「一言で言えるような簡単なものじゃないんです」

もしプライベートであればそれでも良いと思います。生きる意味を問われても、なかなか一言で答えることは難しいかもしれません。大切なパートナーの魅力を尋ねられても、なかなか一言で答えるのは難しいかもしれません。

しかしビジネスシーンにおいてはあまり素敵なことだとは思いません。要領を得ず冗長な話ばかりする人や、物事の本質を捉えることが苦手な人に憧れるビジネスパーソンはおそらくいないからです。

「一言で言えない人」に足りないもの

では一言で言えない人には何が足りないのか。私の答えは、共通点を抽出する思考法です。

たとえば沖縄県に拠点を構えるある会社について考えてみます。この会社は飲食店を経営しており、さらに不動産業や高齢者の介護サポートなど、さまざまな事業を展開しているとします(この例は思考法の解説を目的にしているためにあえて極端な設定にしており、また沖縄県であることに特別な理由はありません)。

この会社のしていることは、一言で言うと何でしょう。このような問いを前にしたとき、多数の人は「一言では言えない」と考えてしまいます。

たしかに、この会社の事業は飲食店の経営、不動産業や高齢者の介護サポートなど、多岐にわたります。一言で言うのは難しいと主張してしまうことも理解できます。一方で、このような問いを前にしたときにあっさりと一言で表現できる人もいます。

なぜそれが可能かというと、飲食店、不動産業、高齢者の介護サポートの共通点を抽出しようとするからです。

沖縄で飲食店

沖縄で不動産業

沖縄で高齢者の介護サポート



共通点は沖縄



すべて沖縄の住民を豊かにしている活動

このような思考の結果、一言で言うと、「沖縄の住民を豊かにすること」と言語化できます

これはあくまで一例ですが、一言で言える人とそうでない人の違いを端的に表している例と言えるのではないでしょうか。つまり、一言で言うことに慣れていない人は、共通点を抽出する思考法に慣れていないということになります。

抽出という言葉の「抽」という漢字に着目してみましょう。この漢字は、「抽象化」という言葉にも用いられます。共通点を抽出する思考法には、この「抽象化」が必要不可欠です。

じつは、抽象化をもっとも体験できるのが算数や数学の授業です。たとえば「3個のリンゴ」と「3個のバナナ」では、何が同じで何が違うでしょうか。もちろん個数が同じで、果物の種類が違います。個数は数であり、算数や数学の言語になります。果物の種類は算数や数学の言語には(おそらく)なりません。そしてリンゴとバナナの共通点は果物です。

そういう意味で、「3個のリンゴ」と「3個のバナナ」は抽象度を上げると、まったく同じものと考えることができます。「3個のリンゴ」も「3個のバナナ」も、一言で言うならば「3個の果物」となります。

小学校時代の算数や中学校で学ぶ数学を「正しく」学ぶことは、抽象化とは何かを脳が覚えていくことに直結します。そこで「正しく」学ぶことができなかった人には、残念ながら大人になってからある症状が表れてしまいます。それが「一言で言う」というスキルの欠如です。あらためて、義務教育の質が人間の能力開発にとても重要であることがわかります。

大人のための義務教育

そういう意味で、ビジネス数学は大人のための義務教育と言っても良いかもしれません。リスキリングという言葉が常識になった現代。人間は一生のうち何度も新しいことを学んだり、かつての忘れ物を取り戻すために学び直しをしたりします。

義務教育が子どもの頃の一度きりというのは時代にもフィットしていません。そのような思いを胸に、多くの方に「一言で言う」というスキルを身に付けていただくため、これからも「一言で言うと何でしょうか?」と尋ね続けていきたいと思います。

最後に、冒頭でご紹介した3つの問いに対する私の答えをご紹介します。

Q あなたの仕事は一言で言うと何でしょうか? 

大人のための義務教育

Q あなたの仕事がうまくいくためのポイントは一言で言うと何でしょうか? 

良質な問いをし続けること

Q あなたにとって成功とは一言で言うとどのような状態のことでしょうか?

その良質な問いが不要な世の中になったとき

あらためて、あなたもこの3つの問いの答えを言語化してみることをおすすめします。

(深沢 真太郎 : BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家)