生産性に対する不安は、職場と従業員にとってますます大きな問題となっている。従業員の10人中8人以上がその不安を経験しており、そのうちの3分の1近くが週に何度もそのような不安に悩まされているという。

人的資本管理(HCM)ソフトウェアソリューションを提供するワークヒューマン(Workhuman)の最新調査によると、この問題は極めて蔓延しており、より健康的で生産的な労働環境の促進を目指している組織は、直ちに対応する必要があることが判明している。

ワークヒューマンとコンサルティング企業であるギャラップ(Gallup)によると、生産性に対する不安は、「常にパフォーマンスを上げ、高い基準を満たさなければならないというストレスとプレッシャー」により生み出されるものであり、個人のウィルビーイング(幸せ)と組織の効率の両方に大きな影響を及ぼすものだ。

生産性に対する不安の経済的・精神的影響



こうした不安は米国の労働者のあいだで最大の問題のひとつと特定されており、年間12万人以上の死者数にもつながっている。また、世界保健機関の報告によると、うつ病と不安は毎年約120億労働日の損失をもたらし、世界経済に1兆ドル(約161兆円)の生産性損失をもたらしているという。

もちろん、生産性の損失だけにとどまらない。ワークヒューマンの調査によると、燃え尽き症候群による自発的な離職だけでも従業員の15〜20%を占めており、精神的な健康と従業員の定着率のあいだに直接相関関係があることが示されている。

従業員にとっては評価されることが重要



同調査では、日々の仕事体験の質が生産性に大きく左右されることも明らかになった。回答者は、ミスがあると「それはひどい日だ」と考え、一方で職場での良い日はプロジェクトのタイムリーな完了や、評価を受けることと関連づけている。

評価されることは、生産性に対する不安への強力な対策となるかもしれない。生産性への不安を軽減するのに何が役立つかを尋ねたところ、回答者の半数以上が自分の仕事を評価してもらうことが最優先の解決策であると回答した。続いて、より頻繁なフィードバックの必要性、ビジネスゴールに対して自分がどのように影響をもたらしているかについての従業員の理解の向上が挙げられた。

ワークヒューマンの人材分析・リサーチ担当シニアディレクターであるメイシャ・アン・マーティン博士は、評価を与えることが多い社風の重要性を強調して、「レジリエンスのある熱心な労働力を育成するには、リーダーは評価を与える文化を育み、オープンなフィードバックループを維持し、透明性を持ってリーダーシップを発揮することに注力しなければならない」とコメントしている。

ワークライフバランスの重要性と男女や世代による格差



一方、ワークライフバランスは従業員の健康にも不可欠である。調査によると、フルタイム従業員の74%がワークライフバランスがもっとも重要な福利厚生であると認識しており、その次にフレキシブルな勤務とメンタルヘルス面の福利厚生が続く。さらに、従業員の30%はワークライフバランスが雇用主と従業員のあいだの信頼を築くための主な原動力であると考えている。

しかしながら、従業員の4分の1が基本的な健康保険以上の福利厚生が不足していると報告しており、その影響はとくに女性に偏っている。女性の約3分の1は追加の福利厚生を受けておらず、支援に大きな男女格差があることが浮き彫りになっている。ワークヒューマンの調査によると、女性では3分の1が生産性に対する不安を週に複数回経験しているのに対し、男性では25%である。

この調査結果は、従来の職場構造や福利厚生が女性のニーズに適切に対応していない可能性を浮き彫りにしている。社会的な期待と役割ゆえに女性が直面するプレッシャーは増え、それが不安につながり、利用できる福利厚生の有用性が低下すると感じられている。

同時に、若い世代、とくにZ世代は組織のリーダーシップに対する信頼レベルは低い。信頼していると回答したのは全体平均では約60%だったが、Z世代では半数だった。この不信感に寄与する要因としては、雇用不安の増大や解雇の可能性などが挙げられる。経済的および社会的な変化の激しい時期に就職していることなどのZ世代特有の課題により、この世代の燃え尽き症候群や仕事において途方に暮れる感情などがさらに悪化している。

ウェルビーイングは権利だと認識する必要性



職場コンサルタントのジェニファー・モス氏は、組織がウェルビーイングに取り組む方法を根本的に変えることを提唱している。「ウェルビーイングは特権ではなく権利であると認識しなければならない。現在は有害な生産性の時代だが、そうなったのはなかなか抜け出すことのできない悪習の結果だ。我々は、過剰に会議を行い、過剰ともとれるフィードバックやコミュニケーションを行ってるが、それでも『いつも至急だ』と感じている」。

同氏は、福利厚生プログラムではなく職場の実践が解決策であると特定したオックスフォード大学の最近の研究データを引用しながら、ウェルビーイングは仕事量とは一致していない点を強調する。

生産性に対する不安により女性には具体的にどのような影響が及ぶかについて、モス氏は「家庭での責任をこなすために女性には依然として過度な負担が課せられている」と述べる。コロナ後の時代の多く研究では、解決策のひとつとしてリモートワークが挙げられている。

カナダ統計局の最近の報告では、リモートで働く従業員は毎日約1時間の通勤時間を節約して、睡眠や家事、育児に充てられる時間が増えることが判明している。モス氏は、これにより仕事の柔軟性が「単なるボーナスや特権ではなく、重要なニーズであることが示されている」と考えている。

[原文:Have we entered an era of ‘toxic productivity’?]

Tony Case(翻訳:ぬえよしこ、編集:島田涼平)