パナソニックくらしアプライアンス社が展開している賃貸住宅向けサブスクリプションサービス「noiful(ノイフル)」が、着実に事業を拡大している。賃貸住宅オーナーや住宅管理会社を対象に月額制で家電を提供。入居者は、家電付き賃貸住宅として、最新家電を利用できるようになる。すでに首都圏で1000戸で利用ができるという。2024年3月からは、家電だけでなく、家具もコーディネートした新たなサービスも開始した。さらに、同社では、東京・五反田のパナソニック目黒ビル内に、新たに「noiful studio」を開設。このほどその様子も取材することができた。現在のnoifulの取り組みを追うとともに、noiful studioの様子をレポートする。

賃貸住宅オーナーや住宅管理会社向けのサービス「noiful(ノイフル)」。「noiful ROOM」と「noiful LIFE」という2つの内容で展開している

○「noiful ROOM」と「noiful LIFE」、2つ内容で展開

noifulは、「持たない豊かな住まい方」をコンセプトに、2022年1月から開始した賃貸住宅向けサブスクリプションサービスだ。

空室率の改善や、家賃単価の上昇を考えている賃貸住宅オーナーや住宅管理会社向けに提供しているサービスで、パナソニックの最新家電と組み合わせることで、賃貸住宅に新たな価値を提供することができるのが特徴だ。

パナソニック くらしアプラインス社 ハウジングアプライアンス事業推進室マーケティング・コミュニケーション課主幹の田中真氏は、「賃貸住宅のオーナーが苦労しているのが物件の差別化である。共用部の差別化は行いやすくても、居室内は差別化しすぎると入居者が限られるということになりかねない。最新家電が利用できるという提案は、賃貸住宅の差別化として有効な手段のひとつとして評価されている」とする。

パナソニック くらしアプラインス社 ハウジングアプライアンス事業推進室マーケティング・コミュニケーション課主幹の田中真氏

noifulのサービスは、2つの内容で構成される。

ひとつめは、「noiful ROOM」である。パナソニックの家電製品をサブスクリプションで提供。「固定パッケージ」では、オーナーや管理会社の要望に応じて、部屋にあわせた家電をあらかじめ設置しており、入居者は最新家電をすぐに利用できる。また、「選べるパッケージ」は、入居者が必要な家電を選択でき、それを利用できる。すでに入居中の賃貸物件でも、このサービスを追加することができる。パナソニックと、オーナーおよび管理会社が結ぶサブスクリプション価格は、製品ごとに設定されているが、入居者に提供する価格は貸主側が自由に決定できる。たとえば、家賃に加えて、家電の利用料金を月額で徴収するといった方法や、家賃に含めて徴収するといった方法などが想定される。

noiful ROOMの特徴

パナソニックがnoifulで提供する家電製品は、ドラム式洗濯乾燥機や縦型洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、テレビ、BDレコーダー、ロボット掃除機、コードレススティック掃除機、ヘアドライヤーナノケア、美顔器、コーヒーメーカー、食洗機、空気清浄機、衣類スチーマーなど、約30品目に渡っており、選択肢が幅広い。最低3カ月からの契約が可能で、入居者にあわせて自動延長することになる。

「最新家電が使いたいが、高くて買えないといった場合も、サブスクリプションにより初期投資を少なくして利用できる。家電を借りるという新たな提案によって、豊かなくらしの実現をサポートできる。入居者にとっては、欲しい家電に手が届きやすくなり、入居したその日から快適なくらしをはじめられるというメリットがある」とする。

洗濯機や冷蔵庫、レンジの利用率が高く、なかでもドラム式洗濯乾燥機を選択する利用者が多いという。ここでは、購入するには高価だが、サブスクリプションであれば利用しやすいという理由もありそうだ。また、少し部屋が広い場合には、ロボット掃除機やオートクッカーなどの利用も多いという。

現在、大手デベロッパーが管理する物件などを中心に、東京、神奈川、埼玉の約1000戸でnoiful ROOMが利用できるという。

同社では、「noiful ROOM」の新たなプランとして、2024年3月から、家具を備え付けた賃貸住宅の提供を開始した。

ベッドやカーテン、照明などを選定し、家電と家具をコーディネートした部屋を提供。自分の時間を大切に過ごせるシンプルな空間を意識した構成を実現しているという。

「入居してすぐに家電が必要であるのと同様に、カーテンや布団もすぐに必要である。初めて一人暮らしをするという人にとってはメリットがあるサービスになる」とする。

家電および家具付きの部屋は、まずは、埼玉県川口市の「ザ・パークハビオ 川口」と、東京都豊島区の「ザ・パークハビオ 東長崎」の9 部屋で展開。家具のコーディネートはIKEA 港北が行った。

今後は、それぞれの土地やターゲット層に合わせて、家電と家具によって部屋をコーディネートし、家電や家具を持たずに入居し、捨てずに退居できるという、軽やかなくらしの提案の幅を広げたいとしている。

もうひとつのサービスは、「noiful LIFE」である。リノベーションした物件に、パナソニックの最新家電を組み合わせたサービスで、賃貸住宅向けの「空間×家電のリノベーション+賃貸管理運用」を実現するサービスと位置づけている。

noiful LIFEの特徴

リノベーション物件を対象にしているため、部屋内の生活動線から家電の収まりにまでこだわった空間をデザインすることが可能であり、家電を最適な場所に配置し、機能性を失わずに、室内の美しさにもこだった新たなスタイルの賃貸物件が提供できるようになるという。

オーナーの要望や物件の特性を踏まえた家電の選択が可能であり、家電を含めて入居者に提供するほか、仲介業務や物件管理なども請け負うという。

第1号物件となった東京都北区のnoiful base駒込では、築24年のRC造3階建ての物件を1棟フルリノベーションし、4タイプ6戸を提供。ビルトイン家具を用いたり、空間に溶け込む家電の配置を行ったりしているほか、業務用IHをダイニングテーブルに埋め込むといった新たな提案も行っている。リノベーション物件ならではの提案といえるだろう。また、オンラインでの内見予約や、スマートキーによるセルフ内見なども可能にしているという。

東京都北区のnoiful base駒込

「noifulbase駒込は、第1号物件ということなあり、パナソニックがオーナーとなって運営している。想定以上に埋まっている」という。

パナソニックでは、noiful LIFEの第2号以降の物件についても話し合いを進めている段階だという。

○「noiful」が目指す「持たない豊かな住まい方」

noifulの名称は、Not Owning Is Fulfillingの頭文字をとったもので、「持たざることは満たされること」の意味があるという。

noifulを活用することで、ストック住宅や空き家に新たな価値をつくることによって実現する「住まいの循環」、引っ越し時の家電廃棄を抑制し、リユースやリサイクルを促進する「モノの循環」、暮らしの変化にあわせて、持たずに軽やかに住まいを替える「くらしの循環」を生み出すことができるとしている。

オーナーや管理会社にとっては、物件の差別化に加え、家電の廃棄を減らすことによる環境対応へのメリットがあり、ユーザーにとっては、手軽に最新家電を利用できるとともに、家電の所有の仕方を変える手段のひとつになると位置づけている。

「noifulでは、3つの循環によって、社会とくらしが活性化されるエコシステムの実現を目指す」と語る。同社では、2030年に20万戸の利用を目標にしている。

経済産業省の調べによると、家電の廃棄台数は、2022年度実績で約1495万台にのぼり、リサイクル回収率は70.2%に達しているという。また、同社の調べによると、家電を購入するタイミングとしては、「使っていたものが壊れた」との回答が57.4%と最も多く、次いで、「使っていたものが古くなった」の48.1%、「引越しに合わせて」が42.3%となっている。

パナソニックでは、引越しは家電が廃棄されやすいタイミングである点に注目し、noifulの提案を加速する考えを示す。

「持たずに入居し、捨てずに退居できる、新たなサーキュラーエコノミーを構築し、持たない豊かな住まい方を提案できる」としている。



サブスクの台頭やイエナカの充実といったライフスタイルの変化と、空き家増加や家電廃棄の課題。noifulは3つの循環によってこれらに回答しようとしている

また、「noifulによる物件では、大学生や社会人になって初めて一人暮らしをする人たちからの反応が大きい。また、ライフスタイルの変化がある20〜30代の女性からの問い合わせや、郊外に自宅を持っていて、仕事のために都心に近いところでもう1拠点を持ちたいというニーズも対応している。さらに、社宅にnoifulの仕組みを導入する企業もある。これが社員獲得の手段にもなっているようだ。昨今では、海外から日本に留学する学生からの問い合わせが増えている」という。

家電と家具を組み合わせた物件では、当初1カ月以内の申し込みのうち、8割以上を外国人が占めているという。「海外では冷蔵庫やオーブンレンジ、洗濯機など、生活に必要な家電が賃貸物件に備え付けられていることが多く、来日してすぐに自力で物件に合う上質な家電を揃えるハードルが高いという点も理由になっている。noifulは、海外の方が、日本での生活を開始する際に、お役立ちができている」としている。

今後は、noifulの認知度を高めるとともに、サブスクリプションによる家電の利用という新たな使い方を浸透させるための取り組みにも力を注ぐという。

一方、パナソニック目黒ビルに新設した「noiful studio」は、noifulの導入を検討しているデベロッパーなどを対象に利用するスペースで、noifulの考え方を示したり、空間イメージを表現したりすることになる。

「リノベーションした物件に、パナソニックの最新家電を組み合わせたnoiful LIFEの提案を実際にみせることができる。物件そのものは、入居者がいると部屋を見せることができないが、noiful studio では、noifulが提案できる空間の様子を、いつでも感じてもらうことができる」とする。

○「noiful studio」の様子を実際に見てみる

では、noiful studioの様子を写真で見てみよう。

noiful studioの入口の様子

noiful studioのモデルルームの様子

noiful studioのモデルルームはワンルームを想定している

玄関に設置されているスマートクローゼット。除菌、消臭、しわ伸ばしができる

スマートクローゼットは閉めると鏡面になっており、ビルトインされたような仕様になっている

ドラム式洗濯乾燥機を設置している様子

ドラム式洗濯乾燥機の上の扉や横の扉が開くようになっている。ビルトイン風の設置が可能で、家電の更新の際にも便利だ

パナソニックの室内モノ干しユニットも活用。室内に洗濯物を干すことができる。送風機を設置して乾かしたり、洗濯物をたたむための棚を設置したりといった提案も可能だ

キッチンと洗面室の様子

食洗機はビルトインタイプを採用している

IHは専用の収納スペースを用意。電子レンジと併用することで、コンロは使用しないという提案だ

食洗器は一人ぐらしにも利用が広がっているという

noifulではキッチン家電の選択肢も広い

ロボット掃除機は専用スペースを用意して充電を行う

サブスクリプションでは人気のコードレススティック掃除機も選択できる

エアコンを目立たない形で設置できるようにリノベーションしている

リビングでの圧迫感がないほか、スピーカー付ライトも配置。リノベーションならではの提案だ

レイアウトフリーテレビは、部屋のなかを自由に移動できる

理美容家電もサブスクリプションで利用できる

インテリアにも馴染むデザインを採用した空気清浄機