映画『つゆのあとさき』高橋ユキノ インタビュー 「苦しさを抱えている方へ一人でも多く届くことが出来たら」
文豪・谷崎潤一郎に激賞され、昭和初期の銀座の風俗史を描いた永井荷風の名作小説を、物語の舞台を現代の渋谷に置き換えて実写化した映画『つゆのあとさき』が現在公開中です。
小説『つゆのあとさき』は昭和初期の銀座のカフェーを舞台に自由奔放だが逞しく生きる女給の主人公と彼女と関係を持つことになる軽薄な男たちを描いていますが、今回の映画では小説の持つ普遍性を踏襲しながら、時代をコロナ禍の渋谷に置き換え、さまざまな事情でパパ活をすることになった女性たちのリアルな青春を描く令和の今を映した作品です。
“パパ活をする女性たち”の配役はオーディションで選ばれ、約200名の中から主演に選ばれた新人の高橋ユキノさんが主人公・琴音を熱演。ご本人にお話をうかがいました。
■公式サイト:https://tsuyunoatosaki.com/ [リンク]
■高橋ユキノ
1998年生まれ、千葉県出身。舞台芸術学院在学時に芝居を勉強し、卒業後、2018年 劇団橙「妥協点P」のヒロイン宮竹役で本格的に女優として活動を始める。主な出演作は、『遠吠え』ヒロイン(22/シェーク・モハメド・ハリス監督)、関西クィア映画祭で最優秀観客賞を受賞した『私の愛を疑うな』主人公(23/浅田若奈監督)ほか。24年度前期朝ドラ『虎に翼』にも出演を果たしており、今後も待機作が多数の注目の若手俳優。
●今回の作品、出演が決まった時、いかがでしたか?
その時確かCM撮影終わりで外にいたのですが、「決まったよ」とマネージャーさんからご連絡をいただいて、人目もはばからず号泣してしまいました。その涙はわたしが琴音を演じていいのだという嬉しさ喜び、それと同時に責任感も込み上げてきて流れたものでした。
●琴音というキャラクターには、どう向き合おうと思いましたか?
彼女の生業における特殊性はありましたが、どういう人間なのかということにフォーカスして考えていくことにしました。琴音は他者と一線を引いていて、相手によって仮面を変えて生きている女の子でした。映画の中で素顔をほとんど露わにしないからこそたくさん準備することや、考えることがあるなと思いました。
その中でも20歳の彼女の何層にも重なったフィルターの核のところには何があるのかを一番に考えることにしました。
●また、渋谷という街が舞台になっていますが、琴音を演じる上で何か影響はありましたか?
この映画において渋谷の街は大切な要素のひとつで、琴音は街中をたくさん歩き回っています。その渋谷の街を歩く彼女の背骨の感じは、どんなものかと考えました。なので、彼女の街の見え方を捉えることが大切だろうなと。彼女にとっては、ひとつのジャングルのような場所。そこで生き抜く姿を表現したいと思っていました。
●監督は琴音についてどのようなリクエストをされましたか?
山嵜監督には「人をちゃんと描きたい」と言われていたので、アイコン化された渋谷にいそうな女の子像ではなく、琴音という人間で考えるようにしていました。
山嵜監督が、コロナ禍に知人の紹介でパパ活を生業にしているひとりの女の子と出会ったことからこの企画が始まったとうかがいました。映画の成り立ちとしても、リアルな出会いから始まっているので、その街に“生きている人”のゆらぎを描いた作品になっていると思います。
●最初に号泣されたと言われていましたが、琴音そのものに惹かれたところはありましたか?
それこそ自分が琴音くらいの年代の時ですが、心が荒み不安定だった時期がありました。都会を歩いていたら涙が流れてしまうくらい、自分の目に映る景色の全部が汚く見えるような時期がありまして。怒りや悲しみを自身の内側ですら言語化できず、ただただ悶々としていました。
わたしの場合はやがてお芝居に出会い、そしてお芝居を通して様々な方に出会い、街の見え方を変えてやると思って、そこから少しずつ自分自身が変わっていきました。琴音という役を最初に演じたいと思ったのは、自分の煮詰まった部分を自分でも感じないようにして生きていく彼女の孤独に寄り添いたくなったのかもしれません。
●内面的に琴音だった時期があったわけですね。
他者との出会いなくして自分だけの力で街の見え方を変えることは難しいことだと思います。一人一人が抱えるそれぞれの孤独に、琴音の物語を通じて少しでも寄り添える物語になっていればいいなと思いました。この世界を一生懸命に生きる人のもとへ、一人でも多く届くことが出来たらと思います。
●今日はありがとうございました!
■ストーリー
キャバクラで働いていた琴音(20)は、コロナ禍で店が休業、一緒に住んでいた男に家財を持ち逃げされ、家賃を払えなくなり、行き場を失ってしまう。そんな中、知り合った楓(21)の紹介で出会い系喫茶に出入りするようになり、男性客とパパ活をすることで日々を切り抜ける生活をしている。
客に絡まれたりネット上で中傷をされたりしながらも、逞しく生きている琴音は、あることがきっかけで、同じ出会い系喫茶でパパ活をする大学生のさくら(20)と出会う。生まじめで何事も重く受け止めてしまうさくらと琴音は不思議とウマが合い、友情を深めていくのだった。体目当ての矢田(42)、IT企業の社長でパトロンでもある清岡(36)、容姿端麗なダンサーの木村(28)ら軽薄な男たちと、生活のため、ホスト通いのため、学費のため、様々な理由でパパ活をする女性達の対比で物語は進んでいく。
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(執筆者: ときたたかし)